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かがみふみを先生インタビュー【きみといると/1DK】

かがみふみを先生は20年近くの漫画家業の中で、成年向け・4コマ誌・一般向けと様々なジャンルを渡り歩きながら、一貫してラブラブな男女の、「あまあま」な恋愛模様を描いてきた。しかし、デビュー当初から現在の作風を確立していたわけではない。まずは先生の足跡を辿りながら、現在の作風へと移り変わった理由をお聞きする。さらに今回マンガラボ初の試みとして、先生にプロット・ネームといった資料をご提供頂いた!多角的な視点から、漫画家かがみふみを先生の創作活動に迫る!

1章:「あまあま」な作風になったワケ
2章:大公開!!先生直筆のプロット&ミニネーム
3章:創作だけには留まらない!?「あまあま」な作品を描くときの気持ち


「あまあま」な作風になったワケ


初めて漫画を描いたのはいつ頃でしょうか?

かがみふみを先生(以下かがみ):コマを割って漫画を描いたのは中学生のときです。当時流行っていた士郎正宗先生の『アップルシード』を真似して描いたような、オリジナルと呼ぶには程遠い作品だったと記憶しています。

現在の作風からは想像出来ないですね(笑) 学生時代は、どういった作品がお好きだったのでしょうか?初期の作風からは、少女漫画からの影響が強いように感じるのですが……

かがみ:おっしゃる通り、子供の頃から少女漫画が好きでした。兄が漫画好きで、沢山の漫画を持っていたんですが、その中で僕が特に好きになったのが何故か少女漫画だったんです。中高の頃は、りぼん・なかよし・ちゃおから、マーガレットなどなど、とにかくたくさん読んでいました。
「人が人を好きになる瞬間」を見るのが今でも好きなので、おそらく少女漫画のそういう要素に惹かれたのだと思います。今になってみると、当時読んでいた作品の記憶は殆ど残っていないのですが、僕の作品を読んだ方が「少女漫画から影響を受けているな」と感じる程度には心に残っているのだと思います。

学生の頃、漫画研究会のようなところには所属していましたか?

かがみ:中高の頃は、そもそも周りに漫画を描くような友達がいませんでした。大学に入ったときは、漫研に入ろうと思って説明を聞きにいったのですが、何かの手違いで「ここで待っていて」と言われた場所に何時間待っても誰も来なくて……そのまま入るのを断念してしまいました。

そ、それは災難だったとしか言えないですね……それでは、当時は持ち込みや投稿などの活動をされていたのでしょうか?

かがみ:いえ、全然していませんでした。当時はプロになるつもりは全くありませんでした。
その代わり僕は、いくつかの同人サークルの方とやり取りをしていました。当時は同人サークルのメンバー募集の投書が沢山載ってる雑誌がありまして、それを見て連絡を取って文通しながらコピー誌を作ったりしていましたね。最終的に、3~4のサークルに所属していました。

なるほど、同人サークルでの活動に力を入れていたんですね。そこから、商業デビューに至ったのはどのような経緯があったのでしょうか?

かがみ:当時の文通相手から成年向けの同人誌に呼んでもらって、ほんの数ページのエッチな漫画を描きました。それが、人生ではじめて描いたエロ漫画でした。その同人を主催されていた方が、平和出版というところの雑誌でお仕事をされていたんです。その同人誌を平和出版の編集の方が見て、「君の漫画が目に留まった」と声を掛けて頂きました。

はじめて描いた成年向けで、いきなり本業の方から声がかかるとはすごいですね!とはいえ、一般向けでなく成年向けから声がかかったときはどのように感じましたか?

かがみ:単純に「目に留まった」と言われたのが嬉しかったですね。成年向けだからどうこうというのは考えなかったです。当時はすでに社会人だったのですが、若干貧乏でしたので副収入が入るというのはとても魅力的でしたし、それに一度でいいから原稿料の出る絵を描いてみたいというあこがれみたいな物はありましたからね。そんなわけで最初は自分の原稿が雑誌に載って嬉しい、ぐらいだったんですが、いつの間にか商業で描くことが続いていた……という感じですね。

デビューまでの流れに加え、もう一つ先生のターニングポイントとして、作風の変化が挙げられると思います。成年誌での初期の作品では、ハッピーエンドとはいえないダークな面が見られるものが中心でした。そこから、現在の「いちゃラブ」方面へとシフトされたのはなぜなのでしょうか?

かがみ:それには色々なきっかけがあります。まず、当時は私生活で感じたこと―たとえば、付き合っている人が他の異性の人と楽しく遊んでいるのを見て嫌な気持ちになったりをダーク目に描くのがカッコいいと思っていました。しかしそうやって、自分の身の回りの出来事を作品として描くのは、周りの人を不幸にするんじゃないか、そもそも自分にとって良くないんじゃないか……と思い始めていたんです。
それと、詳しいことは言えないのですが、私生活で不幸のどん底と言えるような状況に陥ってしまったんです。自暴自棄になって、手持ちの漫画を全部売ってしまったり、派手に遊んだり飲み食いしたりでどんどん貯金を食いつぶしたり……最後母へのプレゼントでガスコンロを買ったときに、はたと気づいたら預金残高が5万円になっていました(苦笑)

何か壮絶なことが起きたのはよく伝わってきます……そこから、どのようなきっかけがあって浮上することができたのでしょうか?

かがみ:お金も底を尽きて外に遊びに行くこともなくなって一人部屋でずっと見続けていたのがNHK教育(現在のEテレ)の子供向け番組だったんです。そういう番組ってたとえば、誰かと手を繋ぐ、それだけで嬉しいみたいなとてもシンプルなメッセージがまっすぐに込められているんですよね。そういう、単純かつ大事なコトを、伝えるというところに強く惹かれたんです。余談ですが、僕が「むぎゅう」という擬音を使ったりするのは、NHK教育の幼児向け番組『いないいないばあ』の影響だったりします。
現実で打ちのめされていると、せめてフィクションの世界では和みたい……という気持ちの変化もあったと思います。それと読んで下さった方が「自分もこういう恋愛がしたいな」と感じてもらえるようなものを描きたいとか、それにさっき言ったシンプルで強いメッセージを描けるようになれたらな、と思うようになったのが、今の作風になったきっかけですね。

かがみ先生のラブコメの原点が、子供向け番組とは予想外でした。
作風が変わってから、その後成年誌でいくつか作品を発表した後、一般誌に移られますよね。どのようなきっかけがあったのでしょうか?

かがみ:竹書房さんとは、編集者さん同士の飲み会を通じて、自分を使いたいという編集さんと平和出版の担当さんとの間でツテができたことがきっかけでした。
双葉社さんとは、平和出版から出され、2~3回で廃刊してしまった4コマ誌に載せてもらっていたショート漫画を双葉社の編集さんが読まれて、誘ってもらったという感じです。

成年向け・一般向け・4コマ誌など、多方面で掲載経験をお持ちですが、振り返ってみて1番大変だったのはどのジャンルでしたか?

かがみ:今でも断言できるのは、「成年向け漫画は難しい」ということです。理由は、どんな事があろうともとりあえずは必ず性交渉のシーンを描かないといけないからです。そこさえクリアすれば後は自由……なんて昔はよく言われていましたが、それでも3分の2くらいのページはそのシーンに割かないといけない訳じゃないですか。展開も、そこから逆算して作らないといけないですし。僕は話作りの幅が狭いですから特に厳しかったです。当時はとにかくなんとか描いてましたが、一般誌で描くようになって改めて振り返ると、「良く描けてたな」と我ながら思います。成年向けで何年も続けていらっしゃる方は、本当にもの凄い人だと思います。

大公開!!先生直筆のプロット&ミニネーム

ネームを切るときの手順を教えてください。

かがみ:最初はまずどんな内容にするか、大まかなメモを書いていきます。僕の場合、ほぼ文字だけのことが多いです。どんな話、どんな流れにするとか決まった時点で、今度はどういう風にページ数を振り分けるかのメモを作っていきます。次にそれを見ながらミニネームを作ります。ひとつの紙に全ページが収まるような感じで、見開き単位で小さな四角をいくつも描き、それに簡単なコマ割やこの辺りでこういう台詞を入れるといったようなことを決めていきます。最終的に、編集さんに見せる用のネームを描いて完成という流れです。

例として、『きみといると』の1話から。まずはプロットでおおまかな話の流れを作る。

ネームを切る際注意しているポイントはありますか?

かがみ:展開やシーンを詰め込みすぎないように気を付けているのですが、なかなかできていないですね……コマが多くなってうるさい感じになっちゃうし、台詞も量が多くなりがちなので気を付けているつもりです。1ページ8コマとか詰め込まれたページがずっと続くと読んでいて疲れてくるじゃないですか。詰めるところは詰めていくこともありますけど、基本的にコマの数やバランス、テンポみたいなことは考えているんじゃないかと思います。

次に場面の割り振りを決める。ページ数が決まっている連載漫画にとっては重要な作業だ。

あるいは、ここはこだわっているというポイントはありますか?

かがみ:ここはという台詞に関しては、なるべくリズムよく読めるように気をつけています。「……って思って。」みたいに、小さい「っ」とか使うのが好きなんですよ(笑) セリフを読んだときの、リズムやテンポのよさ、音の楽しさみたいなものは考えています。

全体の流れ・だいたいのコマ割を確認するための、先生用ミニネーム。本番の前に一度、1枚の紙にまとめたミニネームを切るという漫画家は多い。

現在使っている画材について教えてください。

かがみ:2001年辺りから徐々に原稿を描く際にPCを使うようになりました。最初はスキャナで絵を取り込んだ後にトーンや着色をしていました。ちょうど双葉社さんの「ちまちま」から液晶タブレットを使い始めました。いわゆるフルデジタル化という奴ですが、正直画力に難があるのでちっともそんな風に見えないですよね?(苦笑)
まあでも下手は下手なりに使用するソフトを変えたり、液晶タブレット自体も代替わりさせたり。タブレットペンの芯も色々試したりショートカットキーの入力にゲームに使うらしい左手用の入力デバイスを使うようになったりと、常に試行錯誤はしています。

作画工程についても教えてください。

かがみ:アシスタントさんがいると、仕事を回す内に型が決まってくるかと思うんですけど、僕の場合は一人で描いているので毎回試行錯誤ですね。ネームにOKをもらってから、僕の場合は下絵ができた段階で一度担当さんに見せています。そのあとの原稿作業の流れは毎回自由です。手慣らしみたいなつもりと、ビビリな性格からか簡単にペン入れできそうなところから先にやっちゃうことが多いですが、1ページ1ページ順にやっていった方が調子が良いときはそのまま描き進めていきます。本当は、決まったルーティーンがあれば効率良く進むと思うのですが……

作画の際、こだわっているポイントがあれば教えてください。

かがみ:作画とは直接関係がないのですが、もし長期間かつ長時間執筆を続けようと思われるなら椅子は自分に合ったちょっと良いものを考えてみるのがいいかもしれないです。若い頃は体も丈夫でかなり無理が効くとは思うのですが、長時間座り続ける時の身体、特に腰の負担を軽くしてくれる椅子があると本当に助かりますよ。

先生の作品といえば、感情が溢れんばかりの赤面描写が特徴的だと思います!なにか描いているときに意識していることはありますか?

かがみ:読者の方には「赤くなりすぎだろ」みたいなこともよく言われるのですが(笑)、実は赤くすることに関してはあまりこだわっていないです。あれは自分でもやりすぎだな、と思うことが常々あります。ただ、読んでいて「こいつらアホだな~」みたいな、ちょっと微笑ましい気持ちになってもらえたらという期待を込めながら描いていると、自然にあの感じになっちゃうのだと思います。実際のところは、もうちょっと穏やかな感じで、一緒にいてダラーっとしているのが幸せみたいなほうが好きだったりするんですが(笑)

様々なラブコメ作品を描いていらっしゃるかがみ先生ですが、作品を描いているときは男の子と女の子のどちらに感情移入しているのでしょうか?

かがみ:これは読者の方に言われたことなのですが、「『きみといると』から、描く時の視点が親目線に変わっているように見えた」そうです。僕の場合計算して描いている人間ではないので、もしかしたら私生活の変化がそのまま関係して、物を見る目が若干変化したのかもしれません。今は登場人物に感情移入するというよりも、「こんな恥ずかしい目にあってどうだ君たち」「これは赤くなるしかないだろう」みたいな感じで描いているのかもしれませんね(笑) 『ちまちま』などを描いていた頃はもう少し違ったのですが。

それは、具体的に教えてください!

かがみ:恥ずかしい話ですが、『ちまちま』の主人公の女の子はかなりの部分、自分そのものという感覚で描いていました。自分の中に、身長140cm台の小さな女の子がいる感じで。白馬の王子様に対する憧れというか、自分を認めて拾い上げてくれる人がどこかにいるのかしらと空想したり……それを、大柄なおっさんが言っているので、随分気持ち悪いかとは思うのですが(笑)

少女漫画がお好きだったというのと関係するのかもしれませんね。逆に、近年お描きになった『好きとっと!?』は、かなり男性向けに寄せたラブコメ作品となっていましたが。

かがみ:あれは描いていてかなり苦労した作品です。主人公の男の子を好きになる女の子が、複数現れる訳じゃないですか。そうして男の子にとっておいしいシーンを、ひたすらおいしく描かないといけない。サブヒロインが主人公と仲良くしてると僕の感覚だともうメインヒロインが可哀想で可哀想でしょうがなくなってしまうんです。それでメインヒロインが嫉妬したり悲しくなったり・・・みたいな湿っぽい展開ばかり浮かんできて。全然楽しい漫画にならない(笑)そういうのを随分担当さんが苦心して軌道修正してくださいました。
あれが1番好きと言ってくださる読者の方もいらっしゃって、大変有難いのですが、同じような作品をもう一度描くのは少なくとも一人では出来ないんじゃないかと思います。

やはり、女の子の気持ちのほうを優先的に考えてしまうようですね。
最後にお聞きしたいのですが、様々なエピソードを描き分けていらっしゃいますが、その間にラストをどのように終わらせるかを想定していたりはするのでしょうか?

かがみ:僕の場合は、考えてるのは細かいエピソードとかシチュエーションとかそういうことばかりで、起点があって結末がある一連なりのお話を描くことにはあまり興味がないんだと思います。一般的にストーリー漫画といえるようなものを描いていないですし、描きたいと思っても描く技術がきっとないのだと思います。
なので作品のオチも、作品が終わりそうな雰囲気が出てきたぐらいでゆるっと考え始めるので(笑)、その前の段階でどういう話にするかはほとんど考えていないですね。
『1DK』も、最初の内は続くんだったら続けられるだけみたいな気持ちで作り始めていたのですが、「1冊で完結させてください」とあとから言われて「そ、そうか、なんかオチをつけないと」と慌てた記憶がありますね(笑)

それでは漫画家を目指す学生の方へのメッセージと、今後の目標を教えてください。

かがみ:僕も今漫画家を目指してるところです(苦笑)振り返ってみると20年近く漫画で仕事をしているのですが、いまだに自分自身が「漫画家になれた」と思ったことがないんですよね。そんな訳でメッセージを・・・と言われると困ってしまう(笑)
「お互い頑張りましょう!」という感じでしょうか。
「お前に言われなくても頑張ってるよ」「お前がもっと頑張れよ」とか言われそうですね(苦笑)
今後の目標はそんなわけでいつか「あ、俺漫画家だな」って思えるようになりたいです。もう歳も歳なので「いつか」と言わずなるべく早くそう思えるようになれたらいいなと思います。