ブラオケ的クラシック名曲名盤紹介 〜オケ好きの集い〜  #5『サンベリーナ組曲 / A.パヴロワ』

今回は、ウクライナ出身のロシア女流作曲家、アラ・パヴロワの『サンベリーナ組曲』を紹介したい。

アラ・パヴロワは、1952年にロシアで生まれた現代音楽作曲家であり、モスクワで作曲を学んだあと、1983年からブルガリアでオペラ作曲を中心に活躍した。1990年からはアメリカを拠点にしながら活動しており、現在Naxos社から出版されている作品の多くは、アメリカに拠点を移してから作曲された作品である。パヴロワの作風は、非常にロマンティック、且つ、メロディアスであり、作曲家自身の感性をダイレクトに聴き手に訴えかけるストレートな音楽が多い。例えば、1993年に作曲された交響曲第1番『さよならロシア』は、アメリカに拠点を移した後に作曲された作品であり、祖国ロシアに対する惜別の思いを表現したものと想定されるし、2002年に作曲された交響曲第2番『新世紀のために』は、作曲の1年前に起きた同時多発テロを追悼し、人類みんなで平和な世界を築こうという思いが込められた作品であることから、メッセージとしては非常に分かりやすい。また、『シャンバラへの道』という絵画からインスピレーションを得て作曲された交響曲第4番のように、いきなり壮大なオルガンから始まるオーケストレーションをやってのけてしまう点も、非常にストレートで分かりやすい。これらのように、単に副題でメッセージを伝えるだけでなく、分かりやすい旋律や、独特のオーケストレーションを使いながら作曲家自身の感性を聴き手に訴えかけつつ、その上で、非常に美しく、時には非常に悲しい響きを作り上げて、聴き手の心を打ち抜く作品を発信しているため、ファンは多いのではないかと推察される。残念ながら、私の知る限り、日本のオーケストラでパヴロワの作品を取り上げた例は無く、日本人にとっては非常にマイナーな作曲家というポジションに留まっている。しかし、一度聴けば確実に心に響くものがあると思うので、是非聴いてみて頂きたい。

さて、今回ご紹介する『サンベリーナ組曲』(2007年作曲)は、北欧の童謡作家アンデルセンのおとぎ話『おやゆび姫』に基づいた5つの曲からなる組曲であり、彷徨うサンベリーナが優しい王子と出会い、幸せを掴むまでが描かれた作品である。1曲目の『序曲』は、主題『サンベリーナの放浪』で、トランペットから始まる軽快、且つ、ドラマティックな作品である。2曲目の『ワルツ』は、夢の中でサンベリーナと王子との舞踏の様子が表現されており、ロマンティックな旋律がワルツ風に奏でられる。3曲目の『タンゴ』は、トランペットが活躍し、盛り上がりを示しながら終わる。4曲目の『悲しみの歌』は、ストリングスを中心に感傷的な旋律が奏でられる。非常に美しい旋律であり必聴である。最後の5曲目の『王子との出会い』は、ハープから始まり、ストリングスによる感傷的な旋律を経て、最後は静かに終わる。

私がこの曲に出会ったのは、以前投稿させて頂いたウィルヘルム・ペッテション=べリエルの歌劇『最後の審判の日の預言者』よりコラールとフーガと同じく、隠れた名曲を発掘することがマイブームだった頃であった。名前すら聞いたことのない作曲家の作品を発掘する上では、CPOやNaxosが出版するCDが良い。そんな中、Naxosから、アラ・パヴロワのCDが数枚出版されており、ジャケットを読んだところ、『美し過ぎる』といった趣旨の文言が多く見られたため、試しに聴いてみよう…と思ったのがきっかけである。色々と買い漁っていると、何も印象が残らない作曲家が多いというのが本音ではあるが、アラ・パヴロワに関しては、完全に宝を発掘した気持ちである。幸いにも、アラ・パヴロワの作品は、You Tubeでも聴くことが出来るため、是非聴いてみて頂きたい。

第1曲:


第2曲:

第3曲:


第4曲:


第5曲:

文)マエストロ

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