ブラオケ的吹奏楽名曲名盤紹介~吹奏楽の散歩道〜 #9「名門バンドを訪ねて①〜神奈川大学〜」

先日、10/30の職場・一般の部の全国大会を持って、今年の吹奏楽コンクールも終わりを告げた。

今年もまた熱い演奏が繰り広げられ、大いに吹奏楽ファンを楽しませてくれた。

入れ替わりが激しく、その年にかける思いが演奏にダイレクトに伝わってくるのが中学の部。常連校、強豪校がひしめき合い、圧倒的な演奏が目白押しの高校の部。比較的メンツが固定されつつあるが、きらりと光るバンドが大穴を開ける大学の部、大人の余裕から生まれる音楽と、楽団の色、個性がバラエティに富んだ職場・一般の部。

残念ながら今年はそれらの演奏を聞くことは叶わなかったが、人伝に聞く話や結果においてどれだけの演奏だったのか聴いてみたい団体がいくつもあった。

今度何かしらで音源を入手して聴いてみたいと思う。

そんな感じでコンクールを長年自分なりに楽しんできた私にも、お気に入りの団体というのがいくつかある。

そこで思いついたのが新シリーズ。題して「名門バンドを訪ねて」。

私が個人的に推す団体について、過去の名演や個人的に気に入っている演奏、出版されているCDについて大いに語るというシリーズである。

今回、第1回目は関東の大学の雄、“神大”こと神奈川大学について。

神奈川大学といえば、その演奏の正確性、洗練された安定感のあるサウンドが特徴で、全国大会は1963年に初出場以来、通算49回出場し、金賞は31回にも上り、その伝統は長きに渡り受け継がれている。

1978年には、当時の全国強豪校の一つであった千葉県立銚子商業高校から小澤俊朗先生が指揮者に招聘され、同年全国大会初金賞。1984年〜94年には、2連続の5年連続金賞による特別演奏を成し遂げる等、全国屈指の名門バンドに育て上げた。

私のこのバンドとの出会いは1994年。当時中学2年で吹奏楽沼へ片足を突っ込み始めていた頃。当時の課題曲が全部入っているからという理由で購入した1枚のCDだった。

そこにはその年の課題曲4曲の優秀団体が収録されており、課題曲Ⅲ「饗応夫人」の収録団体が神奈川大学だった。

以前、課題曲編でも触れたあの「饗応夫人」。当時中2の“坊や”であった“俺”にはまったくもって何のこっちゃな曲であったが、「なるほど、あの譜面はこういう演奏、音楽になるのね。」くらいな感じでしかなかったが、大人になって、いくつか他団体の音源を聴いたり、色んな曲、音楽を聴くようになりと、自分の感性と耳が肥えてくると、この課題曲史上最難曲として名高いこの曲をいとも簡単そうに吹きこなす技術、音楽の流れ、説得力、これほどまでに完成された「饗応夫人」は唯一無二であろうとても素晴らしい演奏だ。

1994年の神奈川大学は、2連続の5年連続金賞、「10金」を達成した年だ。

その翌年の1995年、その10年間の軌跡が収録された、記念すべき名盤が発売される。

当時高校生。自分が吹奏楽ファンとして知り始めた曲、聴いてみたい初めて耳にする曲が目白押し。これはどうしても手に入れなければならない。お小遣いが底をつくことを覚悟で清水の舞台から飛び降りる思いで購入したのをよく覚えているが、この選択は大正解だった。

どの曲をとっても決して奇をてらわない、正統派な音楽の作り方、そのための安定したサウンド、技術。

1980年代中盤は少々粗が目立つ演奏もあるが、それも歴史の一つ。年々洗練され、バンド自体が成長していく姿が見えるのも面白い。

私はこのCDがきっかけで神大ファンとなってしまったのである。

2枚組、全22曲が収録されているが、これを聴いてほしいという演奏がありすぎて、ただでさえ長いのに、これ以上長くなってもアレなので、中でも思い入れの強い2つだけご紹介する。

前奏曲「アプローズ」(1989年:特別演奏)

1回目の5金特別演奏の時の演奏。

その後も名曲、名アレンジを残すことになる真島俊夫氏に、この時のために委嘱された曲。

金管楽器による華やかなファンファーレから始まり、短いブリッジの後Tpの短いSoloに導かれ、木管楽器がSoloを交えながら次々にメロディーを繋ぐ穏やかな場面が続く。すると、T.Sax、Euph等の中音域楽器のきっかけでテンポも戻り、パーカッションアンサンブルを交えながら徐々に盛り上がりの兆しを見せる。そして冒頭のファンファーレが再現されると別にテーマが現れ、ゆったりとした荘厳なマーチのような雰囲気、それでいて優雅さも兼ね備えた木管楽器主体の部分と金管楽器の華やかさを随所に織り混ぜながら、終盤にも冒頭部分が再現され、最後コーダへと続く。

今でこそ金管、木管に関わらず、整った透明感のある響きが主流となっているが、時はまだ昭和の香りも残る平成初期。この頃は特に金管はパワーと華やかさが強調され、木管は艶やかなサウンドが好まれた。神大の場合、木管のしなやかさ、金管の華々しさ、それぞれの魅力がこの演奏で十分に発揮され、真島氏の独特のオーケストレーションも相まって大変素晴らしい演奏に仕上がっている。

その後作曲者により改訂がなされ、作曲当時のこの演奏と、今出版されている版は、かなり異なる(特にコーダの箇所は大幅に作り直されている。)が、この曲の魅力、カッコよさは変わらないので、私自身、是非一度やってみたい曲の一つになっている。

ちなみに真島俊夫氏は神奈川大学の出身で、吹奏楽部とも深い繋がりがあったということを最後に付け加えておく。

「スペイン狂詩曲」より 祭 (1994年 自由曲)

先の饗応夫人と共に演奏された自由曲。この2曲で見事10年連続金賞、2回目の5金と特演の名誉を手にした演奏である。

ラベルを吹奏楽で演奏しようとすると、各声部のバランス、ニュアンスの出し方が大変難しく、ちょっと消化しきれなかっただけで簡単に形が崩れてしまう。

しかしこの演奏は確固たる技術に裏付けされた音楽運び、バランスも完璧で、吹奏楽アレンジという“ハンデ”を見事に乗り越え、曲の魅力を最大限に発揮している。これほどまでに鮮やかに演奏されたスペイン狂詩曲は出会ったことがない。

吹奏楽コンクールは制限時間12分。そのうち課題曲の「饗応夫人」が7分弱ということで、残念ながら中間部で多少のカットがなされているので、是非全曲版で聴いてみたいと思ったものだ。

この他にも、神大といえば本当は忘れてはいけない98年のサロメの伝説の名演、響宴にも収録されている93年のディオニソスの祭りの完璧な音楽作り、01年の・・・そしてどこにも山の姿はない

コンクール以外でも90年の饗宴Ⅰで演奏した交響三章、04年定期の3つのジャポニスム、07年の科戸の鵲巣と、まだまだ紹介したい演奏はたくさんある。

サウンド、技術は変われど、変わらないのは小澤先生の音楽作り。過去の銚子商業の演奏を聴いてもそうだとういうことがわかるが、あくまで技術に裏付けされた音楽。ただ難しい曲をやれば良いというわけではない、技術は音楽を作るための、より音楽的に表現するための一つの手段であること、そして楽譜通りに演奏し、楽譜から音楽を読み取ることの大切さというものを体現し、演奏を通じて教えてくれる。

もし自分が知っている曲で、神大が演奏している音源があったら是非聴いてみてほしい。

曲名は知っているがまだ耳にしたことがない曲を神大の音源があったら是非聴いてみてほしい。

たまぁに、中にはその演奏の正確さが故に魅力に欠けてしまう演奏も中にはないわけではないが(笑)

それも引っくるめて、きっとそこには新しい曲の魅力や新たな発見が見えてくるに違いない。

(文:@G)

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