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株式会社チャレナジー【eSG INTERVIEW】

災害時の電源として活躍する
コンパクトな風力発電機

 風力発電といえば、山間部や海岸沿いなどの広大な場所に巨大なプロペラ風車が建ち並ぶ姿が思い浮かびます。こうした巨大な風車は発電効率を上げる一方、設置場所の確保や騒音の問題なども発生していました。このような課題の解決のため、既存の風力発電システムとは異なるベクトルで独自の風力発電機の開発に挑んでいるのが、株式会社チャレナジーです。現在、同社が開発した「垂直軸型風力発電」は、東京都が進める「東京ベイeSGプロジェクト」において、令和4年度先行プロジェクト「最先端再生可能エネルギー」の分野で採択され、2023年9月から江東区・海の森水上競技場に実証機が設置されています。

 同社が開発したコンパクトな垂直軸型の風力発電機は、災害時の非常用電源としての使用を想定し、少ない工程での組み立て、輸送、設置が可能です。また、設置場所を選ばない「置き基礎」と呼ばれる可搬性にすぐれた施工法を採用することで、さまざまな環境の災害現場で簡便に利用することができます。

海の森水上競技場に設置されている垂直軸型風力発電機。
人と比べると既存のものと比べてコンパクトさがよく分かる
ネジを外すことで取り外しが可能な「置き基礎」

 「気候変動の影響もあって、近年、全国各地で台風や豪雨などの自然災害が多発し、大きな被害をもたらしています。これまで風力発電は、脱炭素を目的に拡がりを見せてきましたが、加えて雨や風などの厳しい環境下でも発電ができることから、災害時の非常用電源としても注目され始めています。しかし、従来の風力発電機はコンクリートの基礎や地面に杭を打ち付けて固定する頑丈な基礎が使われていることが多く、一度設置をしたら簡単には動かせず、災害時の非常用電源としては使いづらいものでした。そこで私たちは、可搬性に優れた小型の風力発電機を開発することで、災害時には、ただちに現場に運んで設置ができ、必要がなくなれば容易に撤去・移動ができる構造を考えました」 そう語るのは、チャレナジー代表取締役CEOの清水敦史さんです。


1000年前の知恵が
最先端技術で今に甦る

 清水さんは、2011年の東日本大震災をきっかけに、本格的に再エネにシフトしていく社会を見据えて、次世代のイノベーティブな風力発電機を開発すべく2014年に同社を起業しました。当初から開発に力を入れていたのは、「マグナス式」と呼ばれる垂直軸型風力発電機です。従来の風力発電機のようなプロペラを使わず、気流内で円筒を回転させる時に発生する「マグナス力」によって、円筒が垂直軸を中心に回って発電する仕組みで、台風なみの強風でも発電ができるため、台風やハリケーンが多発する地域でも利用ができます。これまでに沖縄やフィリピンでも定格出力10キロワット出力の実証機を設置してきました。

マグナス式の模型

 「マグナス式は既存のプロペラ式とは異なり、縦長の垂直型で設置面積も少なくて済み、稼働時の音も静かで威圧感がないのが特徴です。ただし、発電効率を考えると風車はより大型化に向け開発していく方向性となります。その一方で、風力発電を災害時の非常用電源として利用したいというニーズがあることを知り、マグナス式とは別に小型化した風力発電機の開発にも取り組むことにしたのです。当初は、単純にマグナス式でサイズだけ小さくしようと考えたのですが、災害時の非常用電源に利用することを踏まえて、垂直に伸びた板状の風車が回転して発電する、よりシンプルな構造の『サボニウス型』を採用することにしました。小型化することで置き基礎での設置も可能になり、可搬性に優れた風力発電機が誕生したのです」と清水さん。

 実は、このサボニウス型の仕組みの元になったのは、今からおよそ1000年前にイラン北東部のナシュティファーンで生まれた風車だといいます。
 「小麦粉を製粉するためにつくられ、今も現存するこの古代の風車の仕組み元に、最先端のコンピュータシミュレーションによって高効率の羽根の形状を導き出したのが、私たちが開発した可搬式の垂直軸型風力発電機です。風速毎秒3メートルから発電が可能で、14.5メートル以上になると回転を止めて風見鶏のように風を受け流します。これによって、従来のプロペラ風車のように強風時の暴走や破損のリスクを回避できるのです」

「サボニウス型」(上)の原型となる
イラン北東部ナシュティファーンの風車©︎iStock

災害時だけでなく
アイデア次第で多様な使い方も

 現在、海の森水上競技場には、サボニウス型の垂直軸型風力発電機の実証機が2機設置されています。構造物は、縦・横が約3メートル、高さ約5メートル、重さ約5トン。上部に付けられた太陽光パネルからも発電ができます。定格出力は風力発電が100ワット、太陽光発電が128ワットです。風車の素材はアルミで、雪が付着しにくい特殊な塗装を施すことができるため、寒冷地や積雪地でも利用できます。今後、ベイエリアの潮風や雨、雪などにさらされる環境下での実証を通して、社会実装に向けた置き基礎の耐久性や安全性、発電性能の検証を目的に各種データ取得を進めていくといいます。

 「東京都には、都心から離れた中山間地域や島しょ地域など、多様な環境が存在しています。可搬性に優れた風力発電機は災害時の非常用電力としての利用はもちろん、野外イベントや音楽フェスなどでの活用も想定できます。あるいは、この発電機をアート的なオブジェと捉えて、アーティストとコラボレーションをして地域の伝統的な柄を風車に描くとか、企業広告を入れるとか、アイデア次第でさまざまな活用の仕方があり得るのではないでしょうか。」
 古い知恵を最先端技術で甦らせたユニークな風力発電機には、無限の可能性がありそうです。

株式会社チャレナジー代表取締役CEOの清水さん

(文・さくらい伸)