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株式会社アルガルバイオ【eSG INTERVIEW】

藻類の産業化は
ラストフロンティア

近年、健康志向の高まりや食糧危機対策、地球温暖化対策など、さまざまな観点から藻類の産業利用に注目が集まっています。
 
健康食品や化粧品の分野では、藻類由来の天然機能性素材の開発、食料危機対策としては藻類による代替タンパク質の開発、地球温暖化対策としては培養におけるCO2吸収やバイオ燃料の開発などに対して藻類の活用が期待されています。
 
株式会社アルガルバイオは、東京大学で20年以上にわたって行ってきた藻類の研究成果を受け継ぐ形で2018年に起業したバイオテックベンチャーです。
 
「たとえば陸上植物を利用した農業や微生物を利用した味噌・醬油などの発酵食品は少なくとも数百年もの歴史がある一方、藻類の産業化の歴史はせいぜい6、70年あまりと出遅れています。そのため、藻類の産業化は黎明期であり、ラストフロンティアというべき開拓の可能性を秘めた領域だと考えています。
 
現在、産業利用されている藻類は約30種といわれていますが、諸説あるものの自然界には約30万種もの藻類が存在するとされ、いまだその大部分が活用されていないのが現状です。
 
私たちは、未利用資源としての藻類の無限の可能性に着目し、さまざまな産業に最適化したパッケージを提供する藻類プラットフォームを構築して藻類の産業化を進めているところです」と同社の代表取締役社長CEO、木村周さんは語ります。

株式会社アルガルバイオ代表取締役社長CEOの木村さん


健康・美容から環境改善まで
藻類の力に多分野が注目

現在、アルガルバイオが主に取り組んでいるのが健康・美容と食糧、環境分野です。健康分野としては、独自に開発したクロレラ株を使って良質な休息をサポートする藻類サプリメント「Moneru(モネル)」の開発などに取り組み、環境分野としては、工場から排出されるCO2を微細藻類の光合成によって固定化する関西電力とのプロジェクトなどが進行中です。

藻類サプリメント「Moneru(モネル)」。
ネーミングは「藻」と「寝る」から。2023年から販売を開始している

2024年1月に米ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES 2024」では、藻類が持つ旨味による健康的な調味料「algaly(アルガリー)」を出展し、健康とおいしさの両立に関心が高い欧米の人々の注目を集めました。

「CES 2024」の出展ブース

 「膨大な藻類株ライブラリーを基に、世界にも類のない藻類開発プラットフォームを構築することで、さまざまな社会的なニーズに応じた最適な藻類のパッケージ(藻類株の選別と培養・製造・育種の技術)を提供することが私たちの使命だと考えます」と木村さん。 

今後は、バイオ燃料といった藻類を活用したエネルギー開発を視野に入れているといいます。

微細藻類の顕微鏡画像。
細胞分裂する瞬間を捉えたもので、一つあたり約24 時間をかけて分裂し、細胞が増えていく


海水を用いた微細藻類の
海上培養に挑戦

現在、同社は、東京都が進める「東京ベイeSGプロジェクト」の令和5年度先行プロジェクトにおいて、「微細藻類の海上培養」をテーマにした事業が採択され、江東区の中央防波堤エリアで実証を進めているところです。

プロジェクトのリーダーを務める同社の中楯知宏さん(事業開発グループチームリーダー)は、事業の狙いについてこう語ります。

「今回のプロジェクトでは、藻類が持つCO2の固定能や増殖に必要な栄養に着目し、微細藻類を海上で培養するプロセスで海水の環境改善ができないかをテーマにしています。

東京湾は生活排水や工業排水の流入による栄養塩の供給が多く、閉鎖性も強く希釈や外洋放出もされにくいため、栄養塩を積極的に活用できれば、藻類の新たな利用価値が高まると考えています。

また、日本のように平地の面積が限られた環境の中で、微細藻類の海上での培養が可能になれば、カーボンニュートラルを目指すうえで陸地にこだわらず海上の有効活用ができるのでは、という点にも着目しています。

今回、東京都のプロジェクトとしてこうした実証が行えるチャンスをいただき、私たちとしてもチャレンジングな試みに取り組むことができました」

株式会社アルガルバイオ事業開発グループチームリーダーの中楯さん


このプロジェクトでは、2種類の培養装置をつくって海上での培養に挑みます。
一つは「閉鎖系」と呼んでいるポリタンク状の装置を海上に浮かべたもので、もう一つは半透膜を用いた「半開放系」と呼んでいるもの。後者では、海中の栄養塩やCO2など必要なものは取り込み、海中に放出したくない藻類は通さない構造の膜の選定も含めて実証を行います。
 
従来、微細藻類の培養は陸上で行われています。海上での培養自体、世界的にもあまり例がなく、特に複数の藻類種による半透膜を用いた海上培養はこれが世界初の試みだといいます。半透膜に覆われた微細藻類が、太陽光や波による撹拌などの自然の力が加わっても培養が十分に可能なのか、一方で藻類の持つCO2固定能などによって海の環境改善にどのような効果をもたらすのか。センサーによって海中や培養の様々なデータを取得し、分析していく予定です。
 
また、こうしたデータを陸上での培養と比較しながら、培養条件の検討やコスト評価、利活用のあり方などが検証されることになります。

「閉鎖系」と呼んでいるポリタンク状の装置を
海上に浮かべた海上培養装置


未知の可能性を秘めた藻類の産業化について国際的な競争が始まろうとする中、「微細藻類の海上培養技術が確立すれば、海上を平地と捉えたビジネスも生まれ、新たなゲームチェンジャーになる可能性もある」(木村さん)との言葉通り、藻類の社会実装にとっての大きな一歩になりそうです。

(文・さくらい伸)