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Kindle電子書籍『7つの異界 光と闇のレモネード』メイキングコメンタリー1

【7つの異界とは?】

〈演劇集団テアトロー〉主宰・木暮林太郎が新作台本を書く前に、物理的・予算的に舞台ではできないことへのフラストレーションを吐き出すため、毎回必ず執筆していた奇抜な短編小説群──それらのなかから7編を厳選し、『7つの異界』としてまとめました。

7つの作品は完全に並列・独立していて、読む順番は関係ありません。気になった順番で読んで大丈夫です。全部読む必要もありません。気になった作品にだけ触れてください。

ここでは便宜上、サブタイトルの「50音順」に、個々の作品について著者の二人が語ります。さて、今回のお話は──。

〈「光と闇のレモネード」あらすじ〉

「とある水の物語」

今回の「異界」は、南の小島。とある研究者一家だけが住んでいる、その絶海の孤島には、甘美なレモネードとして飲まれる「鉱泉」が湧き出ていた。ところが、その液体は水とは遥かに異なるもので……。
今回の登場人物は、島に遊びにやってきた「おれ」と、館に住む博士、奥様、執事と、もう一人の人物。島にはさらに同じ数の別の「存在」があり、おれを誘っておきながら、自分は島にやってこなかった「あいつ」には、ある思惑があった。

○メイキングコメンタリー1「売り文句について」

川口世文:電子書籍は著者が宣伝をしないと売れない。だから二人でこの作品の「売り文句」を考えたい。

木暮林太郎:コピーライターの才能をおれに期待するなよ。一言できっちり表現できるくらいなら、演劇なんてやっていないんだから。

川口:わかる。こっちだって同じだ。それができるなら何万文字も文章を書いたりしない。

木暮:『光と闇のレモネード』という小説で何を語りたいかがわかればいいんだろ?

川口:そう、そういうこと。それを一言でいってみて。

木暮:一言ねぇ……つまり、それは……要するにだ。

川口:要するに?

木暮:<基本、忘るべからず>──ってのはどうだ?

川口:何が“基本”なんだよ?

木暮:水だよ、水! それに決まっているだろ? 生命の基本は水なんだよ。石油を飲んで生きていけるか?

川口:生命の源である水を軽んじすぎるって警告か?

木暮:特に日本人は水のありがたみを忘れつつある。

川口:国や地域によって意識は違うんじゃないか?

木暮:それはあくまで“飲料水”とか“生活用水”の話だろ? おれがいいたいのは、水にはもっと驚くような可能性が眠っているって話だよ。

川口:確かに、ここで描こうとしているのはそういうことだけど、“真水”じゃなくて“鉱泉”だよね? 厳密にいえばちょっと違う。

木暮:それは誤差の範囲だ。人間が飲んで生命を維持することができるんだから。

川口:維持する以上の状態になっちゃうけどな。

木暮:そういうおまえが一言にまとめると、どんな風になるわけ?

川口:そうだな……<ヒューマン2.0>っていうのは?

木暮:表現が古いな。せめて「5.0」ぐらい景気よくいけよ、5Gの時代なんだから。

川口:いや、5Gは関係ないだろ。

木暮:関係あるよ、あれは「第5世代移動通信システム」って意味だろ? おれが書きたいのは「第5世代ヒューマンシステム」の話だ。

川口:いっている意味はわかるけど、ここはあえて「2.0」なんだよ。だって、そのヒューマンシステムはまだ第5世代までいっていないだろ?

木暮:そういわれればそうだな。さらにもっと大きな変化はその先かもしれない。

川口:え、例えば?

木暮:例えば……物理的に水を操るとかさ?

川口:それはちょっと行きすぎじゃないの? アメコミヒーローじゃないんだから。

木暮:でもさ、要するに水と光の関係を操れるわけだ。光が操れるなら熱だって可能だろ?──つまり熱帯低気圧から熱を吸い取って、大人しくさせちゃうなんてことは可能になるわけだ。

川口:へぇ、そうなんだ。

木暮:感心していないで、もっと想像力を広げろよ。水とデータの関係だってそうだ。脳にデバイスなんか埋め込まなくても、簡単にコンピュータとのインターフェイスが作れるかもしれないんだぞ。

川口:今日はやけに冴えているな。ひょっとすると、いちばんの問題作かもしれないな、この話は。

木暮:そうだろ、格闘しがいがありそうだろ? 「2.0」から「5.0」まで一気に書いちゃってくれよ、続編を!

川口:しれっとまた不穏《ふおん》なことをいったな!

木暮:大丈夫、おまえなら書ける。

川口:やっぱり、おれが書くのかよ!

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