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デュアルモメンタム #12:トレンドフォローとデュアルモメンタム

数百年にわたって優位性を証明し続けてきた唯一の投資手法がトレンドフォローです。なんと1300年代から2000年代までの過去800年にわたるバックテストもカミンスキーらによって検証されています。
モメンタム投資はトレンドフォローの一部であり、デュアルモメンタム投資(Dual Momentum Investing)は、絶対モメンタムと相対モメンタムの両方を利用することによってトレンドフォローを拡張した投資戦略といえます。今回はトレンドフォローについて説明していき、デュアルモメンタムとの関連を探ります。


トレンドフォローの4つの基本戦略

トレンドフォロー戦略は、市場の動向に従って取引を行う戦略です。それぞれの戦略について体系的に説明します。ミーンリバージョンとは平均回帰と表現されます。

  1. トレンドロング(Trend Long):

    • この戦略は、価格が上昇傾向にある時に資産を買うことに焦点を当てています。

    • 目的は、価格がさらに上昇することを期待して、利益を得ることです。

    • トレンドの継続を予測して、上昇トレンドの初期段階でポジションを取ることが一般的です。

  2. トレンドショート(Trend Short):

    • この戦略は、価格が下降傾向にある時にショートポジション(売りポジション)を取ることに焦点を当てています。

    • 価格がさらに下がることを期待し、その後価格が下落した際に利益を得ることが目的です。

    • 下降トレンドの始まりを見極め、タイミング良く売りポジションを取ることが重要です。

  3. ミーンリバージョンロング(Mean Reversion Long):

    • この戦略は、価格が過去の平均値よりも大幅に低いときに買いポジションを取ることに焦点を当てています。

    • 価格がその平均値に「戻る」(リバージョン)ことを期待しています。

    • 通常、価格が過去の平均レベルよりも著しく低い場合に適用され、価格が平均に戻ることで利益を得ることを目指します。

  4. ミーンリバージョンショート(Mean Reversion Short):

    • この戦略は、価格が過去の平均値よりも大幅に高いときに売りポジションを取ることに焦点を当てています。

    • 価格が平均値に戻ることを期待し、その下落から利益を得ることを目指します。

    • 価格が過去の平均レベルよりも高い場合に適用されることが多く、価格が平均に戻った際に利益を得ることができます。

トレンドフォローの戦略別のポイント

それぞれの戦略における注意点を、インタイミング、アウトタイミング、保有期間の観点から説明します。

  1. トレンドロング(Trend Long):

    • インタイミング: 上昇トレンドの確認が重要です。早すぎるエントリーは不確実性が高く、遅すぎるエントリーは利益の機会を逃す可能性があります。

    • アウトタイミング: トレンドの反転や弱化の兆候に注目し、利益を最大化するために適切な時期にポジションを解消する必要があります。

    • 保有期間: この戦略は中長期的な視点が必要であり、トレンドが継続する間は保有し続けることが一般的です。

  2. トレンドショート(Trend Short):

    • インタイミング: 下降トレンドの開始を見極めることが重要です。早すぎるショートはリスクが高く、遅すぎると利益が少なくなる可能性があります。

    • アウトタイミング: 価格が反発する兆候が見えたら、損失を最小限に抑えるために迅速にポジションを閉じるべきです。

    • 保有期間: 下降トレンドが続く間保有することが多いですが、市場の変動により短期的になることもあります。

  3. ミーンリバージョンロング(Mean Reversion Long):

    • インタイミング: 価格が過去の平均より著しく低いときに入るのが理想的ですが、さらなる下落のリスクを考慮する必要があります。

    • アウトタイミング: 価格が平均値に戻った、またはそれを超えた時点でポジションを解消することが一般的です。

    • 保有期間: この戦略は短期から中期的な視点で行われることが多く、市場の動きに応じて柔軟に対応する必要があります。

  4. ミーンリバージョンショート(Mean Reversion Short):

    • インタイミング: 価格が過去の平均より高いときに入るのが理想的ですが、さらなる上昇のリスクを考慮する必要があります。

    • アウトタイミング: 価格が平均値に戻った時点でポジションを解消することが一般的ですが、早期撤退による機会損失のリスクも考慮する必要があります。

    • 保有期間: この戦略も短期から中期的な視点で行われることが多く、市場の動きに応じて迅速な対応が求められます。

トレンドフォローの基本戦略の相関性について

  1. トレンドロング(Trend Long)とトレンドショート(Trend Short):

    • トレンドロングは上昇トレンドに焦点を当て、トレンドショートは下降トレンドに焦点を当てます。

    • これらの戦略は、市場の動きが反対方向にある時に利益を出すことを目指しているため、相関性は低いです。

  2. ミーンリバージョンロング(Mean Reversion Long)とミーンリバージョンショート(Mean Reversion Short):

    • ミーンリバージョンロングは過去の平均価格より低い時に買い、ミーンリバージョンショートは平均価格より高い時に売ります。

    • これらもまた、相反する市場条件に基づいているため、相関性は低いです。

  3. トレンドベースの戦略とミーンリバージョンベースの戦略:

    • トレンドベースの戦略(トレンドロングとトレンドショート)は、市場の現在の流れや動きを追います。

    • 一方、ミーンリバージョンベースの戦略(ミーンリバージョンロングとミーンリバージョンショート)は、価格が過去の平均値に戻ることを期待します。

    • これらの戦略は、市場の異なる動きに基づいているため、相関性は低いと考えられます。

トレンドフォローの4つの基本戦略は市場の異なる側面や条件に基づいているため、相互に独立して動くことが多く相関性は低いと言えます。

相関性が低い戦略を組み合わせるメリット

相関性が低い戦略を組み合わせてポートフォリオを作ることで、リスクを分散し、長期でのトータルリターンを安定させることが期待できます。この原理は、ポートフォリオ理論に基づいており、特にマークヴィッツのモダンポートフォリオ理論(Modern Portfolio Theory, MPT)によって定式化されています。

数式:

有名な式なので説明は省略します。
資産間の相関係数が小さければポートフォリオのリスク(標準偏差)が小さくなることは明らかです。期待リターンが同一であれば、リスクは小さいほうが優位です。

資産間の相関係数

メリット:

  • リスクの低減: 相関性が低い(または負の相関を持つ)資産を組み合わせることで、ポートフォリオの全体リスク(標準偏差)を減少させることができます。これは、一方の資産が損失を出したときに、他方が利益を出す可能性があるためです。

  • リターンの安定化: リスクが低減されることで、ポートフォリオのリターンがより安定します。市場の異なる状況下で各戦略が異なるパフォーマンスを示すため、一部の資産が不振でも他の資産がカバーすることが可能です。

  • 長期的なリターンの最大化: 長期的には、リスクの分散によってより安定したリターンが得られ、結果としてトータルリターンが最大化される可能性があります。

古典的な理論ですが内容はシンプルです。異なる特性を持つ複数の戦略を組み合わせることは、ポートフォリオの全体的なリスクを低減し長期的なリターンを最適化します。

トレンドフォローの論文

あまりにも多いので今回はドローダウンについて調べたものを一つだけ紹介します。

212 Years of Price Momentum (The World's Longest Backtest: 1801 – 2012 CHRISTOPHER GECZY and MIKHAIL SAMONOV

200年以上にわたるバックテストです。

長期的なモメンタムの利益: モメンタム効果は期間を通じて統計的に有意であり、2世紀にわたって持続していることが確認された。

動的な市場エクスポージャー:モメンタムは市場のベータに動的にさらされており、その挙動は優勢な市場状態の符号と期間に応じて変化することが明らかになった。特に、モメンタムのベータは、各市場状態の始まりにおいて、新しい市場の方向性と反対であり、市場の転換点の前後でモメンタムの利益に影響を与える。

ダイナミック・ヘッジ戦略: 動的にヘッジされたモメンタム戦略を導入することで、市場の状況に合わせて調整し、ヘッジなしのアプローチを大幅に上回る。

デュアルモメンタムとトレンドフォロー

デュアルモメンタム戦略と最も類似しているのは、「トレンドロング(Trend Long)」戦略です。下記にまとめます。

類似点:

  • 両戦略とも市場のトレンドを利用しています。

  • トレンドロングとデュアルモメンタムの両方が、上昇トレンドにある資産に投資することを重視しています。

相違点:

  1. 対象とするモメンタム:

    • トレンドロングは主に一つの市場や資産のトレンドに注目します。

    • デュアルモメンタムは、相対モメンタムと絶対モメンタムの両方を考慮し、複数の市場や資産間の比較を行います。

  2. リスク管理:

    • トレンドロング戦略は、市場の上昇トレンドにのみ焦点を当てています。

    • デュアルモメンタムでは、下落トレンドを避けるために、相対モメンタムと絶対モメンタムを使用してより複雑なリスク管理を行います。

  3. 市場の選択:

    • トレンドロング戦略は特定の市場や資産に焦点を当てることが多いです。

    • デュアルモメンタムは、複数の市場や資産クラス間で最も強いモメンタムを持つものを選択します。

デュアルモメンタム戦略はトレンドロング戦略をより洗練させたものと言えます。

デュアルモメンタムはトレンドロング以外にも応用が可能

さて、すでに私はその応用を公開しています。
トレンドフォローの4つの基本戦略、そのどれをベースに応用したのかに気づけば更なるオリジナルの拡張を進めることができるはずです。

この記事は過去13年間で200倍のリターンを得たデュアルモメンタムという投資スタイルについて解説していくnoteになります。

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