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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論11『007/ムーンレイカー』

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第11作『007/ムーンレイカー』

 前作が『007は二度死ぬ』+『ゴールドフィンガー』だったとしたら、『ムーンレイカー』は『二度死ぬ』+『サンダーボール作戦』である。主題歌を歌うシャーリー・バッシーまでが三回目の登板を果たし、スタイルを確立したムーア=ボンドの快進撃(?)はつづく。

 まずはプレタイトル。一発勝負だった前作とは違って、今回は実に百回近く飛んで撮影された「度肝を抜く」アクションとなった。もう一つ前作と異なる点は、ボンドはパラシュートがない「完全無防備」な状態であること。ここではじめてボンドアクションに「外」の概念が生まれた。このシーンは何度観ても鳥肌が立つ。

 ロジャー・ムーア自身がやっていないことはわかっているのだが、CGのないこの時代は「誰かが実際にやっている」と思えるだけで十分だった。ちなみにここでもまた「ボンドを殺すためだけに飛行機を墜落させる」というバカバカしくも贅沢な方法がとられている。これも『二度死ぬ』と同じだ。

 Qによる秘密兵器の「説明」=「伏線」もムーア時代になってはじめて行われた(前作では観客に秘密にされていた)。説明の対象になったのは手首の内側にはめるダーツガン。ダーツが2種類あることで最低「2回」使われることが暗示される。『死ぬのは奴らだ』のロレックスのように秘密兵器はこれだけではなく、結果としてワルサーPPKの出番がなくなる弊害も生んでしまった。

 前半は日系人俳優が演じたチャンという用心棒が出てくるが、彼の死後は前作に登場した不死身のジョーズが相手になる。彼はプレタイトルにも出てくる(ただし、おそらく雇い主が違う)し、リオのカーニバルではニアミス、ロープウェイ(の上)で本格的に向き合ったあと、彼の人生を変えるような出来事に遭遇。ボートチェイスでもう一戦交えることになる。

 残念ながらこの「ジョーズ劇場」は単発のアクションとして細かく分かれすぎている。ムーア=ボンド前半の特徴ともいえる「中盤にまとまった約15分間のアクション」になっていない。強いていうなら、ここでも「外」に出て闘うロープウェイ戦の「本当にやっている感」と、その後の展開を含めた5分間が面白いといえる。

 ヴェネツィアでは三段階に変化するゴンドラ──通称「ボンドラ」、南米では兵器満載のスピードボートと、ボートアクションが二回も出てくるが、どちらも作品内の「観客」もしくは「同乗者」が存在しない。どうせなら今回はロータス・エスプリの「ボートバージョン」にして、CIA工作員であるホリーを驚かせてほしかった。

『007は二度死ぬ』では寸止めに終わってしまったボンドの「宇宙進出」がようやく実現し、『サンダーボール作戦』を彷彿《ほうふつ》とさせる宇宙空間での「水中バレエ」=「集団戦闘」が再現されたというのに、肝心のボンドがそこに「遊撃手」として参加していなかった(そもそもシーンとして短く、話の展開上、そうもしていられなかったが)のもちょっと残念だ。

 核戦争を起こそうとしたストロンバーグは海底に、毒ガスによる人類抹殺を計画したドラックスは宇宙に、それぞれ自分たちだけは安全でいられるための大規模施設を建設しなければならなかった。そうした敵の計画に比例するように、極端なインフレを起こしたボンドアクションは次作で大きな揺り戻しを受ける。それもまた『007は二度死ぬ』とまったく同じパターンである。


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