見出し画像

Kindle電子書籍『7つの異界 デスカフェ』メイキングコメンタリー1

【7つの異界とは?】

〈演劇集団テアトロー〉主宰・木暮林太郎が新作台本を書く前に、物理的・予算的に舞台ではできないことへのフラストレーションを吐き出すため、毎回必ず執筆していた奇抜な短編小説群──それらのなかから7編を厳選し、『7つの異界』としてまとめました。

7つの作品は完全に並列・独立していて、読む順番は関係ありません。気になった順番で読んで大丈夫です。全部読む必要もありません。気になった作品にだけ触れてください。

ここでは便宜上、サブタイトルの「50音順」に、個々の作品について著者の二人が語ります。さて、今回のお話は──。

〈「デスカフェ」あらすじ〉

「とある塔の物語」

今回の「異界」は、1000階建てともいわれる超巨大都市国家。そこに住む人々は外気に触れるどころか、太陽を拝むことも許されていない。さらに、そこでは「コーヒー」が最悪のドラッグとして禁止されている。果たしてその作用とは?
今回の登場人物は、カフェ取締法違反で逮捕された「理薬士」の福来(ふくらい)さんと、彼を取り調べる国家免疫機構警察隊(イミュノ・ポリス)の追疫官、カフェイン中毒を研究する薬学者。二人は福来さんに接触したテロリストを追っていた。

○メイキングコメンタリー1「売り文句について」

川口世文:電子書籍は著者が宣伝をしないと売れない。だから二人でこの作品の「売り文句」を考えたい。

木暮林太郎:コピーライターの才能をおれに期待するなよ。一言できっちり表現できるくらいなら、演劇なんてやっていないんだから。

川口:わかる。こっちだって同じだ。それができるなら何万文字も文章を書いたりしない。

木暮:『デスカフェ』という小説で何を語りたいかがわかればいいんだろ?

川口:そう、そういうこと。それを一言でいってみて。

木暮:一言ねぇ……つまり、それは……要するにだ。

川口:要するに?

木暮:<一杯のコーヒーから翅《はね》が広がることもある>──。

川口:それって戦前の歌謡曲のパクリだろ?

木暮:よく知っているな。絶対わからないと思ったよ。

川口:この作品は塔に関する話なのか、コーヒーの話なのか、今一つブレがあるよな?

木暮:表紙のデザインもコーヒーカップの上にでっかく「塔」の文字だもんな。

川口:そうそう、『7つの異界』のなかでいちばんヘン。

木暮:こういう風に考えたらどうだ? この塔全体がコーヒーカップなんだよ。実は建物全体にコーヒーが満ち溢れている。

川口:ますますわからない。映画『ブレードランナー』のタイレル社みたいな荘厳なビルかと思ったら、巨大なコーヒーカップが伏せてあるわけ? むしろ『モンティ・パイソン』の世界だな、それは。

木暮:だからいったろ、舞台版は『未来世紀ブラジル』ならぬ『未来世紀ジャマイカ』だったって。だったら、おまえが一言にまとめると、どんな風になるわけ?

川口:<窓を開けて深呼吸したくなる>──とか。

木暮:ああ、なるほど。確かに息が詰まってくる感じはあるな。閉所恐怖症的というか……。

川口:そんな世界で、コーヒーの一杯も飲めないなんて地獄だぞ。

木暮:そもそも住民は何を飲んでいるんだろ? 基本的にカフェインの入った飲み物は禁止だからね。

川口:カフェイン抜きだったらいいんじゃないの?

木暮:抜いたカフェインをどうするかって問題がある。

川口:“精製カフェイン”とかね、高値で取引される。

木暮:だから、一切禁止になっている。

川口:じゃあ、もう酒だ、酒!──あと炭酸飲料?

木暮:今の日本の飲み物市場から類推したら、スポーツドリンクとかね。

川口:いずれにしても渇きは癒《い》えるけど、ホッと一息という感じじゃない。

木暮:カフェインは偉大だな。

川口:ああ、それだ。いっそそれにするか──<カフェインは偉大>

木暮:塔そのものが、人々にそれを痛感させるために存在している。まるで一個の巨大な“広告塔”のように。

川口:え、そういう話なの?

木暮:そういう話でもいいよ、続編は。『アド・バード』みたいな感じでも。

川口:そうなると、その広告を誰が見ているのか、塔の外側をもっとよく考えないといけない。

木暮:大丈夫、おまえなら書ける。

川口:しれっとまた不穏《ふおん》なことをいったな!

木暮:<カフェインは偉大>でいいからさ、ぜひ続編を書いてくれよ。

川口:やっぱり、おれが書くのかよ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?