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Kindle電子書籍『7つの異界 リーガル・ウェポン』メイキングコメンタリー1

【7つの異界とは?】

〈演劇集団テアトロー〉主宰・木暮林太郎が新作台本を書く前に、物理的・予算的に舞台ではできないことへのフラストレーションを吐き出すため、毎回必ず執筆していた奇抜な短編小説群──それらのなかから7編を厳選し、『7つの異界』としてまとめました。

7つの作品は完全に並列・独立していて、読む順番は関係ありません。気になった順番で読んで大丈夫です。全部読む必要もありません。気になった作品にだけ触れてください。

ここでは便宜上、サブタイトルの「50音順」に、個々の作品について著者の二人が語ります。さて、今回のお話は──。

〈「リーガル・ウェポン」あらすじ〉

「とある銃の物語」

今回の「異界」は、「銃器免許」を持つことで銃器使用が許可されている日本。だが、アメリカと違い、そこには日本独特の、使用を許可しておきながらできるだけ使わせまいとするルールが存在していた。
今回の登場人物は、〈綿貫シューチング・スクール〉の年老いたインストラクターと、免許の取得が認められていない年齢ながら「体験教習」を希望する西森勝。〈公認 荻窪銃器教習所〉に連れていかれた勝には、秘めた目的があって……。

○メイキングコメンタリー1「売り文句について」

川口世文:電子書籍は著者が宣伝をしないと売れない。だから二人でこの作品の「売り文句」を考えたい。

木暮林太郎:コピーライターの才能をおれに期待するなよ。一言できっちり表現できるくらいなら、演劇なんてやっていないんだから。

川口:わかる。こっちだって同じだ。それができるなら何万文字も文章を書いたりしない。

木暮:『リーガル・ウェポン』という小説で何を語りたいかがわかればいいんだろ?

川口:そう、そういうこと。それを一言でいってみて。

木暮:一言ねぇ……つまり、それは……要するにだ。

川口:要するに?

木暮:まあ、<あなたも銃が撃てる>──っていうのがシンプルでいいんじゃないか? <あなたも銃が撃てる、日本で>でもいいけど。

川口:それだと銃社会を礼賛《らいさん》しているみたいに聞こえないか?

木暮:聞こえない聞こえない。仮に聞こえたとしても、中身を読めばそうじゃないとわかる。銃を持ってもろくなことがないとわかる。登場人物たちはろくな目に遭っていないんだから。

川口:それはそうだけど。

木暮:何かいいたいことがありそうだな?

川口:この作品の趣旨とは違うかもしれないけど、結果的に描かれているのは“銃社会”というより“日本人”だと思うんだよね。

木暮:さすが!──いいところに気づいたな。

川口:“銃社会”そのものは海外にいけば現実に存在するわけだから、あえて日本を舞台にシミュレーションする必要はない。

木暮:かくいうおまえが一言にまとめると、どんな風になるわけ?

川口:そこが難しい。『菊とバット』みたいな日本人論っぽい言葉が出てこないかと思うんだけど。

木暮:タイトルを変えようってわけじゃないんだぞ。『リーガル・ウェポン』のキャッチコピーが『菊とバット』じゃわけわからないだろ?

川口:だから、『菊とバット』じゃないんだってば。

木暮:だったら何だよ?

川口:強いていうなら……<車とゴルフ>かな?

木暮:ああ、なるほど。

川口:要するに日本人は、拳銃とかライフルを所持する“銃文化”というものを“車とゴルフ”を扱うやり方で自分たちのものにした──そういう話だろ?

木暮:確かにそうだ。そうでもしないと日本で合法的に銃が存在している状況がリアルに描けなかったから……いや、大してリアルでもないか。

川口:いわゆる外挿法《がいそうほう》ってやつなんだよ、それは。既知のデータを基にして、その外側を予想する方法──SF小説でよく使われる。

木暮:へぇ、そんな言葉があったんだ。おれは知らずにやってたけど。だったら、どんどんそれをやっていけばいいんじゃないか?

川口:どんどんやれっていったって、やり過ぎたら収拾がつかなくなる。“車とゴルフ”ぐらいがちょうどいい。

木暮:そうか、それじゃあ“車とゴルフ”を極めよう!

川口:極めようって……簡単にいうけどな。

木暮:大丈夫、おまえなら書ける。

川口:しれっとまた不穏《ふおん》なことをいったな!

木暮:<車とゴルフ>のコンセプトを深掘りしてくれればいいんだからさ──ぜひ続編を書いてくれよ。

川口:やっぱり、おれが書くのかよ!

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