Kindle電子書籍『7つの異界 つばさの翼』メイキングコメンタリー1
【7つの異界とは?】
〈演劇集団テアトロー〉主宰・木暮林太郎が新作台本を書く前に、物理的・予算的に舞台ではできないことへのフラストレーションを吐き出すため、毎回必ず執筆していた奇抜な短編小説群──それらのなかから7編を厳選し、『7つの異界』としてまとめました。
7つの作品は完全に並列・独立していて、読む順番は関係ありません。気になった順番で読んで大丈夫です。全部読む必要もありません。気になった作品にだけ触れてください。
ここでは便宜上、サブタイトルの「50音順」に、個々の作品について著者の二人が語ります。さて、今回のお話は──。
〈「つばさの翼」あらすじ〉
「とある羽の物語」
・今回の「異界」は、「翼」を持つ人間が存在する世界。背中に片側だけ天使のような羽をつけて誕生し、「つばさちゃん」と呼ばれて国民的な人気を得た一方、誕生からずっと政府の観察を受けていた彼は、やがて唐突に死亡した……。
・今回の登場人物は、ある政府機関で働いていた「侍従長」と呼ばれる老人と、彼に取材を申し込んだ「僕」。侍従長はいった。「ここだけの話ですが〈つばさ〉はまだ生きております」繰り返される二人の対話は、どんな真実にたどり着くのか?
○メイキングコメンタリー1「売り文句について」
川口世文:電子書籍は著者が宣伝をしないと売れない。だから二人でこの作品の「売り文句」を考えたい。
木暮林太郎:コピーライターの才能をおれに期待するなよ。一言できっちり表現できるくらいなら、演劇なんてやっていないんだから。
川口:わかる。こっちだって同じだ。それができるなら何万文字も文章を書いたりしない。
木暮:『つばさの翼』という小説で何を語りたいかがわかればいいんだろ?
川口:そう、そういうこと。それを一言でいってみて。
木暮:一言ねぇ……つまり、それは……要するにだ。
川口:要するに?
木暮:<誰かがきっと見守っている>って感じかな?
川口:そうか、そうきたか?
木暮:え……そんなに意外?
川口:今更だけど「つばさ」以外にも「侍従長」のような人が“見守っている”存在はあるの?
木暮:それはどうかな? 特に考えていなかった。“異形《いぎょう》の者たち”ってことだろ?
川口:フリークスっぽい異形じゃなくて、「天使の羽」みたいにきれいなやつでいいんだけど。
木暮:「尻尾」とか、「角」とか?
川口:ネコのしっぽとか、ユニコーンの角ならいいかもね。そういうのはいないのか?
木暮:そこはあまり考えなかったな。どうしてもそこにこだわりたい?
川口:いや、もしも「誰かが見守っている」って一言に集約させるなら、やっぱり見守る側、つまり「侍従長」にフォーカスすることになるなと思ってさ。
木暮:実はそうじゃないんだ、と──だったらさ、おまえがこの話を一言にまとめると、どんな風になるわけ?
川口:例えば──<いつか空を飛べる>。
木暮:何だか“スピッツ”の歌詞みたいだな……つまり、「つばさ」にフォーカスすべきというわけね。
川口:「しっぽちゃん」とか「つのくん」とか、ほかにバリエーションがないならな。
木暮:いたとしても、それはまた別の話だ。「つばさ」の視点でいいんじゃないか? しかし、「つばさの翼」って空を飛ぶためのものなのかな?
川口:そうじゃないとしたら、そんなもの羽でも翼でもないじゃないか?
木暮:そういうことになるか。でも、肉体的な「羽」以外に、精神的な「羽」っていうのも存在しうるだろ?
川口:また、ややこしいことをいい出したな。
木暮:“空を飛ぶ”ってことにも象徴的な意味がある。「侍従長」たちが「つばさ」を監視してきたのは、どちらかというと、それが一人歩きしてしまうのが怖いからだ。
川口:なるほど、じゃあ、やっぱり<誰かがきっと見守っている>のほうか。
木暮:漫才みたいになってきたな。おれはどっちでもいいんだよ。「つばさ」が物理的に飛んでも、象徴的に飛んでくれても──。
川口:いずれにしてもそれなりの説得力が必要だけど。
木暮:物語としては広がりを感じるね。この短編よりも世界がぐっと広がるといい。
川口:なかなかの難題だな。
木暮:大丈夫、おまえなら書ける。
川口:しれっとまた不穏《ふおん》なことをいったな!
木暮:<誰かがきっと見守っている>でも、<いつか空を飛べる>でも、どっちのアプローチでもいいからさ、ぜひ続編を書いてくれよ。
川口:やっぱり、おれが書くのかよ!
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