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【キミイロフォーカス/プリプリ】千明太郎先生インタビュー

本家グラビアアイドルも驚く華やかな表紙。月刊少年チャンピオンで連載していた漫画『キミイロフォーカス』の主人公、花園大路は、一旦カメラを覗けばどんな女の子であろうとソノ気にさせてしまうという才能の持ち主。全男子が生唾を飲む特殊能力である。そして彼がソノ気にさせた女の子達が、この『キミイロフォーカス』のコミックスの表紙を飾っているわけだ。

作者の千明太郎先生は、成蹊大学の漫画研究会ペルシャ猫OBであり、なんと漫画を描き始めたのは漫画研究会に入ってからなのだ。聞きたいことは山ほどあるが、まずは漫画を描き始めた当時、大学生の頃の話をうかがった。

漫研で描き始め、連載作家へ。

千明太郎(以下千明):僕が漫画を描き始めたのは二十歳の頃です。当時は格闘ゲームがすごく流行っていて、ゲームセンターに色々な人が集まっていました。そこにお絵かき帳のようなスケッチブックが置いてあって、みんな思い思いのキャラを描いているわけです。それを見ると、ものすごく絵が上手い人が山のようにいる。どんな人達が描いているのか気になって、しばらく張ってみたら、よくゲームセンターにいる人達に混じって、女子高生のような若い子もそのスケッチブックに絵を描いていた。ネットが浸透した今では見られないような光景でした。そこで出会った人達から『漫画描かない?同人誌描いてみない?』と誘われたのがきっかけです。それから漫画を描くことに夢中になり始めました。

漫画の面白さに取り憑かれた千明先生は、大学二年生の時に漫画研究会に入った。当時は一夏引き篭って同人誌を描いたこともあったという。

千明:同人イベントでは、自分が描いた物が目の前でお客さんに読まれる。これがものすごい羞恥プレイでしてね(笑) 買わずに机に戻されるのが大半でしたが、喜んで買ってくださる人もいて、前作の感想までもらえたりしました。それが当時すごく衝撃的で、漫画は人を喜ばせてお金をいただくサービス業なんだと悟り、漫画を描くことに完全にのめりこみました。それで大学3年生の一学期に、漠然と漫画家になりたいと考え始め、4年生の時に中退したいと親に言ったらものすごく怒られて(笑) まぁそれも当たり前だと思い、大学は卒業しました。

漫画研究会に入部してわずか一年。千明先生は自分の進む道を決めた。原点になったのが、同人活動で癖になったその感覚だった。

千明:商業で描いていると読者は数字でしか見えないので実感しにくいんです。僕自身もこの前近所のコンビニで、たまたま自分の作品を立ち読みされてる方を発見し、思わず緊張しちゃいました。商業では、サイン会をやってもらえるところまで売れないと直接読者さんにお会いする機会が無いので、一体自分の作品をどんな人が楽しんでくれているのか分からなくなり、自己満足のためだけ?と思ってしまうこともあります。だから、描いた漫画を目の前で買ってくれる同人活動から始められたのは非常に良かったです。

漫画家の視点、編集者の視点

読者を喜ばせたいという思いは、千明先生の中から消えることはなかった。そしてその思いは、編集者と共に作品を作っていく千明先生の姿勢にも表れている。

千明:もちろん自分の中に「こう描きたいというイメージはあります。でもたとえば編集さんとの打ち合わせで「この作品はこういう読者に届きます。その読者に喜んでもらうためにここを変えましょう、理由はこうです。」と説明され、納得すれば変えます。でも、それは自分の意思がないというわけではありません。

編集者との打ち合わせや、アドバイスの重要性は、デビュー一作目の『プリプリ』で学んだと、千明先生は言う。

千明:初めて連載になった時は、「こう描きたいんだ!」という思いを通したくて編集さんとすごくぶつかりました。今思えば、色々な意味で若かった僕の気持ちを汲んで通してくれたんだと思います。ところが時間をおいて作品を読んでみると、自分の「描きたい」を通したところを面白いとは感じなかった。一方で編集さんに直されたところは面白くなっている。その時に「あーなるほど」と思いました。自分の視点では見えていないことがあることに気が付けたんです。

それは現在連載中の『キミイロフォーカス』の表現にも活きている。

千明:カメラは、人の表情を撮るんです。カメラマンにも色々な人がいて、モデルさんのいい表情をどう引き出すかも、人によって色々な方法がある。巧みな話術で引き出す人もいるし、撮った写真をモデルさんに見せることで引き出す人もいる。自分が綺麗に撮れていると、表情の雰囲気が変わるんです。
でも漫画では、「いい写真が撮れました!」と綺麗な写真の絵を描いても読者からの共感は得づらい。そこで視点を変えて、主人公が写真を撮ることで、被写体となった女の子の悩みや問題を解決し、撮られた女の子の魅力が引き出される、という話の流れにしたんです。その発想は、僕一人で考えていたら出なかったと思います。

人の繋がりが生んだターニングポイント

大学時代のアルバイトも含め、色々な種類の仕事に触れてきたという千明先生。卒業後、練馬区に借りた六畳一間のアパートで一人、悔し涙を流した日もあったという。

千明:大学卒業後、連載作家としてデビューするまでは基本的に頼まれた仕事は断らないで、色々な事をやっていましたね。もちろん自分がやりたい仕事ばかりではないですが、必ず何かしらの勉強になるんじゃないかと思って。社会人としてのスタンスや仕事の進め方も、色々と苦労する中で学んでいきました。

ターニングポイントが訪れたのは卒業から4年が経った時だった。

千明:ある編集さんから、臨時アシスタントの話を紹介されたんです。作業自体は3時間程のものでしたが、そのアシスタント先の先生と出会い、初めて自分が目指している道の成功者を目の当たりにしました。その時は自分が漫画家としてちゃんとやっていけるのか、ご飯を食べていけるのか悩んでいる時期だったんですが、やっぱり成功者にお会いすることで目標までのルートがより鮮明になり、モチベーションもぐんと上がりました。

それはたまたま得た機会ではなく、漫画家になる目標に向かって邁進し続けた千明先生が自ら引き寄せた機会だったのかもしれない。実際に、そういう現場が見たいと思い続け、色々な仕事を受けたことで得た人脈がその経験に繋がった。

千明:漫画家は厳しい職業のように見えるかもしれませんが、失敗しても負債は抱えませんし、社員を路頭に迷わすこともないですし……あ、アシスタントは路頭に迷う場合があります(笑) むしろ難しいのは、漫画家を目指す人が100人いた場合、それぞれ、ハードルが異なるところだと思います。絵が描けても話は苦手、話ができても絵は苦手、出版社が怖い、夢は公務員で冒険人生はちょっと……などなど。こういうハードルが自分にはいくつあり、どの程度の努力で突破可能なのかを把握し、実行に移していく必要があると思います。才能がずば抜けてる人はポーンと飛び越えていったりもしますが、やっぱり仕事について日々考え、努力されている方が多いです。出版社は、商品価値のある漫画を描ける作家を常に探しています。なので漫画家としての一歩を踏み出すのはそこまで難しくないかもしれません。ただビッグになるのは……。これがね、なかなか難しいんですよ(笑)