見出し画像

SDSノート_12「アートとビジネスのメディウムを探して」

こんにちは。ソーシャルダイブ・スタディーズ(以下 SDS)、コーディネーターの工藤大貴です。今回は遠山正道さん(Smiles:代表)によるレクチャーのレポートです。前回までのSDSについては下記をご覧ください▼
7/28のアーティストトークに引き続き、完全オンライン実施といたしました。遠山さんは軽井沢の〈Tanikawa House〉からのご参加でした。

スクリーンショット 2021-08-15 18.47.21

▲右:遠山正道さん

遠山さんが歩まれてきた一本の道筋について、33歳企業勤め、絵も描いたことがなく誰に頼まれるでもなく開催した個展の当時のお話しから、現在に至るまで、縦横無尽にお話しいただきました。今回も聴講されたメンバーにその様子をレポートしてもらいます。それではぜひご覧ください▼


***

SDSメンバーの瀧戸彩花です。普段は国の機関で科学と社会のつながりを考える情報発信や場づくりの仕事に携わっています。そのほか、文化人類学や芸術等の観点で、人と人、人とモノの関わり方や伝わり方・関係性を、ひっそりと研究しています。自身の関心は「人と人をつなぐこと」「場づくり」です。

今回は、アートとビジネスの接点を見つけ、互いの良い部分を上手に引き出し、自身が良いと思うものをつくり続ける遠山さんから、 “アート(ビジネス)から生まれるビジネス(アート)の良さ、コミュニケーションの生み出し方を学ぶ回”でした。自分ごと発信、誰に言われるでもなく自分からプロジェクトを仕掛けていくという話にとても魅力を感じます。

Soup Stock Tokyoは、実は初個展が起業のきっかけだったそう。アートとビジネス、水と油のようにも見られる二つの接点はどう探せば良いのでしょうか。

メディウム(*)という言葉の通り、幅広くさまざまなジャンルを結びつけ、新たな価値を生み出す遠山さんの活動は非常に刺激的で、聞いているだけでもワクワクしました。

Smilesの活動の中で最も印象的だったのは、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」への初出展。技術はデンソーの協力で実現され、「アートがなくてはならないものになっている5年後を」(当時)という言葉の通りの作品に仕上がっています。

機械がバルサミコでハートの浮身を打抜き、来店者に渡す時に「ずきゅんっ」とスタッフが言うという演劇的演出には愛を感じます。「自分にむけて言われている」実感を来店者が得るし、スタッフも自分ごとに感じる。より相手に伝わりやすいよう考え議論し、恥ずかしさを越えることは、コミュニケーションにおいて非常に大事だと思いました。
*メディウムには、人と何かしらとを結びつける神秘的な媒体としての意味もあると言われています。

スクリーンショット 2021-08-15 18.49.17

今回ビエンナーレで発表された作品はふたつ。いずれも銀座の三愛ドリームセンター(RICOH Art Gallery、1964年東京五輪の前年建造)に展示されています。「コンテクストはある種のストーリーで、その設定が重要」という遠山さんの言葉通りの作品です。

「Spinout Hours ~弾き出された2時間と、そのいくつか~」は、既存の時計をアレンジした、いわば「レディメイド」。既存のモノ・コトに新視点を加えアートとして提示することで、定義の問い直し(当たり前と思っていることへの問いかけ)としていて、模倣と創作の観点からも興味深いと思いました。不便益(*)に価値を見出すSmilesの特徴だと感じます。

もう一つは、タイムマシーンがモチーフの「OTM(On the Time Machine)」。高度経済成長期前後(1960/2020年代のオリンピック)を往来するという作品。「未来には自分が思い描けばたどりつける」というメッセージは、自分を見つめ直すきっかけをもらえそうです。遠山さんの「生きたい未来は自分が設定しないといけない、自分でたどり着くもの」に勇気づけられました。

遠山さんのアプローチ方法は、アート/ビジネスいずれからでも、共通の意識があると感じます。音楽に例えるなら、通奏低音のようなもの。また、遠いように思えるものにも、実は近い接点があるという気づきを胸に、内的変化を自身でつくり、世の中に提案することの面白みを味わっていきたいと思いました。

北軽井沢の別荘「Tanikawa House(*)」よりアーティスティックな雰囲気で始まった今回は、場づくりという面でも気になる回で、実際に訪れてみたい場所です。

画像3

(*)谷川俊太郎さんの詩からインスピレーションを受けた篠原一男さんの建築。


***

「例えば、アートは個人競技だとしたら、ビジネスは団体競技だ」と、遠山さんはそう比喩しました。アートは主体性が強いのに対して、ビジネスは集団性が強いわけです。「それぞれは凹み同士みたいになっていて、その歪みをうまく交わせれば、アートもビジネスも未来に行けるのでは」とおしゃっていました。

SDSメンバーの鄭暁麗です。芸術大学の大学院に在学し、近代日本音楽史に関する研究をしています。普段は過去の歴史に向けて、音楽分析や史料調査、文献リサーチなど一人作業が多いので、その「反動」としてチームワークやコミュニティと関わること、また目の前に発生している社会課題への関心が高いです。

SDSに参加したキッカケは、ずっとアカデミーにいる自分が、芸術とビジネスの乖離を感じており、「芸術がいかにビジネスと掛け合わせるのか、いかに社会に実装できるのか」という考えが、ずっと心の中にモヤモヤしているからです。

そこで、東京ビエンナーレSDS開講の情報を知った時に、「アートを実装するスクール、ソーシャルダイブ・スタディーズ」というのはまさに自分がやりたいこととピッタリ!そういうワクワクする気持ちで応募しました。

プログラムの中では、実は遠山正道さんのレクチャーが自分にとって一番の楽しみでした。実業家や経営者であり、アーティストや現代アートのコレクターとしても知られている遠山さんだからこそ、芸術とビジネスのメディウムや関係性について、遠山さんならではの「哲学」が持っているかと思います。

今回のレクチャーでは、銀座三愛ドームセンターの展望フロアで展示されている「時」をテーマとしたインスタレーションとAR作品の紹介をはじめ、ビジネスマン/アーティストとしてのこれまでの歩み、またスマイルズで取り組んでいるアートとビジネスのプロジェクトなど、色々なお話を伺いました。

スクリーンショット 2021-08-15 18.50.14

32歳で個展の開催、初めての意思表示。
遠山さんがアーティストとして活動し始めたのは、32歳に初めて開催した個展がきっかけになったそうです。

「夢は何ですかと聞かれて、夢は個展を開催することですねと答えました」

「しかも、一枚の画を書いたこともないのに、1年後のギャラリーを押さえました」

「32歳で開催した個展は、初めての意思表示、初めての自己責任に出会えました」

とおしゃっていました。そして、遠山さんは個展のコンセプトを見つけるのに外側ではなく、自分の内側に理由を探し、自分自身のことを見回す時に「自分ごと」ということに気付きました。

その「自分ごと」を大事するのは、遠山さんのビジネス事業やアートとの展開もずっと一貫されています。「敷居が高い、立派だ」とよく思われます。その見えない「壁」があるからこそ、創作のことには敬遠されています。

しかし、アートとビジネスのメディウムというのは、もはや「やってみる気分」でまず行動につながることが大事だと気付きました。ビジネス側の人としては、経験、技術をアートとどんどん絡んでみると、芸大や美大から見たアートとは、また違うアートが生まれてくます。

アート側の人としては、どんどんビジネスに飛び込んでアートならの発想を提案するのも良いです。イノベーションが起こるのは、アートとビジネスの掛け合わせることによってもたらしたもののではないでしょうか。

スクリーンショット 2021-08-15 18.58.08

1/1の人生だから、自分の未来は自分しか設計できない。
実は東京ビエンナーレ開幕の初日に、遠山さんの作品が展示されている三愛ドームセンターの会場に早速行ってみました。OTM(On the time machine)に乗る前に、正直半信半疑でした。

自分に行きたい未来って、どこにあるだろう?
自分が行きたい未来って、行けるのだろうか?

今回のレクチャーで聞いた「1/1の人生」という言葉が、ずっと心の中に響いています。

「人生の時間、自由に自分で設計できるっていい」
「自分が設計しない限り、誰も設計してくれないし、誰も未来に連れてくれないから」

1/1の人生だから、自分の未来は自分で設計していきたい。未来には、自分が思い描けばたどり着けるんだ…そういう確信を持つようになった自分は、もう一度会場に行って、もう一度OTMに乗ってみたいと思います。

私はずっと音大や芸大にいるのにもかかわらず、理論系の専攻ですから、創作することって難しいなあ、アートの世界は自分にとってもまだまだ遠いなあといつも考えてしまいました。結局、やりたいことがいっぱいあるのに、なかなか実践・創作に踏み出す勇気がなかったです。今回のレクチャーをきっかけに、改めて「自分ごと」を見回してみたいと思います。

また、東京ビエンナーレSDSに参加したこと、自らアートプロジェクトを企画すること、ソーシャルにダイブすること。芸術側の人間ですが、ビジネスの世界に飛び込みたい。芸術とビジネスを掛け合わせたことを実現したい、というのは、もはや29歳の私の、初めての意思表示です。

第12回レクチャーの記録はここまでとなります。それでは、またSDSノートにてお会いしましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?