見出し画像

災害時でも水を作り続ける浄水場を目指して~水道局電気職の仕事~

はじめに

 こんにちは。私は大学院を修了して平成30年にⅠ類Aで入都しました。現在は入都7年目で、最初の3年間は、浄水場での現場実務を通じながら浄水処理の基礎を勉強し、4年目から新宿の都庁舎で勤務しており、現在は水道局の建設部というところで、浄水場の電気設備を設計しています。今回は、水道局の電気職の設計業務についてご紹介します。

水道事業に電気は必要不可欠!

 水道局の事業は、河川などの水源から引いた水をきれいにする浄水場などの水道施設を通じて、お客さまの蛇口まで水を届けることです。この流れのほぼ全ての過程において電気が使われており、その使用量は年間8億kWhで、東京都全体の1%に相当します。

 

 水道局の電気設備は、浄水場で使用する電気を電力会社から引き入れる受変電設備や、発電設備など高い電圧を扱う設備、浄水場の監視制御を行う設備など様々です。

浄水場の変圧器
監視制御設備

 水道局の電気職は、これらの設備の計画・設計・施工・維持管理の業務に携わります。
 今回は私がいる建設部施設設計課における「設計」業務について紹介します。

電気職の設計業務とは?

 設計業務とは、どのような機器をどこに導入するか記載した仕様書や図面の作成、及び工事の予定価格の算出など、公共工事を発注するために必要な準備をする業務です。
 水道局の設計業務は、部署に応じて内容が様々です。私が所属する建設部は、浄水場の新設工事など、工事金額が数億から百億円以上の大規模な工事の設計を行います。
 担当者は1人で複数の案件の設計を担当しますが、私は主に既存の浄水場に設置する発電設備の設計を担当しています。
 発電設備と聞くと、ビルの屋上などにある非常用の小型発電機を思い浮かべる方も多いかと思います。私が現在設計しているのは、常時稼働するガスタービンと蒸気タービン発電設備で、その出力は一般家庭数千世帯分に相当します。

非常用の小型発電機(数十kVA)
設計中のガスタービン発電機(数千kVA)

 この発電設備があれば、災害時などで電力会社からの電気が途絶えた場合でも、浄水場の水処理を継続することで、お客様のもとへ安定的に水を供給できるようになります。

設計業務の大まかな流れ

 今回の記事では、私が設計している発電設備の工事を発注するまでの大まかな流れをご紹介します。水道局が発注する設備工事は以下のフローのようにほぼ同じ流れで発注することになります。

 

 この流れに記載の項目以外にも様々な業務がありますが、今回は工事の発注までの流れをざっくり知ってもらえれば幸いです。

1 整備計画

 規模の大きい電気設備になると、計画部署が作成する整備計画に則り設計します。整備計画では○○浄水場に、××方式の発電設備を整備する、といった大まかな整備内容を決め、詳細な仕様は全て設計部署で決めます。

2 情報収集

 私の設計する発電設備は、既存の浄水場に電気を供給するため、今ある設備との接続方法などの検討は非常に重要です。「現場百回」とよく言われますが、現在の設備がどのようになっているのか記載された過去の工事の仕様書及び図面等を読み込んだうえで、現場に足しげく通い、設備の設計で課題となるものが無いか確認するなど、検討を重ねることでより良い設計になります。とはいえ、現場によっては下の写真にように、接続予定の排水管が入っているマンホールが地面に埋まっていて見つからないなど、調査に苦労することもあります。

設備の完成図書
地面に埋まったマンホールを探す様子

 また、発電設備は発電機本体以外に様々な機器(補機)で構成されているため、メーカーにヒアリングし、情報収集します。

発電設備の補機(メーカーごとに構成が異なることもあります)

 こうした情報収集を怠ってしまうと、その後の設計に欠陥が生じ、結果として設備工事を施工する際に不都合が生じることになります。

3 設計計画書の作成

 次に情報収集した内容を基に、設計の大まかな内容をまとめた設計計画書を作成します。自分で設備の仕様を決めることが出来るため、設計業務の中では一番楽しい作業です。ですが、この計画書に沿って今後の設計を進めるため、整備計画を作成した部署に仕様を決めた理由を説明し、チェックを受ける必要があります。
 一昔前までは、紙で設計計画を説明していましたが、最近は職場内に大型モニタも導入され、スライド等を活用した説明に変わりました。

大型モニタで設計計画を説明

4 工事設計書の作成

 設計計画が承認されると、いよいよ本格的な設計作業に入ってきます。工事の発注は、工事の受注希望者が、受注希望金額を提示し、最も良い条件の希望者を選ぶ方式(競争入札と呼ばれています)で行われます。この受注希望金額の提示に必要な工事の情報(図面や仕様書)を作成します。

CADソフトで図面を作成中

5 起工

 設計書が完成すれば、起工作業に入ります。起工と名前は付いていますが、実際に工事が始まるわけではなく、4で作成した書類が間違っていないか、様々な部署でチェック行ったうえで、工事を発注する最終決定を行います。お客さまの水道料金で工事を行うため、工事金額によっては、受注者を決めるまでに数か月掛かることもあります。受注者が決まれば、工事を監督する部署に引継ぎを行い、ひとまずの設計業務は完了になります。

一日のスケジュール

 私のある一日のスケジュールをご紹介します。この日は都庁舎内の勤務ですが、日によっては浄水場などの現場で1日中調査を行うこともあります。

 

 私の部署はテレワークを推奨されており、自宅からTeamsなどのオンライン会議ツールを活用して業務を行うことが出来ます。特に設計業務は静かな環境の方が捗るため、テレワークをする人は多いです。

設計以外の業務(輪島市への派遣)

 これまで紹介した通常の業務とは別に、大規模な災害が発生した際には他の自治体に応援することもありました。今年の1月1日に発生した能登半島地震では、水道施設に大きな被害が発生したため、私はその復旧の応援に志願しました。現地では普段の業務とは異なり、管路の復旧計画などを作成しました。被災地派遣では、住民の方に一日でも早く水が届けられるよう尽力することはもちろん、都内で同様の災害が発生した際の電気設備の課題など、通常の業務にフィードバックできる発見もありました。このような突発的な事態への対応もありますが、普段から蓄積した水道施設に関する知識を生かして、住民の方々の助けになるため、非常にやりがいがあります。

水道管の復旧状況を示した地図
復旧作業中の給水所

電気職としての設計業務のやりがい

1 仕事のフィールドの広さ

 都内のほぼ全域が事業範囲になるため、都心のビルに囲まれた現場から、奥多摩の森に囲まれた現場まで、様々な環境の施設に関わる機会があります。

都心にある給水所(建物の下にポンプ設備があります)
武蔵五日市駅(JR五日市線)から車で約30分の山の中にある給水所

2 規模の大きさ

 東京都水道局は国内で最大規模の施設能力を有する浄水場を多数管理しており、その浄水場の電気設備の規模も非常に大きなものになります。これらの設備の設計は、検討する事項も多いですが、設計経験豊富な先輩職員から気軽にアドバイスを貰える環境も整っているので、若手職員でも安心して設計業務に取り組むことが出来ますし、貴重な経験になります。また、設備規模が大きいので、自分の設計した設備が完成した際の喜びもひとしおです。

3 生かせる専門知識

 水道局の電気設備の設計は、自分で必要な設備容量や仕様などを決定していくため、大学で学んだ電気・電子工学や制御工学などの専門知識を活用することが出来ます。技術系の公務員は大学で勉強した知識を生かしづらいと思われがちですが、設計業務のように、こうした知識を最大限生かせる仕事があります。

さいごに

 今回の記事は、電気職でも設計業務について重点的にお話ししました。水道といえば、水道管の工事などを思い浮かべる方も多いと思いますが、安定給水を確保するためには、電気は欠かすことの出来ない存在です。この電気が災害時でも途切れることがない設備を設計することが、設計業務の目的の一つと言えます。こうした縁の下の力持ちとして、設計業務に携われることは非常にやりがいのある仕事になります。
 
 今回の記事で、電気職について少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。