見出し画像

ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論1『007/ドクター・ノオ』

Amazon Kindle電子書籍『ジェイムズ・ボンド映画の基礎知識 増補改訂新版』から、最新の「増補部分」を毎週1作、全25作分、公開していきます。

☝ すべてを先に読みたい方は、こちらから。Kindle Unlimited対応です。

第1作『007/ドクター・ノオ』(1962年)

 第1作はまだまだ予算も少なく、前半のアクションは基本的に「格闘」だけだといっていい。「スパイアクション」というより、「捜査もの」あるいは「ハードボイルド映画」に近いイメージだ。後半、クラブ・キーに乗り込んでからガラッと印象が変わるが、その前に敵の内通者であるミス・タロの誘いにわざわざ出かけていく中盤のシーンが、いわゆる「ボンドアクション」のはじまりになった。

 時間的には約5分間。ボンドはサンビーム・アルパインという車種のオープンカーに乗っている。もちろん「秘密兵器」など何も搭載されていない。ホテルで手配したレンタカーではないかと思われるが、原作ではストラングウェイズがこの車種に乗っているので、あるいはそれを使った設定かもしれない。

 それを追いかけてくるのが『ルパン三世 カリオストロの城』に出てくるような真っ黒な車で、冒頭で殺されたストラングウェイズの死体を載せた、あの霊柩車だろう。犯人の三人組が乗っていたかどうかは定かでない。

 ショーン・コネリーが運転しているショットはリアプロジェクションを使ったスタジオ撮影なので、ヒッチコック映画の『北北西に進路を取れ』などの印象からさほどの進化は感じられないが、ここで「ジェイムズ・ボンドのテーマ」がかかるところが大きく違う。

 行く手に故障したクレーン車(ショベルカーのようにも見える)が唐突に現れ、ボンドはオープンカーに乗ってきたことが幸いして、見事に車体の下を潜り抜ける。一方の敵はハンドルを切り損ねて崖下に転落→爆発。ボンドはそれを見て一言「葬式に行くのさ(字幕版)」または「地獄へ逆落としだな(地上波吹替版)」といい捨てる。

 敵とはいえ人の死にまったく動じないボンドのスタイルがここで確立したわけだ。まさに「殺しの番号」の面目躍如である。雑魚ざこはスマートに退治し、“危機一髪”を回避してからパンチのある一言」というのが『ドクター・ノオ』が生み出したボンドアクションの典型である。このパターンは第2作以降どんどん強化されていく。

 作品の冒頭でボンドは「ブースロイド少佐」からワルサーPPKの使用を勧められ、古い小型ベレッタを取り上げられる。しかし、残念ながらそのPPKが十分に活躍したとはいいがたい。デント教授を冷酷に撃ち殺したシーンが最大の目玉なのに、なぜか小道具の銃が別の種類になっているからだ。舞台がクラブ・キーに移り、「ドラゴン戦車」に向かって撃つときは確かにPPKだが、ヘッドライトを壊した程度でほとんど歯が立たない。

 メインの敵ドクター・ノオの登場は開始から約1時間半後。いっしょに優雅な食事をとったあと、独房に入れられたボンドは「通気口」(からつながる謎のトンネル)から脱出するが、そこで彼が受ける身体的ダメージはのちのクレイグ=ボンド彷彿ほうふつとさせる。

 衣服はボロボロ、全身ずぶ濡れ、左脇腹には出血するほどの傷を負っているし、おそらく手足に火傷もしている。ただ、こういったダメージ表現だけはどんどん後退していき、やがては「アクションのあとも髪の毛一本乱れない」揶揄やゆされるほどのスマートさが徹底されることになる。

 ドクター・ノオの両手は鋼鉄製で、ものすごい握力をデモしたりするが、ラストの対決では役に立たないどころか、手が滑って原子炉の冷却プールに沈んでしまう。こうした敵の必殺武器の「デモ」→「実戦」については第2作目以降、意識的に改善されていく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?