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東京都下水道局のこれからの技術開発について

 下水道局では昨年9月に、「下水道の未来(あす)を切り拓く技術開発」を理念に、「技術開発推進計画2021(以下「推進計画2021」といいます。)」を策定しました。今回は、推進計画2021の内容を中心に、東京都下水道局の技術開発について紹介したいと思います。

◇技術開発の歴史について
 
東京の下水道は130年を超える歴史を持ちます。
 明治の初め、都市部を中心にコレラが流行し、これを契機に下水道の必要性が認識されるようになりました。東京府は、明治17(1884)~18(1885)年に千代田区神田の一部にレンガ積み暗きょの下水道(神田下水)を建設し、東京の下水道が始まりました。
 下水道局は、自ら現場を持つ首都東京の下水道事業者として、下水道事業の課題に応じた技術の開発に、先駆的に取り組んできました。
 大正11(1922)年に稼働した我が国で最初の近代下水処理場である三河島汚水処分場(現、三河島水再生センター)において、海外で開発された数種類の処理方法を比較検討した結果、散水ろ床法を採用しました。
 その後も時代ごとの課題を克服するため、多くの技術を開発し、導入してきました。

 自由断面SPR工法は、平成9年度に開発した技術で、道路を掘らずに、下水を流しながら老朽化した下水道管の内側に塩化ビニルを巻いていく更生工法です。馬蹄形・矩形などの様々な断面形状の下水道管に対応できるため、老朽化した幹線を再構築するための代表的な工法となっています。この工法は、47都道府県、海外でも採用されています。

 非開削人孔浮上抑制工法 は、平成15年の十勝沖地震や平成16年の中越地震において、地盤の液状化が原因で多数のマンホールが浮上したのを受け、平成18年度に開発しました。震災時に重要な道路の交通機能を確保するため、32都道府県、海外でも採用されています。
 今後は、これまでの技術に加え、最先端のデジタル技術の活用などを加え、さらに研究開発を進める必要があります。

◇代表的な開発テーマ
 
推進計画2021で取り上げた、下水道管・下水道設備・水処理・汚泥処理に関わる代表的な開発テーマを紹介します。
◇危険を伴う下水道管での点検・調査技術
 
下水道管の中には、調査に入るのに危険を伴うなど、作業環境が悪く、管きょの内部を調査するのが非常に困難な場所があります。
 地下の下水道管の中でGPSを使わなくても位置を確認しながら安定して飛行し、真っ暗な管内で鮮明な映像を撮影できるドローンを開発しています。
 ドローンに搭載したカメラにより、遠隔操作で管路内の劣化状況を鮮明な画像で取得し、下水道管の維持管理に活用していきます。

◇雨水ポンプの運転支援技術
 
街に降った雨は下水道管に集まり、川や海に放流されますが、低い土地では自然に放流出来ないため、雨水ポンプ所で汲み上げ、川や海へ放流して浸水を防いでいます。雨水ポンプの運転は、運転にあたる職員が、東京アメッシュの降雨情報や下水道管の水位を監視し、雨水ポンプ所への雨水流入を予測しながら、何台もあるポンプをどのタイミングで起動するかなど、運転の判断をしています。
 最近の集中豪雨では、大量の雨水が一気に雨水ポンプ所へ流入してくるため、運転の判断を短時間で下さなくてはなりません。そこで、過去の降雨や水位、運転履歴などの情報を教師データとし、AIによる解析で流入予測モデルを作り、降雨時には水位計等のデータを速やかに収集して流入予測を行い、運転する職員を支援する技術を開発しています。

◇水処理工程の温室効果ガス削減技術
 
下水は、水再生センターの反応槽と呼ばれる施設で、きれいになります。微生物が下水の汚れ成分(有機物)をエサとして消費することで、汚れた下水は徐々にきれいになっていきます。微生物の活動には空気が必要であり、反応槽内に空気を送る送風機は多くのエネルギーを必要とします。
 水再生センターへ流入する下水は、時間帯や天候、人々の活動等によって水量と水質に大きな変動があります。この変動を常に把握し、それに合わせて過不足なく空気を送ることが効率的です。
 これまでは、処理後の水質のみを測定して送風量を決めていましたが、より多くのポイントで、きめ細かく水質を測定し、AIを含むデジタル技術を活用して送風量を調整する技術を開発します。この技術により、水質・水量に追従した送風量となりエネルギーの削減に貢献できます。

◇焼却過程で消費する電力以上に発電する技術
 
水再生センターにおいて、生物処理などの水処理の過程を経ると、大量の下水汚泥が発生します。この下水汚泥を濃縮・脱水し水分量を減らした上で、高温の焼却炉で処理を行うことで減量化し、焼却灰となります。下水汚泥から焼却灰に至る過程では、多くのエネルギーを使用し、温室効果ガスの排出も伴います。
 下水道局ではエネルギー・地球温暖化対策のため、焼却排ガスの熱で発電し、焼却炉で使う電力の自給が可能なエネルギー自立型焼却炉の導入を進めています。さらに、直接焼却炉へ脱水汚泥を投入していた仕組みを、投入前に焼却炉の廃熱で乾燥させ水分量を減らすことで燃焼効率を高め、焼却炉以外の施設で使用する電力の一部として供給できるエネルギー供給型焼却炉の開発に取り組んでいます。
 これにより、水再生センターなどで使用する電力の削減と、温室効果ガスの排出量の削減に貢献することができます。

◇技術開発推進計画2021について
 
推進計画2021では、冒頭で紹介した技術開発の歴史のほか、技術開発に当たり重視する4つの視点(デジタル、働き方、循環、作業困難)、取組方針、技術開発の手法、技術開発テーマ、そして、開発テーマに関する話題を噛み砕いて解説したコラム等を掲載しています。推進計画2021は、下水道局ホームページから閲覧・ダウンロードが可能です。是非、ご覧になってください。