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~世界初!大型ケーソン2函同時沈設!・高揚程・大口径ポンプの新たな技術開発~

〇千住関屋ポンプ所
 千住関屋ポンプ所は、東京都足立区千住地域に位置し、近年増加している局地的豪雨の発生などに伴う雨水流出量の増大に対応するため、雨水を隅田川に放流するポンプ所です。
 当該地域は住宅密集地域であることから、周辺環境へ配慮し、地域住民と作業時間制限(8:00~18:00)、工事関係車両の搬入台数制限(200台以下/日)および工事関係車両の通行ルート制限等の工事協定を締結した上で施工しています。
 また、地元から工事期間の大幅な短縮を要請されたため、西側(2,614m2)と東側(2,289m2)の大型ニューマチックケーソン2函体を離隔2.0mという近接した状況で、50m以上の深さを同時沈設するという世界初の試みに挑戦し、種々の技術的課題の解決を図りつつ、施工を行いました。

図1、図2

〇「ニューマチックケーソンの2函同時沈設」が採用された経緯
 ポンプ所全体を1函体のケーソンとした場合、敷地条件の制約から平面形状が長方形ではなく、異形とならざるを得ず、沈設時の「ねじれ」現象が想定されたため、安定した構造物として施工することが非常に困難でした。
 一方、2函体に分割して、1函体ずつ順次施工した場合には工期の長期化が回避できないことから、全体工期を大幅に短縮するため、難工事ではありますが、2函体同時沈設を採用しました。

〇軟弱な浅層土層に対する支持力強化の対策
 当該地域の地質は、浅層が軟弱であるため、ニューマチックケーソンの初期沈設部の施工にあたって、以下の目的で地盤改良を行いました。
 ① 本工事のニューマチックケーソンは大型で、底版厚が5.0mもあり、自重に対する浅層地盤の支持力を確保する必要がありました。
 ② 地盤の支持力が下回っていたため、ニューマチックケーソン沈設時は、過沈下状態にならないように支持力を確保する必要がありました。
 以上のことを踏まえ本工事では、ケーソン刃口部は静的締固め砂杭工法、ケーソン函体中央部はセメントスラリー撹拌工法という2つの工法を使い分けて施工しました。(図3~図6)
 この結果、全体を静的締固め砂杭工法で改良する場合に比べて、資材の搬出入で使用する工事車両台数を35%(約1400台)削減し、結果として工事に伴う粉じんの発生量も低減するなど、地元負担の軽減を図ることができました。

図3、図4

図5、図6

〇ケーソン間の周面摩擦力の増加への対策
 ニューマチックケーソンの沈下メカニズムは、沈下力となる躯体自重が、地下水などの揚圧力、周面摩擦力、刃口抵抗力を合わせた沈下抵抗力を上回ることでケーソンが沈下するものです(図7)

図7

 本工事では、施工中の両ケーソン間の壁面に土圧と周面摩擦力が増加する事象が発生しました。これはケーソン沈設時の繰返しせん断作用による地盤の体積膨張(正のダイレイタンシー)が原因であると考えられました。(図8)

図8

 そこで、地盤のダイレイタンシーを考慮できる解析を行い、原因の妥当性を確認しました。その結果、ケーソン沈設時のせん断速度が大きいこと、隣接面が広く(約40m)、近い(2m)こと等から、ダイレンタンシーの影響は、想定を超えるものであることが確認できました。
 また、周面摩擦力の増加に伴い、沈下抵抗力が増加するため、沈下関係図におけるGL-45m以深の沈設時において、沈下力が不足するため、沈下不能に陥ることが懸念されました。(図9)
 この解決策として、約57,000m3の水をケーソンの躯体内に注水し、自重を増加させました。また、高圧切削機により、40MPaの高圧水でケーソン間の地盤を緩め、摩擦力を低減することとしました。この結果、周面摩擦力を242,800kN減少させることができ、最終的に沈下力が沈下抵抗力を上回り、対策の妥当性を確認することができました。(図10)
 これらの対策とGPSによる座標管理や各種計測管理により、最終傾斜1/2,000(34㎜)の高精度で2函同時沈設を実施することができました。

図9、図10

〇高揚程・大口径ポンプの新たな技術開発
 千住関屋ポンプ所は、地下50m程度の非常に深い下水道幹線から流入があり、大量の雨水を隅田川に放流こととなるため、大揚程、大口径のポンプが必要になります。しかし従来の無注水形※1先行待機ポンプ※2の実績範囲(図11)を超えるため、新たな技術開発を行ってきました。
 ポンプの揚程は約44mあり、これは14階建てのマンション相当の高さです。またポンプ排水量は一台あたり450m3/minあるため、全台のポンプを稼働するとプール(長さ50m×幅25m×深さ3m 容量3,750m3)の水を約2分で排水できます。

図11

 開発にあたっては、モデルポンプを製作し性能試験を実施するなどの検証を行いました。
 また、主にポンプに使用する軸受等の部材や形状を改良することで、高揚程・大口径であってもこれまでと同様の機能と耐久性を持つ無注水形先行待機ポンプを開発することが出来ました。
 これにより千住関屋ポンプ所では、高揚程及び大口径であっても従来の無注水形先行待機ポンプと同等の機能と耐久性を備えています。

※1無注水形ポンプ
 冷却水設備が不要なポンプです。従来ポンプでは、内部の回転体によって生じる熱により軸受等が高温になり損傷することを防ぐために、冷却水設備を設けています。しかし地震等より冷却水設備が故障するとポンプが運転できなくなるため、冷却水設備が無くても運転可能なポンプ(無注水形)が導入されました。
※2先行待機形ポンプ
 雨水の流入前から運転が可能なポンプです。従来ポンプでは、一定の水位に達してからポンプ運転を開始していたため、雨水の流入状況を監視しながら運転開始のタイミングを見極める必要がありました。しかし大量の雨水が流入する前にポンプ運転を開始することにより、確実な雨水排水を行うことが出来るため、水位にかかわらず運転できるポンプ(先行待機形)を雨水ポンプに導入してきました。
※3無注水形先行待機ポンプ
 無注水形ポンプと先行待機形ポンプの機能を併せ持つポンプです。

〇これまでの実績
 本工事において、周辺に配慮した地盤改良方法の採用やGPS等を用いた沈設管理手法など、様々な技術的課題を克服した取り組みは、大型ケーソン同時沈設技術の発展に大きく寄与すると高く評価され、平成28年度「土木学会技術賞」や平成30年度「全建賞」を受賞いたしました。(図12)

図12

〇さいごに
 本工事は、ニューマチックケーソンの2函同時沈設後、両ケーソン間の掘削工事が完了し、現在、掘削部にポンプ所の地下躯体を構築するための工事を施工中です。
 今後、ポンプ所建屋の建築工事、ポンプ設備や発電設備などを設置する設備工事が予定されていますが、安全を最優先に、事業の早期完了を目指して施工を進めていきます。