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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論24『007/スペクター』

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第24作『007/スペクター』

『慰めの報酬』が『カジノ・ロワイヤル』を「補完」したように、『スペクター』もどこか『スカイフォール』の「補完」を意図したように感じる。

「スペクター」という伝家の宝刀をようやく抜くことができたわけだし、前作で新しい「チーム」が完成したのだから、当然(『サンダーボール作戦』的な)英国情報部対スペクターの全面戦争が描かれてしかるべきだったのだが、ボンドとブロフェルドの個人的な確執がテーマになった。

 ボンドの「個人的な敵」がブロフェルドになったことで、MはCと対立することになるが、ここは「ブロフェルドこそMの長年の仇敵だった」設定の方がよかった気がする。前作の終わりで「女性M」との信頼関係は築けたが、「男性M」に対してはどうだ?という疑問の答えをこの作品で「補完」することができたからだ。

 もう一つ気になったのは殺し屋ヒンクスの設定だ。オッドジョブやジョーズの系譜のキャラクターだが、本来ここで必要だったのは『サンダーボール作戦』のラルゴのような存在だったのではないか? 虎の子の「スペクター」の設定を1作で消化しきろうとしたのは、すでにこれがクレイグ=ボンドの最後だと割り切っていたからかもしれない。

 まずはプレタイトル。ここの「長回し」に関してはサム・メンデス監督が次回作『1917』の実験をしたとしか思えない。狙撃シーンはCGが前面に出過ぎているし、ヘリコプターアクションは往年の名スタントをうまく組み合わせているが、個人的には、今一つ画面の「ヌケ」が足りない気がしてリアルさを感じられなかったのが残念だった。

何か画面がモヤッとしてキレがない

 ヒンクスとの対決は、ローマでのアストン・マーチンDB10を使った、かつてのボンドテイストのカーチェイスにはじまり、オーストリアでは飛行機で雪山を滑走、列車内の豪快な格闘とつづいていく。

 いずれもボンドの立ち位置は「内」であり、かつてのジョーズのような不死身さを感じさせるヒンクスは、平然とまたスペクター基地に戻っているのだろうと思ったら、そうではなくて肩透かしだった。

ヒンクスは絶対に死んでいない!

 重要なのは、ボンドがカーチェイスをしながらマネーペニーに指示を出し、飛行機でヒンクスを追いかけているときは他方で敵から逃れようとしているQがいて、列車の格闘シーンの裏ではM・Q・マネーペニーの「集合」が描かれている点だ。“個人”が動かしているスペクターに対して、情報部側は完全に“チーム”なのだ。

 もう一つヒンクスがもたらしたのはボンドとマドレーヌの接近である。食堂車での会話シーンは『カジノ・ロワイヤル』と対になっているし、その直後のヒンクスの襲撃は同作でアフリカ人を泥臭く殺害したシーンと同じ意味合いを持った。ヴェスパーのときと同じ“男女の距離の縮め方”を、今回はスマートに再現しているのだ。

ここではボンドが右側
『カジノ・ロワイヤル』ではボンドとヴェスパーを同じフレームに入れなかった

 クライマックスはロンドンでの「チーム戦」。ボンドとブロフェルドの決着とともに、MとCの攻防も描かれる。「動けるM」や「動けるQ」のキャスティングがそれを可能にした。ラストは前作同様、象徴的な建物=「情報本部」の崩壊。前作でボンドにチームができたように、ここではマドレーヌの存在が加わる。

 面白いことに、非常に暴力的に見えたクレイグ=ボンドはル・シッフルもグリーンもホワイトもブロフェルドも(直接には)殺していない。実は「007とは殺さない番号」だと学ぶ物語だったとさえいえる。そしてその結果、彼は「チーム」と「家族」を得たのだ。

今回は爆破シーンの規模でギネス記録

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