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快適な駅環境を目指して~地下駅の冷房を探る~

1.これってなんだろう?

突然ですが、クイズです!

駅のホームなどで見かける、冷風を吹いている二つの「箱」、
それぞれの正式名称をご存知でしょうか。

ホーム上に設置された空調機。「FCU-7」と書かれている。
同じ空調機だが、こちらは「PAC111」と書かれている。

正解は・・・

正解は、
1枚目:ファンコイルユニット(FCU)、
2枚目:パッケージエアコン(PAC)と言います。

東京都交通局車両電気部では、都営地下鉄にある駅の冷房装置も管理しています。ご利用されるお客様が、夏場の暑い時期に少しでも快適にご利用いただけるように、日々努めております。

先ほどのFCUとPACは、駅の冷房装置の一種で、スポット型空調機とも呼ばれます。
対をなるのがエアハンドリングユニット(AHU)と呼ばれる大型冷房装置です。

機械室で人知れず冷風を作り続けるAHU。FCUやPAC以上に巨大な「箱」

では、駅の冷房装置はどのようなシステムになっているのでしょうか?

先ほどのFCUやPACが並んでいる駅もあれば、無い駅もあると思います。
そもそも、どうやって大きな駅を冷やしているのでしょうか。
今回は、「駅の冷房の仕組み」の一部をお伝えします!

2.地下鉄の冷房史

そもそも地下鉄の駅や車両が冷房化されたのは、実は割と最近のことです。それまでは、冷房のない過酷な世界が広がっていました。
高度経済成長期、日本国有鉄道(略称:国鉄。現在のJRグループ)や私鉄の通勤電車には非冷房車しかありませんでした。当時のお客様は大変な苦労をされて通勤・通学されていたのです。

1968年から地上を走る通勤電車へ冷房の導入と普及が広がっていくものの、地下鉄の駅や車両には長らく冷房がありませんでした。

地下鉄に冷房が普及しなかった理由は、冷房装置を導入すると、排熱が駅やトンネル内にこもるためです。解決策として「地下空間全体(トンネル)を冷やす」という方法が一時的にとられたものの、効果が限定的でした。駅への冷房導入や車両の省エネルギー化・冷房導入が都営地下鉄・帝都高速度交通営団(略称:営団地下鉄。現在の東京地下鉄株式会社。愛称:東京メトロ)とも1988年から始まったこともあり、トンネル内冷房は順次役割を終えていきました。

混雑が増す駅への暑さ対策も進められました。地下鉄の駅に冷房が初めて導入されたのは、1956年の大阪市営地下鉄(現在の大阪市高速電気軌道株式会社。愛称:Osaka Metro)梅田駅です。東京圏では1971年に営団地下鉄 銀座駅及び日本橋駅に導入されました。下表に示す通り、都営地下鉄では1969年に西馬込駅、1972年に白山駅及び千石駅に試験導入が始まりました。

冷房化年表。新宿線は馬喰横山駅から導入。大江戸線は開業時より全駅で冷房実施

地下鉄の駅は、地中に建設されるため建設費がかかります。
建設費抑制のため、機械室などのバックスペースが狭小に構築されやすく、冷房機器を配置するのに十分ではありませんでした。部屋を拡張するにしても、大規模な土木工事が必要となり費用が莫大なものとなります。既に設置されている機器を移設しながらスペースを捻出し、冷房機器を設置していくのは苦難の連続でした。
また、通常のオフィスビルであれば屋上等に配置できる室外機(冷却塔)についても、地下鉄では設置スペースの確保が困難でした。通常、地下鉄として地上と接続している部分は出入口しかありません。こうした出入口、出入口と一体となった建屋・ビルの屋上を活用するために、関係各所や地権者等と協議を重ねていき、室外機(冷却塔)の設置スペースを確保していきました。

捻出した出入口屋上に設置された冷却塔。家庭用エアコンでいう「室外機」の巨大版

このようにして、地下鉄の駅を冷房化する準備を進めていき、1974年の新橋駅から本格導入されました。
東京都交通局では順次、駅の冷房化を進め、2013年に地上駅を除く全駅の冷房化が完了しました。

都営地下鉄駅の冷房化推移

3.都営地下鉄 駅の冷房方式

さて、駅の冷房方式は大きく分けて全体冷房・部分冷房の2種類あります。

①:全体冷房(全館空調方式)

全体冷房のシステム概略図。冷却塔・冷凍機、AHUで構成される

全体冷房は、駅の天井などの吹出口から冷気を流す方式です。
特定の場所から冷気を流さず、換気の一部として冷気を駅の「全体」に送り込むためこのように呼ばれます。
オフィスビルなどで用いられる全館空調方式と同様であり、どの場所においても基本的には同一の温度が保たれます。

ホームやコンコースにある吹出口。駅によっては冷たい風が天井より降り注ぐ

メリットとしては、概ね均一な冷房空間ができるため、不快を感じにくい点です。

デメリットとしては、駅の全ての空間を冷やす必要があり、巨大な冷房装置(冷凍機、冷却塔、AHU等)と、それらの設置場所が必要になる点があります。
また、冷やす空間が大きいほどなかなか冷えにくく、全体的に弱めの冷房温度になる場合があるという点です。

7℃の冷たい水を作る冷房システムの心臓部、冷凍機。大きな筒が機械室に鎮座する。

強力な冷凍能力を有する機器(冷凍機・冷却塔)のため、家庭用エアコンのような冷媒ガスでは不足となります。
そのため水(冷却水・冷水)を冷媒とした冷房システムが導入されています。つまり、駅構内には水道のような水の管が張り巡らされているのです。

関係先との協議により、見晴らしの良い場所に冷却塔を設置できた珍しい例。白色は冷却水管

なお、一部の駅では、地域冷暖房を導入しており、冷却塔及び冷凍機の代わりに熱交換器が設置されています。

地域冷暖房導入駅の場合、冷却塔と冷凍機の代わりに熱交換器が設置される

②:部分冷房(スポット空調方式)

部分冷房のうちFCUの場合の概略図。全体冷房と類似するが、ダクトを介さず直接冷風を吹き出す

駅の一部をスポット的に冷やす方法であるため、スポット空調方式とも呼ばれます。駅のホームやコンコースに設置されている冷気を吹き出している箱(FCU,PAC)がこの方法に当たります。外気を冷やすAHUとは異なり、FCUやPACは機器の正面や背面から空気を取り込み、機器内部で空気を冷やして、吹き出します。巨大な冷風扇風機をイメージしてもらえればよいかと思います。

メーカーによって形も様々なスポット空調機。こちらは状態確認用の覗き窓付きFCU

メリットとしては、必要な場所に必要な台数を設置するだけで冷房効果が得られる点です。また、冷房装置と吹出口が直接あるいは近隣にあるため、冷風が強く、爽快感を得やすい点です。

デメリットとしては、駅のすべての空間を冷やすわけではなく、スポット的に冷やすため、冷え方にムラがでてきてしまうことです。また、ホームなどの設置できるスペースに応じた能力となるため、設置台数を多くしなければならない点もあります。

FCUの場合、全体冷房と同様に冷凍機、冷却塔が設置され、水を冷媒とした冷房システムが構築されています。(一部の駅では地域冷暖房の冷水を受け入れています。)機械室内にAHUが設置できない駅などに採用されます。

とある駅に設置された路線カラー入りPAC。同じメーカーでも能力によってサイズは様々

PACの場合、水を冷媒とする方式(水冷パッケージエアコン)と、家庭用エアコン同様にガスを冷媒とする方式(空冷パッケージエアコン)の2種類があります。


部分冷房のうちPACの場合の概略図。水を使用するが、家庭用エアコンと基本システムは同じ。
空冷PACの場合は、家庭用エアコンと全く同じ仕組みとなる

4.最後に

いかがでしょうか。
各機器の詳細については別の機会で、ご紹介したいと思いますが、駅に導入されている冷房システムについて、ご興味を持っていただければ幸いです。

実は冷房装置以外にも、駅の快適性や列車の安全な運行を支える機械はまだまだ沢山あります。
交通局車両電気部ではこれらの機械を日々管理・維持し、お客様の「日常」を支えております。今回話題にできなかった機械についても、続編希望があればご紹介したいと思います。
お読み頂けた皆様からの「スキ!ボタン(記事下のハート型ボタン)」を多く押して頂けると次回の可能性が高まっていきますので、是非とも宜しくお願い致します!

それではみなさま本日も「「「ご安全に!」」」