見出し画像

地下鉄の浸水対策 ~東京都交通局浸水対策施設整備計画~

 東京都交通局は、東京の都市活動や都民生活を支える重要な役割を担っており、中でも都営地下鉄は一日に約200万人のお客様にご利用いただいています。
 一方、近年の集中豪雨等の異常気象に伴い、災害が頻発激甚化するなど、気象災害に対するリスクは高まっています。
 また、2015年には水防法が改正され、浸水が想定される区域が拡大するとともに、地域によっては想定される浸水深も深くなっています。
 そこで、東京都交通局では令和5年2月に「東京都交通局浸水対策施設整備計画」を策定し、都市型水害や大規模水害(荒川氾濫・高潮)を対象に施設整備の方向性や具体な整備手法、手順をとりまとめました。

※都市型水害・・・河川や下水道に大量の水が一気に流れこむことから生じる河川の氾濫や下水道管からの雨水の吹き出しなどによる水害
※大規模水害・・・広域的に人的・物的被害等を発生させる洪水氾濫や高潮浸水


・整備計画策定にあたり、大規模水害に対して必要な対策とその効果を検証するため、東京地下鉄株式会社と連携して浸水シミュレーションを実施しましたので、その一部である荒川右岸21km破堤の結果を紹介させていただきます。

■荒川氾濫右岸21k破堤による被害
・平成22年、中央防災会議で公表された資料では、荒川等大規模河川の堤防が決壊した場合における地下鉄の被害想定等が示されました。また、国土交通省が公表した「フィクションドキュメンタリー「荒川氾濫」令和3年3月改訂版」では、豪雨により荒川の堤防が決壊した場合における被害のイメージ映像を確認することができます。

図-1 地下鉄の被害想定
図-2 イメージ映像(荒川破堤)
図-3 イメージ映像(地下鉄の浸水状況)

・荒川氾濫がひとたび発生すると、浸水深は高いところで5m以上となり、広範囲かつ長期間(1週間以上)に及ぶ被害の発生が想定されています。このような状況に陥ると、地下鉄では、地上からの浸水を完全に防ぐのは困難です。
・東京の地下鉄は利便性が高い反面、複雑なネットワークを形成しているため、ひとたび地下に大量の水が流れ込むと、トンネルや乗換駅等を通じて浸水が拡大してしまいます。さらに、図-1を見ると、地上の浸水範囲と比べ地下の浸水範囲のほうがトンネル等を介して広範囲に拡大していることがわかります。これは、地上は浸水していないのに地下空間から浸水する等の可能性を示しています。
・このため、東京都交通局では荒川氾濫に対して、トンネル内や駅構内等の地下部を中心とした対策を講じることで、地下の浸水区域を縮小するための対策を検討しました。

■浸水シミュレーション
 東京地下鉄株式会社と協力し、最新の浸水対策を反映したうえで荒川右岸21k破堤による被害を浸水シミュレーションで確認した後、以下の作業工程をトライアル検証しました。

STEP1
駅出入口等は、止水板や防水扉、防水シャッター等により地上からの水の流入を防止するとともに、浸水区域縮小の要所となるポイント(一言でいえば、乗換駅等の路線が分岐する箇所)を選定し、都営地下鉄から他社線等に浸水が拡大しないよう、トンネル内防水ゲートや駅構内防水扉の対策箇所を設定
 
STEP2
現地調査等により対策実現性を確認
 
STEP3
設定した対策による浸水区域の縮小効果を浸水シミュレーションで確認

図-4 止水板(脱着式)            図-5 防水扉
図-6 トンネル内防水ゲート(スイング式)    図-7 駅構内防水扉(スイング式)


この結果、設定した複数のトンネル内防水ゲートや駅構内防水扉の設置が完了すれば、他線への浸水拡大は発生せず、都営地下鉄の浸水範囲が約1/6に縮小することが分かりました。

■おわりに
 地下鉄という施工環境に加え、防水ゲート等の設置工事は難度が高いことから、対策の完了には長期間を要します。今後も整備計画に基づき、順次対策を実施し、これからもお客様に安心してご利用いただける災害に強い都営地下鉄の実現を目指してまいります。