『pupa』アニメ放映直前!原作者茂木清香先生インタビュー
「食べたい食べたいお兄ちゃんを食べたい!!」「兄ちゃんの肉を…っ喰いちぎってくれ!!」鮮烈なキャッチコピーに違わない強烈な内容を引っ提げ、創刊間もない『コミック アース・スター』から誕生した作品が『pupa』だ。ある日、公園で「赤い蝶」を見てから、ヒトを食わずにはいられない化け物となってしまった妹の夢(ゆめ)と、その妹のため「生き餌」となることを決意する兄、現(うつつ)。兄妹による究極の純愛劇とカニバリズム的要素が組み合わさった本作は映像化不可能と思われていたものの、なんと今秋からのアニメ化・放映が決定しており、ファンは今か今かと待ち構えている。
マンガラボは作者である茂木清香先生を直撃し、『pupa』の誕生秘話や作品のルーツを探るインタビューを敢行した!
「究極の兄妹愛×カニバリズム」な作品はどのようにして生まれたのか
まず、どのようにして『pupa』という異質な作品が生まれたのか教えてください。
茂木清香先生(以下茂木):本当に最初のところでは「少年と化け物」を題材にした漫画の案と、「人を食べたくてしょうがなくなった病気にかかってしまった女の子を、どうにかして治したい男の子」みたいな漫画の案がポンポンと2つ、形にならないままあったんです。そうしていたら、落描きしている内にその2つが重なる瞬間があって、「これでいけるんじゃないか?」と思ったんです。
二つのアイディアの融合として生まれたんですね。少年と化け物というのは、少年が化け物と闘うようなお話なんですか?
茂木:いえ、逆に2人が寄り添って生きているみたいなイメージですね。なにか大きなものと、人間が触れ合っている姿を描きたかったのを思い付いたまま、しばらく放置していたんです。
『pupa』はアーススターで新人賞を受賞された作品がもとになっているようです。投稿された作品と現在の連載で何か変化した所はありますか?
茂木:特にはないですね。もともと新人賞に応募したというよりは、先にコミティアの出張編集部で知り合った担当さんといろいろ話をしていく中で、連載案として突き詰めていきました。ですので、特に大筋は変わってないですね。新人賞の作品が、ちょうど1話目になるような感じで描いていきました。
それでは次に、主要キャラクターである「夢(ゆめ)」と「現(うつつ)」がどのように固まっていったのかについてお聞きしたいのですが。
茂木:夢に関しては、醜い化け物に変身するという設定があるので、少なくとも人間のときは可愛らしく守ってあげたくなる感じにしようと思いました。
現は、なにせ自分の肉を妹に喰わせるまでの行動に出なきゃならないので、現自身もよっぽど歪んでいなければキャラクターとして成り立たないだろうなと思ったんです。そこで、両親とか家庭に対してのコンプレックスみたいなのが強く、その裏返しとしての極度なシスコンというキャラにしていこうという風になりました。
キャラクターデザインはどのように決まっていったのですか?
茂木:夢は、最初はもうちょっと大人びていた感じでしたね。でもキャラを固めていくうちに、もうちょっと可愛く、もうちょっと可愛くってなっていった結果最終的にあんな感じに……現はあんまり変わってないですね。
現の目の傷も最初から?
茂木:心に傷を負っているというか、その印みたいなものを付けておきたいなと思ったんです。あと、蛹が羽化する時の裂け目みたいなイメージもあります。
デザイン的なところだと、夢の変身した時の姿は何かモチーフがあるのですか?
茂木:特に意識はしていないですけど、ヌメッとした感じというか、植物と虫と動物を組み合わせた感じにしたいなぁと思いながら描いていましたね。
ヤングチャンピオン烈で描かれた読み切り『収穫祭の女』も、植物と人が組み合わさったデザインでしたね。
茂木:元々クリーチャー系が好きなんですよ。子供のころからどっちかっていうと、そういうモンスター系ばかり描いていましたね。
クリーチャーにはまったきっかけはなんですか?
茂木:自分の場合はゲームですね。『ロマンシング・サガ』とかで、クリーチャーがバーっと出てくるところを、ドットで再現されているのを見てすごくかっこいいなと思ったんです。特にあの頃のゲームって、人間が二頭身なのに対して、クリーチャーだけすごいリアルに描かれているじゃないですか。ああいうのが好きで、ずっと落書き帳に真似して描いていたのを覚えています。
題名にもなっている「pupa(蛹)」というモチーフを取り入れようと思ったのはなぜですか?
茂木:主人公2人の関係性を見てみると閉じた世界というか、2人の中で完結しているように感じました。なので、思春期独特の閉塞感や成長しきってない感じ、あるいは中身が外側を喰い破って出てくるみたいなイメージとして蛹がぴったりだと思ったんです。結局設定そのものが、蛹というイメージに行き着く感じになっていたので、これはもう「蛹」という言葉を軸に作品を作ろうと決めたんです。
キャラクターは他にもいますが、そのあたりはどのように出来ていきましたか?
茂木:マリアは、立ち位置的にやりたい放題やって物語をハチャメチャにする人物が欲しいなというのがありました。蛹として身動きできない主人公たち2人と対比できるようなキャラというか、兄妹2人だと、そのまま閉じた世界で完結してしまう物語を横から揺さぶる役割ですね。
両親は現のキャラを固めるために出来たのだと仰ってましたが、両親のキャラがどのように固まっていったのかを教えてください。
茂木:とにかく現に強烈な危機感を抱かせるためのキャラクターですね。幼いころからの植え付けみたいなのが欲しかったので、それならDVかな、という感じで要素を入れましたね。
父親がこんなにも暴力を振るってくるのに眼鏡なのかっていうのが意外だったのですが。
茂木:眼鏡と暴力は合うんじゃないかと個人的に思っています。何か狂気を宿している感じが出るんじゃないかと。
読み進めてくるとただ単に暴力を振るう父親ではなくて、あの暴力にも実は意味があるみたいなのが出てきますね。
茂木:一応どのキャラにも、「蛹」として外側で見えている部分と暴いた時の中側があるように意識してキャラ設定をしています。ちょうど3巻頃から、父親の中身が出てきはじめた訳です。
直接的なカニバリズム描写がありますが、それを一般誌で描くことに何か迷いや躊躇はありましたか?
茂木:止められなければ大丈夫なんだろうくらいで描いていますね(笑) あまり戸惑いは無いです。
作中で食事シーンのことを「情事」といってたりもしましたが、そういったイメージを持たせるのは意識して描いているのですか?
茂木:食欲と性欲は似たところがあるというか、食事というのを突き詰めるとなかなかにエロティックな部分があると思うんです。だから食事シーンに関しては、グロいというよりエロティックさが伝わったら嬉しいなと思っています。そもそも、グロ漫画という意識で描いていませんしね。
どちらかというと、グロさではなく兄弟の純愛さを引き立てるものとして。
茂木:そうですね。純愛モノの一要素として目立つようにしたいなと思っています。
グロテスクだったりシリアスになったりするパートと、間に挟まれる日常パートや巻末のオマケ漫画のファンシーな部分とのギャップがすごく大きいですね。
茂木:主人公2人はかなりえげつないことに巻き込まれるので、せめてそうじゃない部分は平和なところに置きたいというか、それこそ蛹の外側と内側じゃないですけど、パキッと分かれるようにしたかったんです。学校の話は出来るだけ明るいものにしたいなと。
結末までの流れはすでに想定されていますか?
茂木:そうですね。もうあらかたは連載前から決まっていて、少なくとも3話目を描き終わるまでには、こういう話でいこうとすでに決めています。
茂木清香先生ってどんな人?『pupa』のルーツを探る!
絵や漫画を描き始めたのはいつ頃ですか?
茂木:ノートにコマを割って描き始めたのは小学校3年生ぐらいですかね。ちゃんと原稿用紙にペンとかを入れて形にしたのは中3ぐらいです。
漫画家を目指すようになったきっかけはなんでしょうか。
茂木:きっかけとかは特には無いですね。小学校に上がる頃には漫画家になりたいと思い、そのままここまで来ている感じですね。
まさに卒業文集に「夢は漫画家です」と書いている感じだったんですね。
茂木:それが本当に書いてあるんです。あれを引っ張り出されると恥ずかしい……
学生時代のころに好きだったり、影響を受けたりした漫画作品はありますか?
茂木:もともと親が漫画好きで、気付いたら周りに漫画があったんです。なので、ほぼ親の趣味で固められたところがありますね。特に良いなと思って読んでいたのは、『軽井沢シンドローム』のたがみよしひさ先生です。二頭身と八頭身のキャラが一つの作品にまとめて描かれていて、そういう一見違ったジャンルのものを、一つの作品にまとめるのがすごいなと思っていました。あとは新谷かおる先生とかが好きでしたね。
大学は、武蔵野美術大学映像科がご出身とのことです。進まれたきっかけは?
茂木:漫画家になりたかったので、美大で力を付けれれば良いなというところから、中学時代から行くことを考えていました。それにはとにかく絵の勉強をしないといけないと思って、高校は美術科のあるところに進学したんです。最初はデザイン科を目指していたんですけど、あるとき先輩から「意外に映像科も面白いよ」といわれて、映像科も候補のなかの一つに入れ始めました。
最終的にデザイン科と映像科でいくつか合格してどちらを選ぼうとなったとき、映像科に関しては未知数だったので逆に面白そうだと思ったんです。あと、それまでパソコンにまったく触っていなかったので、強制的にパソコンに触れる環境にいれば何か新しい道が開けるんじゃないかなと。あんまり良い理由ではないですね(笑)
在学中にはどのようなことをやられていましたか?
茂木:写真を撮ったり、アニメを作ったり、授業の中の一環で実写を撮ったりと色々ですね。ただ授業を受けているときも、これ何か漫画に活かせないかなぐらいのスタンスでやっていました。映像科じゃなかったら知らなかっただろうなということに触れられたのは、すごくためになったと思います。
特にあまり一般的でない映像作品を授業でバンバン教授が見せてくれるので、そういう作品をいっぱい観れる機会があったのが一番良かったです。一度授業で、描写がかなり過激なものを観て失神したことがあるんです。おそらく、その印象が『pupa』にかなり繋がっているような気がします。
観ただけで失神するとは、一体どんな作品だったのでしょうか……ご卒業後は、様々な雑誌に投稿を。
茂木:アフタヌーンに最初投稿したときは、ギャグ漫画だったんです。とにかく先に作品を描いちゃって、これをどこに投稿したら良いんだろうと考えたときに、一番間口が広そうなところということでアフタヌーンに投稿しました。担当さんもついていろいろアドバイスも頂いたんですけど、そうやっているうちに別ジャンルでも描いていきたいなと思い始めて。いろんな人の意見を聞いたほうが最終的に成長できるんじゃないかということで、とにかくいろんな出版社に作品を見てもらうことにしました。
『pupa』でデビューされるまで、どれくらいの作品を描きましたか?
茂木:ペン入れまでして完成させたのは、賞に入った作品ぐらいです。それと同時並行でネームをひたすら描いて、ひたすらボツをくらっていましたね。
そんな中、コミティアでアーススター編集部と出会う訳ですね。
茂木:行動スタンスがいろんな人に意見を聞いて成長しようという感じだったので、そうするとコミティアの出張編集部はたくさんの編集さんがやってくるので良い機会でした。とにかく右から左にポンポンポンと(笑) その中で、今の担当さんが作品を気に入ってくれたんです。カエルの解剖の話だったんですが、そういうグロ系のを担当さんが気に入ってくれたんです。そこから拾って頂いて、連載目指しましょうという感じで。
その当時は、まだアーススターは創刊すらされていない状況だったと思います。そのことに関して、不安などはありませんでしたか?
茂木:恐怖心がなかったといえば嘘になるし、どうなるのかなみたいなことは思っていたんですが、それまでがネーム出しのところで終わってなかなか作品を出せない状態だったので、とにかくここで一回作品を出さないとにっちもさっちもいかないというか、どこにも進めないなと感じていたんです。先に編集さんと繋がっていたので、求めてくれている人のところで描けるというのが一番良いんじゃなかろうかというところですね。そうしたらチャンスを頂けたので、ハイ描きますと二つ返事でした。
そこから第一回新人賞を受賞、そのまま連載とトントン拍子で進んでいきますね。
茂木:それまでの下積みが長かったというか、最初にアフタヌーンさんで受賞してから5年くらい経っているんで、あまり即デビューという感覚ではなかったですね。とにかくこの頃は、動きが欲しかったというか、一つ形にしたかったというのが大きかったですね。
それでは最後にアニメ化の話を受けたときの率直な感想とファンの方へのメッセージをお願いします!
茂木:月刊コミックアース・スターのほかの作品がいくつかアニメ化されていたので、『pupa』もそれに乗ってアニメ化できるんだーくらいの感じでした。喜びよりも、驚きの方が大きかったですね。
読者の方には、こんなに沢山漫画があるなかで『pupa』を手に取って頂いたというだけで、それだけですごく嬉しいことなんですけど、それで「すごく面白かったです」「楽しめました」というメッセージを頂くと、もうそれだけで次も頑張って作品描くぞという活力になっております。アニメ版は、色と動きが付いたらどうなるかというところで楽しんで頂けたら。そして漫画の方の『pupa』も、このまま最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。