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大和田秀樹先生インタビュー【ムダヅモ無き改革/機動戦士ガンダムさん】

魔法より肉体言語(サブミッション)が得意な魔法少女、外交問題から果ては世界の存亡までをも麻雀によって決する政治家達……大和田秀樹先生は1998年の連載デビュー作から、強烈なキャラクター達が繰り広げる破天荒なギャグをベースにしつつ、政治・経済・軍事といった重厚な要素を絡める、いわゆる「大和田節」を確立してきた漫画家だ。
インタビュー前半では漫画家デビューまでの道のりや、先生の仕事観等をお聞きしてきた!

初めて漫画を描いたのはいつ頃ですか?

大和田:初めて漫画を描いたのは20歳の時です。当時所属していた大学の漫研で部長になっちゃって、「部長の作品が会誌に載ってないのはダメだろう」と言われ、それなら一丁描いてみるかと思ったのが始まりですね。

その初めての作品はどのようなものでしたか?

大和田:今見るととても人様に見せるレベルじゃないんだけど、当時自分で読んだ時は「俺天才!」と思いましたね(笑) そこから今に至るまでの長い勘違いが始まる訳ですが、最初はそれくらいの強い思い込みがあった方が良かったのかもしれません。何年か漫画家をやっていく間に必ず何度も訪れる、大きくヘコむ時期というものを乗り切れなかったんじゃないかと。

漫画を描くようになってから、実際にプロの漫画家を目指されるようになったのはいつ頃なのでしょうか?

大和田:初めて出版社に作品を投稿したのが25,6歳の頃ですね。冬コミの学漫用に描いたちょっとエッチな漫画から、写植を剥がして投稿用に直して出したところ、運良く賞に引っ掛かり10万円をもらえてしまって。

初投稿でいきなり賞をもらえるとはすごいですね!

大和田:その頃同時に、コミケを回っていたとある編集部の編集さんからも「ウチで描きませんか」と声がかかっていたんです。それまで漫画家になろうなんてこれっぽっちも思ってなかったのに、そこでまた「俺、漫画家として行けるんだ」と大きく勘違いしてしまった(笑) まあお金をもらってプロの編集さんから直接スカウトなんてされたら、25歳なら勘違いするには十分ですよね。

ところが、そこから角川で連載デビューを果たすまでかなり期間が空いているようです。

大和田:ネームは何度か描いて提出していたんですが、編集さんと中々折り合いがつかず、そうしている内に一度フェードアウトしてしまいました。そこから、ちゃんと卒業だけはしておこうと思って2年ぐらい大学に戻ったんですが、やっぱり一回何かを本気でやっておきたいなと思い直したんです。
学生時代は仙台の国分町というところでよく飲んでたんだけど、そうすると「俺昔は役者目指しててさ~」みたいなことを言っている方を見かけるんです。自分もこのままいくと「俺も昔は漫画家に……」と飲みの席で言うようになるのか……と考えると、自分はそれならいっそ一回本気で試してみてデビュー/連載までは行ってみよう、そこから先はその時になってから考えてみれば良いし、ダメならダメですっぱり諦めようと思うようになったんです。

そこで早速、角川の少年エースに作品を投稿されるようになると。その時の経緯を教えてください。

大和田:第2回目ぐらいの新人賞に応募し、まず夏頃に奨励賞をとりました。そのまま9月には読切を掲載させてもらい、翌春には連載開始とトントン拍子で進んでいきましたね。

まさに有言実行という感じですね。そうやって商業に移られてから、何か苦労されたことってありますか?

大和田:特にないですね。とにかくまず最初、僕が面白いと思うかどうかだけで描いてきたので。それにちゃんとネタとして面白ければ、多少変なネタでも編集はOKを出してくれましたしね。結局漫画って商業だなんだというよりも、面白いか面白くないかだけだと思っています。

非常にシンプルかつ力強い基準ですね!それでは大和田先生は現在、どのようなペースでお仕事をされているのですか?

大和田:今は朝7時くらいに起きてまず子供を保育園に送り、10時から仕事を始めます。そして夕方の17時までには終わらせるようにしています。

漫画家っていったら、徹夜徹夜で執筆作業というイメージがありますが。

大和田:なぜそういうペースにしてるかというと、そうしないと死んじゃうから(笑) 30代の頃何度か仕事中に倒れてしまって、このままじゃいかんと思って改善したところです。
正直徹夜ばかりしている人は、長続きしないです。人というのは、寝ないと仕事の効率がみるみる下がるものですからね。徹夜でやる10時間の作業よりも、5時間寝て5時間仕事した方が仕事のクオリティは圧倒的に高いし、半分寝ながらやった1時間だと1コマも進まなかったなんてザラにあります。僕の周りでは、無茶をされていた方はそのほとんどが、残念ながら30代で皆リタイアされていきました。

漫研の人でも部誌の締切前に徹夜で描いていたりしますが、本当はよくない訳ですね。

大和田:それは「修羅場感」を楽しんでいるだけです。俺も漫研の部長だったから解かるんだけど、学生気分でやっている子達の中には「この修羅場の中で描いてる俺」に酔っちゃう子がいるんですよ。確かに身体が疲れ切ってハイにもなるし、とにかくやりきった感を味わえるんですよね。こう言ってはあれですけど、学漫なんて1日1時間というペースで3ヶ月描き続ければ完成されられるんですよ。ちゃんと授業出てバイトして、じゃあ寝るかっていう前に一時間作業してるだけで誰でも出来るはずなんです。

ひとりの漫研生として耳が痛い!とにかく、今は仕事の時間をきっちりと分けているんですね。たとえばプライベートで、ネタ帳のようなものを持ち歩いたりはしていないのでしょうか?

大和田:ネタ帳の類は一切持っていません。なぜかというと、本当に優れたネタっていうのは1日2日ぐらいは覚えているものなんです。逆に覚えてないネタというのは大したネタではないので、忘れちゃったらその程度のネタだったんだと思うようにしています。もちろんその辺りは人それぞれで、マメにメモしないと駄目って人ももちろんいるから、良い悪いではないのですが。

毎回エッジの効いたギャグやネタが満載なので、一つにまとめたネタ帳みたいなのがあるものかと思っていました。

大和田:それに思いついた時に面白いと思ったネタと、実際に原稿にして面白いネタって実は違ったりします。頭の中で考えて面白いと思っても、原稿にしたら対して面白くないってのはよくあるし、逆に描いたら面白いというのも多々ある。その辺は描いてみないと解らないところなので、あまりネタ帳に凝るよりも実際に描いてみるのが近道だとは思いますね。
大和田:率直に言って、どうしたらプロ漫画家になれると思います?

直球ですね!シンプルすぎてどう返せばいいのかわかりません……

大和田:正解は一つで、「作品を描いて出版社に送ること」。これしかないんです。そしてこのことは、皆知っている当たり前のことじゃないですか。それが唯一の道で、ジャンプだろうがマガジンだろうが、要は描いて送るしかない。ところが悲しいことに、その第一段階で躓いてしまう人も沢山いるようです。
たとえば自分のところでアシスタントを募集すると、若い子が修行したくてウチに来ます。僕の場合そういう子達には絶対、昔仕上げたのでもいいから読切一本をもってきてもらうようにしています。ところがそれでも漫画を描いてこれなくて、結局イラストを持ってきてしまう子もいるんです。

確かに、気持ちばかりが先走って作品を仕上げれないという人は多い気がします。

大和田:好きなもので良いんですよ、最初は。売れるかどうかじゃなくて、心の底からやりたいと思ったものを描いて、それを出版社に持っていけば良い。それに一度、自分が本当に面白いと思ったものを全て詰め込んだものを描いておかないと、後々すごい苦労をするんですよ。どういうことかというと、描くネタが尽きた後に何も描けなくなってしまう。若いときに貯めていたやりたいネタというのは、デビューしたらあっという間に全部尽きてしまいます。それでも漫画を描いていくためには、自分が本当に面白いと思ったものを詰め込んだ作品がベースにあることが必要なんです。

そういう、自分のすべてをこめた作品を持ち込むのは緊張しそうです。それでダメだったらどうしようと思ってしまったりとか。

大和田:持ち込んだ雑誌で箸にも棒にもかからなかったら、その原稿を持って違う出版社に行けばいいだけです。片っ端から持ち込んで、全部ダメだと言われるまで持ち込み続ければ良いんです。特に今は、1日1冊以上売っているようなペースで雑誌が出されているくらい、媒体も多い。この状況なら、何かキラリと光るものがあるんだったら絶対どこかに引っかかるはずです。
それに今ならデビューさえすれば、売れる芽はいくらでもありますからね。

それはどういうことでしょうか。

大和田:今良い物を描いたら絶対に埋もれないんですよ。発行部数が数万部くらいの雑誌からでも、そこから何十万部、何千万部って漫画が出ているじゃないですか。今は良い作品さえ描けば売れないってことはないし、雑誌の部数や知名度はあまり関係がないということです。実際、「これすごく面白いのに全く売れてないよね」という作品はないんじゃないでしょうか。数100万部とはなかなかいきませんが、5~10万部は確実にはけている。日本は漫画好き人口の裾野も広いし、彼らの目は凄く肥えていますからね。今日本で面白い漫画を描けば売れないことはないから安心して描けば良いし、逆にこの状況で埋もれてしまったんだったら、運やタイミングじゃなくて、単純に作品が面白くないだけだったんだと素直に受け止め納得も出来るかと思います。

現在は、ある種とても風通しの良い環境が整っているともいえるかもしれませんね。とにかくどんな形でも良いからデビューすれば、そこから先は読者が正当に判断してくれる、そのためにもまずはどんどん作品を出版社に見せにいかないとならない訳ですね。

大和田:ある意味美味しい話だと思うんですよ、たった一つの作品で、いけるかいけないかプロの方に判断してもらえる訳だから。例えば役者とかお笑いを目指すんだったら、まず芸能プロダクションや養成所に入らないといけないし、そこから授業料まで取られるじゃないですか。それに比べれば、漫画業界はすごく優しいですよ。いきなりでもタダで自分の作品を見てくれて、アドバイスまでしてもらえるんですから。

確かに、目指すだけならお金がかからないというのは漫画含めて出版業界だけかもしれませんね。

大和田:もし東京に住んでいたら、それこそ学校帰りに持ち込んで見てもらえる環境がある訳じゃないですか。世界的に見れば、こんな気楽に漫画を見てもらえる環境ってなかなかありません。一度パリのジャパンエキスポでサイン会をやったことがあるんですが、終わってからフランス人の子がタタタッと駆け寄ってきたんです。何かと思ったら「見て下さい!」っていって自分の原稿を出してきた。その子にすると一年間待って、プロの漫画家に見てもらう機会を狙いすましていた訳です。フランスで漫画家を目指すのはこれくぐらい大変なんでしょう。それが電話でアポさえとれば、ジャンプだろうとどこだろうといきなり原稿を見てくれる、それがどれだけ有難いことか。

厳しい言い方ですけど、これだけ環境が整っていれば、デビューするということのハードルはそんなに高くないといえそうですね。

大和田:僕の漫画家の友達の中で、デビューするのにものすごく苦労した……という話は一度も聞いたことがなかったですね。現状チャンスは無数に存在するので、アタックをかけ続けさえすればデビューへの道は自ずと拓けてくると思います。

デビューはあくまでスタートラインという訳ですね。漫画家志望の学生さんも、一日でもそこに立てるよう頑張って欲しいところです。
本日はありがとうございました!それでは最後に一つ、漫画家を目指す学生の方にメッセージをお願いします。

大和田:まだ一度も、自分が本気で面白いと思ったものを詰め込んだ原稿を描き上げたことがないと思う人は、僕のインタビューを読んでから3ヶ月以内に原稿という形にしてください。それが形にもならなかったらその時点できっぱりと諦める、ぐらいの覚悟を持って。先ほども言ったように、学生でも1日1時間机に向かい続ければ、必ず完成させることができるはずです。
……とまあ、偉そうに色々言ってきましたが、こんなことを言ってる内にその新人さんの方が後で自分よりも売れていくというのはよくあります(笑) 「○○君の漫画はさー」と偉そうな口を聞いていたら、急に売れ出し始めて「これはやばい」と冷や汗をかいたり……結局、伸びていった子は僕にいくら言われても「いや、やります!」と折れなかった人達でした。確固たる世界観があればこの世界で食いっぱぐれることはないので、まずは自分の好きでしょうがないものを原稿という形にすることを目指してください。