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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論9『007/黄金銃を持つ男』

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第9作『007/黄金銃を持つ男』

 前作が『ドクター・ノオ』を踏襲していたとしたら、ムーア=ボンド2作目の『黄金銃を持つ男』は当然、『ロシアより愛をこめて』の殺し屋グラントとの死闘をリメイクするべきだった。

 しかし、クリストファー・リー演じるスカラマンガはそもそもメインの敵だし、スペクターのような組織とは無縁の一匹狼の殺し屋であり、相当な資産家でビジネスマンでもある。ボンドにある種のシンパシーを感じて、こういう出会い方でなければ、友人関係になってもおかしくなかったとさえ思える。どちらもボンドの「鏡像」的なキャラクターなのだが、イメージが投影される角度は90度ぐらい違っているのだ。

 前作同様プレタイトルにボンドは登場せず、代わりにスカラマンガが実力を示すシーンになっているのはグラントのときと同じ。Qが復帰するものの、その役割は主に「分析」で、相変わらずムーア=ボンドに秘密兵器は与えられない。

 一方のスカラマンガは分解可能なものとソーレックスを利用した「二つの黄金銃」に加え、空飛ぶ自動車まで装備している。グラントのワイヤー付き腕時計に、ボンドがアタッシュケースで対抗していたことを考えると、ここでは大きくバランスが崩れている。つまり、スカラマンガの方が「かつてのボンド」に近い存在なのだ。

 秘密兵器“過多”になっていた「かつてのボンド」に対し、あくまで「徒手空拳」を貫いてうまく決着をつけることができていたら、以後のムーア=ボンドの流れも大きく変わっただろう。だが、どちらかというとその役割はロジャー・ムーアではなく30歳代ボンドのものだった。

『黄金銃を持つ男』の作品構造に根本的なブレを感じるのはそういう理由からだが、不完全燃焼に終わったこと自体は決して悪いことではなかった。前項でも述べたように次回作ですべてがひっくり返るからである。

 個別のアクションを見ていくと、どうしてこれが観客に好評だったと考えたのかよくわからないが「ペッパー保安官劇場」が復活する。しかも今回は水路でのボートチェイスと市街地のカーチェイスの二本立て。

 前者は前作の縮小版でペッパーはボンドのアクションの「観客」にすぎないが、後者では何と助手席に座ってボンドの味方になってしまう。このパターンはのちにジョーズでも繰り返されることになる。

「単発」のアクションなので演技の“構成点”こそ低めだが、コンピューターで精密に計算されたスパイラルジャンプは、次作につながる飛躍の一歩だったといっていい。一方スカラマンガは空飛ぶ自動車で逃亡。フル装備の敵に対し、“徒手空拳かつ臨機応変”に戦うスタイルは徹底されている。

 クライマックスはボンドとスカラマンガの一騎打ち。当初の構想通り“西部劇風”がいいか、完成作品のように賑やかな(ちょっと『燃えよドラゴン』風でもある)スタイルがよかったかはこれ以上論じないが、一番の問題は、プレタイトルでいったんこの場所を提示していることが「伏線」になるのではなく、安易に結末を予想させてしまう逆効果になっていることだ。

 そういう意味で列車のコンパートメントを使った死闘を前作で安易に使わず、ここに取っておけばよかった気がする。さらにその後のニックナックによる“復讐戦”はもはやご愛敬のレベルだった。


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