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Kindle電子書籍『7つの異界 涙代(なみだしろ)』メイキングコメンタリー1

【7つの異界とは?】

〈演劇集団テアトロー〉主宰・木暮林太郎が新作台本を書く前に、物理的・予算的に舞台ではできないことへのフラストレーションを吐き出すため、毎回必ず執筆していた奇抜な短編小説群──それらのなかから7編を厳選し、『7つの異界』としてまとめました。

7つの作品は完全に並列・独立していて、読む順番は関係ありません。気になった順番で読んで大丈夫です。全部読む必要もありません。気になった作品にだけ触れてください。

ここでは便宜上、サブタイトルの「50音順」に、個々の作品について著者の二人が語ります。さて、今回のお話は──。

〈「涙代」あらすじ〉

「とある涙の物語」

今回の「異界」は、大きな事件や災害で生じた、人々が受け止めきれないほどの悲しみを引き受ける「涙代(なみだしろ)」という存在がいる世界。ただし、彼らが涙を流すのは、決して大きな悲しみのためだけではなかった。
今回の登場人物は、深夜遅く、大学時代の友人の通夜に駆け込んできた「ぼく」と、彼を待っていた元同級生の伝馬依子(てんまよりこ)。二人は、終電も終バスもなくなった深夜の国道を歩きはじめる──「あの朝」に向かって。

○メイキングコメンタリー1「売り文句について」

川口世文:電子書籍は著者が宣伝をしないと売れない。だから二人でこの作品の「売り文句」を考えたい。

木暮林太郎:コピーライターの才能をおれに期待するなよ。一言できっちり表現できるくらいなら、演劇なんてやっていないんだから。

川口:わかる。こっちだって同じだ。それができるなら何万文字も文章を書いたりしない。

木暮:『涙代』という小説で何を語りたいかがわかればいいんだろ?

川口:そう、そういうこと。それを一言でいってみて。

木暮:一言ねぇ……つまり、それは……要するにだ。

川口:要するに?

木暮:<涙代はつらいよ>って感じ?

川口:それじゃあ、説明になっていない。第一、それをタイトルにすればよかったじゃないか。

木暮:じゃあ、<泣き女はつらいよ>か?

川口:葬式を舞台にしたコメディかと思われるぞ。そもそも「涙代」の伝馬依子《てんまよりこ》もつらいんだって話は、あとのほうに出てくるわけだし……。

木暮:「涙代」たちも、最近じゃ、かなり勝手が違うんだろうな。

川口:どういうこと?

木暮:何しろ情報が早いから、一瞬で多くの人に話が伝わる。人によっては「涙代」たちよりも先に情報を得て泣き出しちゃうかもしれない。そんな人間が大量にいてみろよ、商売上がったりだよ。

川口:商売なのか、あれは?

木暮:商売というか、宿命というか……。

川口:時代とともに、その役割もなくなりつつある……そうだ!──<一億総涙代社会>っていうのは?

木暮:何だか『ニッポン無責任時代』みたいだな。でも本当にそうなっていくのか? 社会全体が、まるで三大義務みたいに泣いていたら、それはそれで大変だろう?

川口:やっぱり専門家が必要か?

木暮:義務化すると逃げまわる人も出てくるだろうし。それを取り締まるって話になる。

川口:「涙代警察24時」?

木暮:とにかく新しいルールの提案が必要なんだ。地震とか台風とか、防災の基準がいろいろ変わるみたいに。

川口:だとすると「涙代」の存在が国民にしっかり認知されるべきじゃないの?──<悲しみ退治の専門家>

木暮:『ウルトラマン』じゃないんだから……でも、どうなのかな? そうすると、悲しいことは全部お任せって感じで、人の不幸や悲劇に一切関心を持たなくなる人間が増えてくる。

川口:じゃあ、どうすりゃいいんだよ?

木暮:いろいろ議論が必要だ。

川口:ずいぶん呑気だな。

木暮:そういう議論の過程を、そっくりそのまま小説にしちゃえばいいんじゃないか、続編は?

川口:国会の“証人喚問”みたいな?

木暮:あるいは裁判でもいいね。泣くのを拒否する「涙代」が裁かれるとか。

川口:「ぼくは泣きましぇん!」とかいっちゃうのか? いったいどういう法律で裁かれるんだろう?

木暮:そもそも資格があるのかとか、掘り下げ方はいくらでもあるだろ?──大丈夫、おまえなら書ける。

川口:しれっとまた不穏《ふおん》なことをいったな!

木暮:そうなるとやっぱり<涙代はつらいよ>ってコメディがいちばん書きやすいんじゃないか? ぜひ続編を書いてくれよ。

川口:やっぱり、おれが書くのかよ!

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