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Kindle電子書籍『7つの異界 コウカン刑』メイキングコメンタリー1

【7つの異界とは?】

〈演劇集団テアトロー〉主宰・木暮林太郎が新作台本を書く前に、物理的・予算的に舞台ではできないことへのフラストレーションを吐き出すため、毎回必ず執筆していた奇抜な短編小説群──それらのなかから7編を厳選し、『7つの異界』としてまとめました。

7つの作品は完全に並列・独立していて、読む順番は関係ありません。気になった順番で読んで大丈夫です。全部読む必要もありません。気になった作品にだけ触れてください。

ここでは便宜上、サブタイトルの「50音順」に、個々の作品について著者の二人が語ります。さて、今回のお話は──。

〈「コウカン刑」あらすじ〉

「とある刑の物語」

今回の「異界」は、本人と遺族の同意の下、殺人犯の脳を被害者の肉体に移植して生存させる「コウカン刑」が存在する世界。特殊な〈リング〉でコントロールされるその刑罰の本当の意味とは?
今回の登場人物は、衝動的な暴力で多くの死者を生んだ22歳の死刑囚。被害者のうちの一人、槙島(まきしま)という39歳の男性の肉体に脳を移された彼は、徐々に被害者の人生に順応しはじめる。だが、彼のその「順応」の行きついた先は?

○メイキングコメンタリー1「売り文句について」

川口世文:電子書籍は著者が宣伝をしないと売れない。だから二人でこの作品の「売り文句」を考えたい。

木暮林太郎:コピーライターの才能をおれに期待するなよ。一言できっちり表現できるくらいなら、演劇なんてやっていないんだから。

川口:わかる。こっちだって同じだ。それができるなら何万文字も文章を書いたりしない。

木暮:『コウカン刑』という小説で何を語りたいかがわかればいいんだろ?

川口:そう、そういうこと。それを一言でいってみて。

木暮:一言ねぇ……つまり、それは……要するにだ。

川口:要するに?

木暮:<人間は想像力が大事>ってことじゃないか? 結果に対する想像力が欠けているから、主人公はとんでもなく愚かな犯罪をやっちゃうわけだから。

川口:その大事な想像力をわざわざ育ててあげて、それからそれを奪うっていうのが、「コウカン刑」の醍醐味《だいごみ》だからね。

木暮:醍醐味なんていうな、不謹慎だぞ。

川口:ちょっといい過ぎた……そういう意味では関係者しか何が起きているのか知らないのはもったいないね。

木暮:どういうこと?

川口:いっそのこと“リアリティショー”みたいにして公開しちゃえば、それを見た人にとっても教訓になる。

木暮:教育番組にしちゃうわけ? だけどそもそも日本の刑罰で公開されているものなんてないだろ? 「コウカン刑」のチャンスがあるのは死刑囚だけなんだぞ。

川口:だったら、ますますいいんじゃないの?

木暮:死刑囚にだって人権はある。

川口:公開を承認することも条件の一つにする。

木暮:いや、無理だな。ほかにもキャスティングが必要だから。そういう人たちを晒《さら》すわけにいかない。

川口:モザイクかけちゃえばいいじゃん。

木暮:妙にこだわるね。だったらさ、おまえがこの話を一言にまとめると、どんな風になるわけ?

川口:<税金は効果的に使おう>──かな?

木暮:何だ、それは?

川口:加害者に、被害者と同じ無念さを理解させるってやり方は効率が悪いってこと。遺族だって本当に満足しているとは思えないし、第一、広がりがない。

木暮:広がりがあればいいっていうの? “リアリティショー”以外でも?

川口:そういうことだな。

木暮:脳科学の実験になるっていうのは?

川口:人体実験かよ。

木暮:まあ、そういうことになっちゃうか。

川口:あんな“黒いメロンパン”みたいな状態にされるのは行きすぎだ。それを知ったら誰も選択しなくなっちゃうんじゃないか?

木暮:そうなると「コウカン刑」を阻止する展開にするか、あるいは「コウカン刑」の先にまったく新しい価値を見つけるか──要は後戻りするか先に進むか、どっちかになる。その点ではどっちがいいと思う?

川口:小説の役割としたら、さらにその先を考えることのほうが大事だと思うけど。

木暮:じゃあ、それだ。その方向で続編を書いてみろ。大丈夫、おまえなら書ける。

川口:しれっとまた不穏《ふおん》なことをいったな!

木暮:<税金は効果的に使おう>──おまえが考えたキャッチコピーに沿った内容でいいからさ、「コウカン刑」の行き着く先をぜひ書いてくれよ。

川口:やっぱり、おれが書くのかよ!

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