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東亜道路工業株式会社インタビュー【eSG INTERVIEW】

東亜道路工業株式会社が手がける舗装式太陽光発電

 50年、100年先を見据え、持続可能な都市のあり方を構想する東京都の「東京ベイeSGプロジェクト」。未来の都市像の実現に向けて、最先端テクノロジーを実装する「先行プロジェクト」が臨海部「海の森」エリアでスタートしています。令和4年度の先行プロジェクトでは、「次世代モビリティ」「最先端再生可能エネルギー」「環境改善・資源循環」の3つをテーマに公募し、新規性、独自性、将来展望などの観点から、9件の実施事業が採択されました。今回は、「最先端再生可能エネルギー」のカテゴリーで採択された「舗装式太陽光発電」を手掛ける東亜道路工業株式会社の事例を紹介します。


既存の道路で再生可能エネルギーを生み出す?

 創業93年の歴史をもつ東亜道路工業は、道路の舗装をはじめ、土木と化学を融合させた道路用資材の研究・開発から施工・販売までを一貫して行う実績のある企業です。安全性が高く、環境への負荷が少ない「アスファルト乳剤」を国内でいち早く製造・販売したことでも知られています。

 先行プロジェクトで採択された舗装式太陽光発電は、歩道や駐車場などの舗装路面に太陽光パネルを貼り付け、再生可能エネルギーを生み出す画期的なシステムです。フランスのColas社と国立太陽エネルギー技術研究所が共同開発した太陽光発電舗装システム「Wattway」を採用したもので、表面を特殊な樹脂でコーティングすることで、パネルの上を車や自転車、歩行者が通行することが可能です。また、新たな設備をつくるのではなく、既存の路面に設置することで周囲の景観や環境を妨げないというメリットもあります。東亜道路工業はこのColas社の取組に賛同して、コラス・ジャパン株式会社と共同で国内での普及に乗り出すことになりました。

 気候危機が一層深刻化する中、東京都は「2050年CO2排出実質ゼロ」に向けて、2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減(2000年比)する「カーボンハーフ」を目指しています。脱炭素化を加速するに当たり、この舗装式太陽光発電は非常に大きな可能性を秘めています。「屋根や屋上などに取り付ける小型の太陽光発電は設置がしやすい反面、スペースが限られるという問題もありました。私たちの舗装式太陽光発電は、公共用地の多くを占める既存の道路や駐車場、広場、公園などの舗装路面に直接貼り付けることが可能なため、施工がしやすく、設置場所の選択肢も広がるというメリットがあります」と同社経営企画室長の松村高志さんは言います。

舗装式太陽光発電のパネル
パネル表面はざらざらしており、滑り止めの役目を果たす


厳しい気象条件にも耐えうるシステムを

 日本では台風などの過酷な気象条件が想定されることから、太陽光パネルを路面に接着する際に使用する特殊な樹脂を独自開発し、大型車両の車輪30万輪相当(注)の通過に対する耐久性を確認した、より高性能なシステムを作り上げています。太陽光パネル、蓄電池、電気機器への接続をパッケージ化した「Wattway Pack」を2022年から販売し、先行プロジェクトでもこのシステムを採用しています。
 「先行プロジェクトでは、臨海部に建つ東京都環境局中防合同庁舎の駐車場の路面に舗装式太陽光発電パネルを60枚設置しました。パネル1枚はタテ約125cm、ヨコ約70cm、厚さ約6mmです。最大発電能力は7.5kWPeakで、発電した電力は、蓄電池(容量16.1kWh)に蓄電され、敷地内に併設されたデジタルサイネージ、監視カメラ、LEDガーデンライトの電力源として利用しています。デジタルサイネージには1週間単位で発電量が表示され、見学に来た子どもたちへの環境教育としても活用されています」(企画営業担当・宮島祐介さん)
(注)総重量33 tの車両による促進載荷試験結果。交通荷重が舗装に与えるダメージは輪荷重の4乗に比例するとの仮定に基づき算出。

東京都環境局中防合同庁舎の駐車場の路面に設置されている
舗装式太陽光発電のパネル。
地面に埋め込まれたケーブルが蓄電池に繋がっている
デジタルサイネージについて説明する宮島さん


災害時の非常用電源としての活用にも期待

 現在、Wattwayは、国内では山梨県の民間工場や長野県のシェアサイクルポート、東京・港区の公立学校などでも実装実験が行われていますが、ここまで大規模な施工は初めてとのこと。施工期間は約1週間。臨海部で実施されている先行プロジェクトには、大きな意味があると技術研究所主任研究員の増戸洋幸さんは言います。
 「沿岸部の激しい雨や風にさらされてもシステムとして問題がなく稼働するかどうかを実証する上でも、この場所に設置することに大きな意味があると考えます。舗装式太陽光発電は、災害時の非常用電力としての活用も期待されているため、この先行プロジェクトでしっかりと実証データを積み重ね、災害が多発する日本における舗装式太陽光発電の技術を確立していきたい。特に、既存の太陽光発電システムを設置するための用地確保が困難な都市部の災害対策としても、このシステムは有効だと考えています」

 令和4年度の先行プロジェクトの実証期間は2025年3月末までを予定しています。「その間、私たちは定期的にシステム全体の安全性や耐久性、配線ケーブルや路面接着用樹脂などの検証と評価を行い、実証データを着実に取得していきます。さらに、施工の効率化や設置コストの低減を進めながら、今後の社会実装化に向けてどのような課題があるのかを検証していく考えです」(増戸さん)
 「今後、私たちのようなエネルギーを作る側の企業と、それを使う側の企業など、先行プロジェクトで採択されている他の事業者やパートナー企業の方たちともうまくマッチングを図りながら、プロジェクトを通じて新たなビジネスが生まれることを期待しています」(松村さん)

 今回のベイエリアでの実証実験を足がかりに、災害大国・日本での実績を積み重ね、世界市場をにらんだ舗装式太陽光発電の普及が期待されています。

今回お話を伺った東亜道路工業株式会社の皆さん

(文・さくらい伸)