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東京ビエンナーレ/企業プロジェクト会議「企業×アートプロジェクト」会場レポート(前半)

一般社団法人東京ビエンナーレでは、企業とアートの協働を議論していく場として企業交流会「企業プロジェクト会議」を立ち上げました。
本レポートでは、2022年1月19日(水)に実施した第一回「企業×アートプロジェクト」をご紹介します。

企業はなぜアートに関わるのか
企業がアートと関わるとき、その背景にはどのような理由があるのでしょうか。企業は、これまでアート作品の購入や協賛など、文化を「支える」役割を担ってきました。そして昨今では、「支える」役割から一歩踏み込み、アートプロジェクトと協働することで、ビジネスを創造的に発展させることに注目する企業が増えています。
しかしながら、豊富な事例があるわけではありません。新しい動きのなかで、どのようにアートプロジェクトと関わるのか。実現していくための課題とは?

第一回会議では、「東京ビエンナーレ2020/2021」の参加企業で、アートプロジェクトでコラボレーションを行った企業の中から、5社(株式会社ジェイアール東日本都市開発、株式会社大丸松坂屋百貨店、日本マクドナルド株式会社、株式会社東京ドーム、三菱地所株式会社)のご担当者に実例をお話いただきました。

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未来の東京を高架下から面白く

株式会社ジェイアール東日本都市開発 大場智子 氏
2019年当時、オープンの準備段階であった<日比谷OKUROJI>でアートを使ったプロモーションを模索していた時に、東京ビエンナーレの<計画展>(2019)に来場したことがきっかけで協働が始まりました。「未来の東京を高架下から面白くする」を目的とし、芸術祭本番では3箇所が会場となりました。特に<日比谷OKUROJI>では、今回の事例をきっかけに、周辺エリアを盛り上げ回遊性の向上に寄与する施設として、イベントが実施しやすい利用ルールを新たに整備しています。企業がアートプロジェクトを実施していくためには、担当者の熱意によるきっかけづくり、イベントを実施するための土台づくり、社内外で関係性を構築していくための仲間づくりがポイントとなります。現在利用されていない高架下の空間は安全管理の部分から検討をスタートするため社内での確認に時間がかかるものの、今回の事例をもとに可能性を広げていきたいと思います。

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地域に向けて扉を開らく

株式会社大丸松坂屋百貨店 織田耕司 氏
大丸松坂屋百貨店のビジョン「5年先の「未来定番生活」を提案する」を実現するための研究組織である未来定番研究所は、谷中にある築100年の歴史を持つ古民家を拠点にしています。協働のきっかけは、百貨店の中で課題に感じていた「地域社会への貢献」「コト消費への対応」「店舗のシンボルアート」「若年層の取込(インスタ映え)」でした。芸術祭では、松坂屋上野店の店舗と未来定番研究所で3つの展示を行いました。さらに芸術祭のインフォメーションセンターとして地域に向けて扉を開いたことで、地域の方々との交流が広がり、場所に馴染むきっかけとなりました。芸術祭に参加することで<もの>だけでなく<体験>の提供ができ、普段とは違った客層の来場、さらに地域貢献への活動へと展開ができた実感があります。芸術祭以降も取り組みを継続していきたいと思います。

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企業の存在意義、使命、私たちの価値観を理念とする活動

⽇本マクドナルド株式会社 蟹⾕賢次 ⽒
 20年前に総合ディレクターの中村政⼈さんがベネチアビエンナーレで発表した作品や、⾼⼭明さんの「マクドナルドラジオ⼤学」など、これまでにもアートとのコラボレーション事例がありました。今回は、藤浩志さんの「kaekko Expo.」と「マックでおもちゃリサイクル」とのコラボレーションを⾏いました。
「マックでおもちゃリサイクル」の「ハッピーリボーン」プロジェクトは、使われなくなったハッピーセットのおもちゃを回収し、店頭で使う緑のトレーに⽣まれかわるという取り組みで、リサイクルの過程を⽬に⾒える形にしたものです。子どもの「ものを⼤切にする気持ち」を育んだり、家族で環境問題を考えるきっかけとなり、それが持続可能な社会へ貢献に繋がればとの思いで実施しました。今回のコラボレーションでは、おもちゃリサイクルの仕組みをわかりやすく⼦どもたちに伝えることができたこと、作家さんと企業の思いが⼀致しおもちゃが⽣まれ返る体験を子どもたちに提供できたことは、企業の存在意義、使命、私たちの価値観に重なるものでした。

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事業価値の創造と社会的豊かさの向上

株式会社東京ドーム 松浦秀範 氏
芸術祭の会場となることで、東京ドームシティがどのような存在になり得るのか、お客様にどのようにアートを見せられるのかという課題がありました。アートを見てもらうにはたくさん人が通る場所でと思い描いていましたが、中村さんに「場所の持っている個性をアートで浮かび上がらせることができる。目立たない場所を教えて欲しい」という言葉をきっかけに、アーティストが全く別の視点で空間を捉えていることに驚きました。林加奈子さんの作品は、社会の様々なフレームのなかで生きる私たちが、純粋に面白さを感じ自然と想像力を掻き立てさせてくれる雰囲気のある作品で、まさに会社の中で生きる私たちにつながるテーマでした。今後も、本物感・伝わりやすさ・体験的楽しさ・視覚的楽しさを取り入れながら、さらに多くの方にアートに触れ合ってもらう機会を創出し、事業価値の創造と社会的豊かさの向上に貢献できればと思います。いかに深く情熱を持って関わっていけるかが、今後の協働につながる鍵だと思います。

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アーティストの成長とビジネスの創造を実現するエコシステム

三菱地所株式会社 井上 成 氏
有楽町の街づくりの文脈からアートと協働しています。再開発で急激に街が変化するなか、先を予見する感覚や社会に課題感を持っているアーティストと協働することは、5年後、10年後、100年後の変化に対応できる街づくりにつながるのではないかと思っています。街の中にある<まだ価値が顕在化していないもの><磨けば光るもの>に対して、感覚が<今>より<先>に向いているアーティストと一緒に光を当てていくことで東京の文化資源が発掘され、未来の文化が作られていくのではないか思います。街をどのようにアート目線(我々とは違う目線)で切り取るかが重要なのです。公的空間の活用には様々な制約がありますが、組織・団体が中心となり活動を支えながら<アーティストの成長とビジネスの創造を実現するエコシステムの確立>を未来のビジョンとして描き、東京ビエンナーレとは引き続き協働していきたいです。

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レポート作成:東京ビエンナーレ事務局
写真クレジット:ただ(YUKAI)、池ノ谷侑花(YUKAI)、東京ビエンナーレ




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