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世界初の「H&Vシールド工法によるトンネルのスパイラル掘進」

 ※本稿は、令和2年9月、都庁内に配信したブログ内容です。

 皆さんは、『下水道管』というと、どのような印象を持ちますか??
 もしかすると、トイレなどの家庭から流される排水や雨水を流す管という印象しか思い浮かばないかもしれませんが、実は下水道局の事業の中には最新技術を駆使した大規模な工事が数多く存在します。そこで今回は、東京都下水道局で施行した世界初の「H&Vシールド工法によるトンネルのスパイラル掘進」について、ご紹介します。

〇立会川幹線雨水放流管
 品川区の南部を流れる立会川周辺では浸水対策のため、現在立会川幹線から立会川へ放流している雨水を京浜運河に直接放流するため「立会川幹線雨水放流管」を泥水式シールド工法により整備することになりました。

 立会川幹線雨水放流管の整備に当たっては、1本の管の場合は10m以上の内径が必要となりますが、立会川の川幅が狭くシールド外径を8m以下に収めなければなりませんでした。さらに、発進立坑部では、既設の護岸基礎(GL-22m)の下を経過するため、立会川に到達するまでに管径を8m以下にする必要がありました。この様に、上下左右に制約があったことから、発進のときは横二連、到達のときは縦二連となるトンネルを構築できる「特殊泥水式シールド工法(H&V工法二連中折れ式)」を採用しました。

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〇H&Vシールド工法が採用された経緯
なぜ川の下に設置?!設計条件を紹介「立会川幹線雨水放流管」を設置するための設計条件は、以下の通りでした。

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 H&Vシールド工法の正式名称は、「特殊泥水式シールド工法(H&V工法二連中折れ式)」です。横二連でシールドを2機同時発進させ、既設護岸基礎杭下を通過後、スパイラル区間において、片方のシールドは回転させずに直進させ、もう片方のシールドを90度回転させてトンネルを横二連から縦二連になるように構築できる工法です。このような、ねじれたトンネルを構築することができる工法を採用し、内径5mの2本の円形管で流下能力を満たす断面を確保することとしました。

 厳しい現場条件のため、2本のシールドをスパイラルさせながら掘進するという前例のない工事を実施!

〇H&Vシールド工法の紹介                      世界初の二連シールドを90度回転させた浸水対策幹線事業
そもそもH&Vシールド工法とは?? 特徴を紹介


 ここで、H&Vシールド工法について説明します。

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 HとVとは、それぞれホライゾンとバーチカルを表しており、複数の円形断面を特殊な揺動パーツで結合しておくことで、超近接したトンネル断面を構築することが可能となる工法となっています。
 この工法の最大の特長は、横二連型と縦二連型のそれぞれを組合せて施工でき、合理的な地下空間の利用が可能となるという点です。

世界でも類を見ない難工事!最新技術を駆使した二連シールド工事です!

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〇いざ工事着手!しかし多くの課題も。。。
 これまでの説明にあったように、世界初の技術のため、施工実績がなく様々な予測のもと慎重に施工を行う必要がありました。
 例えば、事前の解析結果では、スパイラル掘進時に地盤変位による河川構造物等への影響が予測されたため、随時監視するなど厳格な施工管理が求められました。

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〇当時の工事担当者の苦労話
 ここで当時、現場に携わっていた職員の方にお話を伺ったので少し紹介します。
当時工事に関わっていた担当者Aさん
Q.具体的にどういった点が難しい技術なのでしょうか
A.通常の施工計画書とは別にスパイラル掘進管理計画を作成し、想定される地盤条件においてスパイラル掘進をどのように施工管理していくかを整理しました。前段にもありますが、厳格な施工管理が求められる工事でした。
 具体的には、H&Vシールド機は単円のシールド機が2機接合しているため、各管理項目について2機分を同時に管理しながら掘進する必要があり、掘進管理およびセグメント線形管理の作業が2倍になります。さらにシールド機後胴は固定ボルトにより接合されているため、シールドが90度回転した際に発生する集中荷重等により、接合部を破損させないための管理項目も追加され、左右機(上下機)の状態、両トンネルの状態、接合部の状態をすべて把握し、掘進不可とならないようにしながら接合部も破損させず、管理値内でのセグメント蛇行量になるよう高度な掘進管理、線形管理が求められました。


当時工事に関わっていた担当者Bさん                 Q.当時を振り返って
A.発進立坑は平成13年度に完成したと聞いています。したがって、約20年以上前から動いていたプロジェクトです。本事業に携わってこられた
諸先輩方各工事従事者、近隣の方々のことを常に意識して、これまでの苦労が無駄にならないように受注者をはじめ内外関係者と綿密に仕事を進めて
いました。私は、2年間携わりましたが現場は動き出していたので、それほど苦労したとは思っていません。現場を動き出させるために尽力された前任の監督員や歴代の設計者が行っていた計画・調整の方が非常に大変だったと思います。
 「世界初」ということと「2連の大型シールド」ということで、数多くの見学者等が訪れました。平均すると月2、3回の頻度でした。はじめの頃は課長が説明していたのですが、段々と私が説明する頻度が増えてきて、本事業に対する理解が深まったとともに、度胸がついたと思っています。また、受注者の社員である発進班、シールド班、到達班のそれぞれ別の担当者と打合せを重ね、無事に所定位置に到達させることが出来ました。到達当日は、現場におりましたが、到達の瞬間、受注者の現場代理人と副所長がガッチリ握手して抱き合っていた光景は忘れません。
 本工事によって、2連スパイラル工法の成功事例ができたことで、施工可能な工法であることが証明されました。また、マシン製作や掘進管理などにおいて、貴重な知見が得られ同様の工法の技術的進展に貢献することができました。今後の東京都の下水道事業に活かされることを願っております。

〇現在の施工状況
 H&Vシールド工法を採用した本工事は緻密な施工管理が必要であり、難易度が非常に高い施工でしたが、最新の技術を駆使した延長約780mの二連シールドは、令和元年7月に無事に掘進作業が終了しました。
 しかし、二次覆工工事や発進及び到達立坑部の特殊人孔等の築造は現在も続いています。
 今後も、様々な困難が予想されますが、品質や安全を確保するとともに適切な施工管理を実施し世界初の事業を達成していきます。

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〇これまでの実績
 この工事の成果は、複雑なトンネル線形を有する工事で適用可能となる技術を確立し、シールド技術の発展に大きく寄与したとして高く評価され、令和元年度における「土木学会技術賞」や「都建賞」を受賞いたしました。

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〇最後に
 これからも、厳しい制約条件下の工事であっても創意工夫を凝らし、都民の皆様の安全を守り、安心で快適な生活を支えてまいります!今後とも東京都下水道局をよろしくお願いします!

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