ブラオケ的クラシック名曲名盤紹介 〜オケ好きの集い〜  #12『ジョリヴェ:エラート録音集成』

 作曲家「アンドレ・ジョリヴェ」と聞くと、難解な作品を作曲する人というイメージを持つ人が多いようだが、実際には前衛的な音楽から、分かりやすいCM音楽まで、様々な作品を作曲しており、必ずしも全ての作品が難解という訳では無い。ジョリヴェは、1905年に生まれ、1974年に没したフランスの作曲家であり、同じくフランス生まれの作曲家ヴァレーズの影響を大きく受けている。故に、十二音技法や実験的音響に対して特に拘りを持っており、こういった特徴が難解なイメージを持たれてしまう要因のように考えられる。その他、呪術的な要素を含んだ作品も幾つか存在しており、余計に分かりにくいと思われがちではあるが、ちゃんと耳を傾けて何度も聴いていると、非常に興味深い作曲家でもあるのだ。そのようなジョリヴェの数ある作品の中で、ジョリヴェの録音が豊富なエラート社から、ジョリヴェ生誕100周年を記念して作られたCD「エラート録音集成」をご紹介したい。

 「ジョリヴェ:エラート録音集成」は、基本的には過去のエラートから発売された既存音源を集めただけではあるが、その演奏者の顔ぶれは非常に豪華であり、また、収録されている作品も名曲ばかりなため、まさにジョリヴェの名盤と言えよう。収録されている作品と演奏者は以下の通り。

■ディスク1
1. チェロ協奏曲 第1番
 チェロ :アンドレ・ナヴァラ
 オーケストラ :コンセール・ラムルー協会管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
2. チェロ協奏曲 第2番
 チェロ :ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
 オーケストラ :フランス国立放送管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
3. チェロのための協奏的組曲
 チェロ :アンドレ・ナヴァラ
4. ハープと室内管弦楽団のための協奏曲
 ハープ :リリー・ラスキーヌ
 オーケストラ :パリ・オペラ座管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ

■ディスク2
1. トランペット、弦楽とピアノのためのコンチェルティーノ(トランペット協奏曲 第1番)
 トランペット :モーリス・アンドレ
 ピアノ :アニー・ダル子
 オーケストラ :コンセール・ラムルー協会管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
2. トランペット協奏曲 第2番
 トランペット :モーリス・アンドレ
 オーケストラ :コンセール・ラムルー協会管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
3. オンド・マルトノ協奏曲
 オンド・マルトノ :ジャンヌ・ロリオ
 オーケストラ :ORTFフィルハーモニー管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
4. エプタード(トランペットと打楽器のための)
 トランペット :モーリス・アンドレ
 打楽器 :シルヴィオ・グァルダ
5. アリオーソ・バロッコ(トランペットとオルガンのための)
 トランペット :モーリス・アンドレ
 打楽器 :シルヴィオ・グァルダ

■ディスク3
1. フルートと弦楽のための協奏曲(フルート協奏曲 第1番)
 フルート :ジャン=ピエール・ランパル
 オーケストラ :コンセール・ラムルー協会管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
2. フルートと打楽器のための協奏的組曲(フルート協奏曲 第2番)
 フルート :ジャン=ピエール・ランパル
 アンサンブル :Ensemble de Percussion
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
3. リノスの歌(フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとハープのための)
 アンサンブル :マリー=クレール・ジャメ五重奏団
4. 5つの呪文(フルートのための)
 フルート :ジャン=ピエール・ランパル
5. 呪文『イメージが象徴となるように』(フルート編)
 フルート :ジャン=ピエール・ランパル
6. オーボエとピアノ(または管楽五重奏)のためのセレナード
 アンサンブル :マリー=クレール・ジャメ五重奏団

■ディスク4
1. 5つの儀式的な舞踏
 オーケストラ :フランス国立管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
2. ファゴット、ハープ、ピアノと弦楽のための協奏曲
 ファゴット :モーリス・アラール
オーケストラ :フランス国立管弦楽団
 指揮 :アンドレ・ジョリヴェ
3. 典礼組曲(声楽、オーボエ/コーラングレ、チェロとハープのための)
オーボエ :ピエール・ピエルロ
チェロ :ロベール・ベックス
ハープ :リリー・ラスキーヌ
コーラス :フランス国立放送合唱団女声セクション
指揮 :ジャック・ジュイノー
4. 親密な詩(ソプラノと室内管弦楽のための)
 ソプラノ :コレット・ヘルツォーク
 オーケストラ :ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団
指揮 :アンドレ・ジョリヴェ

見ての通り、超絶豪華メンバーだ。しかも、大半の作品が作曲家本人による指揮であるところも注目ポイントである。超絶技巧を駆使した作品が多く、また、なかなか他では録音されていない作品も多いのが特徴なため、ジョリヴェの作品を演奏するプレイヤーにとっての参考音源としても良いだろう。その中で今回は、3曲ほどピックアップして一言添えたい。

●オンド・マルトノ協奏曲

 本作品は、1947年に作曲された協奏曲で、オンド・マルトノを主役に置いた協奏曲として非常に珍しい作品である。そもそも、オンド・マルトノとは何?と思う人も多いと思われるが、オンド・マルトノとは、フランス人電気技師モーリス・マルトノによって1928年に考案された電子楽器であり、鍵盤を用いて所望の音程を指定しつつ、強弱を表現するスイッチを押し込むことで音を発するメカニズムである。現在でも発展途上の真っ只中にある楽器であり、基本は単音しか出せないにも関わらず、第8世代のオンド・マルトノでは三和音を同時に演奏することが可能となっている。参考までに、1974年に考案された第7世代のオンド・マルトノの写真を載せておく。なお、オンド・マルトノを用いた作品としては、メシアンの「トゥランガリラ交響曲」が有名だ。

 本作品におけるオンド・マルトノの位置づけは「精霊」であり、従来のオーケストラで用いられる楽器を超える存在であることを念頭に置かれている。例えば、全ての音域で均質なサウンドで演奏することや、長いフレーズを一息で演奏するなどは、オルガン以外の楽器では不可能であるし、オルガンでは実現出来ないビブラートなどもオンド・マルトノでは可能である。そういった意味で、既存の楽器を超越した存在ということである。本作品の楽曲構成は以下の通り。急-急-緩の珍しい構成であり、ギリシャ神話のオルフェウスに着想を得ているため、このような構成になったと言われている。

 第1楽章 :Allegro moderato
 第2楽章 :Allegro vivace
 第3楽章 :Largo cantabile

第1楽章は、前衛的要素が強いが、カデンツァでトレモロによる疑似和音の効果を出している点が注目だ。第2楽章は、高音域から低音域に駆け抜けるポルタメントや、クライマックスでの6オクターブの音階の駆け上がりが特徴的である。音列からして、よく譜面を覚えられるなぁ…と思った。最初に聴いたときはSF的要素を感じたが、非常にカッコいい楽章であり、強くオススメしたい。第3楽章はオンド・マルトノのサウンドを堪能出来る楽章となっている。オンド・マルトノ協奏曲自体はYouTubeでも聴けるため、オンド・マルトノに興味を持った人には是非聴いて頂きたい。

●フルートと弦楽のための協奏曲(フルート協奏曲 第1番)

本作品は、1949年に作曲された協奏曲で、ソロコンクールの課題曲でも取り上げられるフルート界隈では有名な曲である。アタッカで全ての楽章が連続的に奏され、緩-急-緩-急の4つの構成から成る。

 第1楽章 :Andante cantabile
 第2楽章 :Allegro scherzando
 第3楽章 :Largo
 第4楽章 :Allegro risoluto

 第1楽章は、ゆったりとした叙情的な旋律が印象的である。第2楽章は、3拍子で何とも言えないジョリヴェらしい音の配置が特徴的で、一度聴いたら耳に残るであろう。第3楽章は、第1楽章の旋律を弦楽がtuttiで重く響かせる。最後の第4楽章は、複数の要素が盛り込まれた楽章であり、「リノスの歌」に似たフレーズも幾つか盛り込まれている。ジョリヴェらしさ満載の曲なので、ジョリヴェを聴いたことのない人は是非聴いて頂きたい。

●トランペット協奏曲 第2番

 本作品は、1954年に作曲された協奏曲で、ソロコンクールの課題曲でも取り上げられるトランペット界隈では有名な曲である。ジャズ的な響きが強調されており、編成としては小規模であり、幾つかの管打楽器とコントラバス、ハープ、ピアノで構成される。故に、それぞれの楽器が非常に大活躍であり、協奏曲の伴奏と言いながらも、伴奏も非常に高いレベルが要求される。この小編成は、ヴァレーズがジョリヴェに対して「音符はあまり多くならないように…」と助言したことがきっかけと言われており、音符を増やせば増やすほど、音が開いてしまい、自己表現の機会が失われる概念に基づく。作品自体は急-緩-急の構成であり、以下の楽章から成る。

 第1楽章 :Mesto - Concitato
 第2楽章 :Grave
 第3楽章 :Giocoso

 第1楽章は、ミュートの「フワ~フワ~」としたサウンドを強調した、ゆったりとした序奏が聴きどころだろう。第2楽章は、ブルージーな雰囲気であり、同時代のマイルス・デイヴィスを彷彿させる。初演時、ジョリヴェはソリストに対して「このフレーズをプッチーニを演奏するように歌うように」と助言したらしい。最後の第3楽章は、当時のジャジーな作品に似た刺激的なダンスであり、激しいピアノの提示後、すぐさまトランペットが加わる。この楽章自体は、作曲家シャブリエへのオマージュとされている。全体的に非常に面白い構成の作品であり、是非聴いて頂きたい。

以上、今回はジョリヴェの「エラート録音集成」をご紹介させて頂いたが、作品の難解さはあるものの、ジョリヴェを知る上では非常に良い名盤であり強くオススメしたい。

(文:マエストロ)

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