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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論21『007/カジノ・ロワイヤル』

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第21作『007/カジノ・ロワイヤル』

 ブロスナン=ボンドが「掟破り」の時代だとしたら、クレイグ=ボンドは「型破り」の時代であることはすでに述べたとおり。白黒映像のプレタイトルからしてそれは一目瞭然で、シリーズの「リブート」に相応しいはじまり方だった。

 レイゼンビー以来の30歳代ボンドで、文字通りの「肉弾」スタイル。00エージェントへの昇格条件というのは初めて聞いたが、約3分間であっさり2つの殺しが行われる。1人目はまだ不器用な「肉弾戦」だが、2人目は実にスマートに執行された。1人目を殺し損ねていたことがガンバレルにつながる演出もニクい。

ここまでが白黒

 マダガスカルで“爆弾男”を追跡する10分間がいわば従来のプレタイトルアクションで、ここで観客は一安心させられる。相手がパルクールの使い手であるのに対し、クレイグの肉弾スタイルはとにかくあちこちにぶつかる。

「重機」好き片鱗へんりんもすでに見られ、加えてCGの使い方がうまい。人物ではなく「舞台装置」のスケール拡大(具体的にはクレーンを長く伸ばしたりしている)に利用するというのが、CG使用に対するボンド映画の回答だったようだ。(のちにスタントマンの顔にクレイグの顔を貼りつけるCGも多用されるようになるが、「誰かがやっている感」はキープされている)

「重機」大好きクレイグ=ボンド

 そもそもル・シッフルが大金を失った理由にボンドをからめたことがシナリオ的に秀逸(原作はそうではない)で、それが中盤のマイアミ空港のシーンになる。タンクローリー(もちろん新ボンドも基本的に「外」にいる)を使ったアクションはダルトン=ボンドを彷彿ほうふつとさせ、「傷だらけになった顔」はまさに『消されたライセンス』のラストであった。つまり、「偶数代目ボンド」として正統な後継者であることを早々に宣言しているのだ。

こんなボンドは見たことなかった

「偶数代目ボンド」といえば、ここでもアストン・マーチン“DBS”が登場する。そして偶然だとは思うが、それがボンドガールの「死亡フラグ」にもなっている。当然“DBS”は「無双」性を発揮せず、AEDのコードがはずれて死にそうになったり、ギネス級に“大破”したりと、クレイグ=ボンド(と観客)に安心を与える存在にはならない。

車が何回転がったかもギネスは記録している

 数日間に及ぶカジノ対決のあいだにもいろいろな危機が挟まれるが、なかでも本来ル・シッフルを狙ったアフリカ人たちとの戦いは壮絶だ。例によってスマートに殺すことができず、そのショックがボンドとヴェスパーを近づける。結果的にボンドはル・シッフルを助けて、『ロシアより愛をこめて』でグラントがボンドを助けた行為の逆にもなるのだ。

 本来のスパイ映画なら当たり前のことだが、死体の処理を考えたり、自ら傷の手当てをするシーンはボンド映画としては非常に新鮮だった。さらに少し遡って展示会場の人ごみのなかでディミトリオスを殺したあとに周囲に向けた視線(様々な意味が読み取れる)も実にリアルだ。

この表情の冷酷さ

 コネリー=ボンドなら「“危機一髪”を回避してからパンチのある一言」を放つところだが、00エージェントになりたての彼にそんな余裕はない。こうした描写は次作でも繰り返される。

 そして、クライマックスはベニスでの崩壊する建物内のアクション。従来のボンド映画なら実際に建物を沈めるぐらいのことはやりそうな気がして、最初はCGを使っているのかどうか判別がつかなかったほど自然かつダイナミックな映像になった。

ボンド映画における適切なCGの使い方

 しかもカッターで切られたり、釘打ち機で撃たれたり、最後の最後までクレイグ=ボンドは満身創痍まんしんそういだ。彼を「生身の人間」として描き切ったからこそ、そのあとに来る悲劇が際立ったといえる。


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