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データの可視化で未来が変わる。データビジュアライゼーションの最前線

都知事杯オープンデータ・ハッカソン第三回募集イベントのテーマは「データビジュアライゼーションの最前線」。昨年度の受賞チーム「VIZZIES」と、東京大学大学院 学際情報学府の渡邉研究室の方々に登壇いただき、データを可視化する手法や最新の研究事例を紹介していただきました。

データの可視化分析を意味する「データビジュアライズ」の部門は今年度新設され、注目を浴びている分野です。この言葉にあまり馴染みがない方でも、今回のプレゼンテーションを通じて、その意義と可能性を感じていただけるはずです。ぜひご覧ください!

データビジュアライゼーションの重要性

まず登壇いただいたのは、VIZZIESチームメンバーの中西優介さんです。VIZZIESは、オープンデータの使いやすさ向上を目指すカタログサイトの可視化と、利用ノウハウ共有の場づくりを提案し、昨年度の審査委員特別賞(アイデア提案賞)を受賞しました。

VIZZIESの中西さん

中西さんはビジュアライゼーションの意義についてこうお話します。それは、「理解してもらう」「行動してもらう」ための情報を、「見てわかる」状態で提供するということ。例えば、数値データの表よりも、棒グラフや色分けした表の方が、データの傾向や重要ポイントを一目で理解できますよね。理解と行動を促したいのであれば、ビジュアライゼーションがカギとなるのです。

では、「見てわかる」状態にするにはどうしたらいいのでしょうか。それには、意識する前に脳が感知する「視覚属性」の活用が重要と言います。位置、大きさ、色、形状などの視覚属性を適切に使うことで、データのメッセージをより強く、正確に伝えられます。中西さんは、このプレゼンテーションの中でさまざまな実例を紹介し、同じデータでも視覚属性の使い方で印象が大きく変わることを説明されていました。

こうしたデータビジュアライゼーションの技法を学ぶことは、相手に行動を促すだけではなく、自分自身のデータの読解力も高めることもできます。つまり、ビジュアライゼーションの習得は「正しいコミュニケーションをガイドする」ことに繋がるのです。

最後に、VIZZIESがビジュアライゼーションに使っている「Tableau」というBIツール(※)について紹介されました。Tableauは、プログラミング知識がなくても直感的な操作でデータの可視化分析を行うことができるツールです。ユーザが所属するコミュニティが活発なのも特徴のひとつ。コミュニティ内でオープンデータの可視化をおこなうプチハッカソンを開催したところ、たった1ヶ月で多くの可視化事例が集まったこともお話されていました。

今回のお話で、適切にデータビジュアライズの技術を用いることで、複雑なデータも理解しやすく、行動を促す強力なツールとなることがわかりました。オープンデータの活用をさらに進めるには、このようなビジュアライゼーションが今後ますます重要になっていくでしょう。

※BIツールとは:ビジネスインテリジェンス(BI)ツールの略称。企業や組織が持つ大量のデータを収集、分析、可視化するためのソフトウェアです。

ビジュアライゼーションで、100年前の災害を自分ごとに

続いて、東京大学大学院 渡邉研究室の金甫榮さんと山口温大さんが登壇し、「100年前の災害を自分ごとに」というテーマで、関東大震災のデータ可視化プロジェクトご紹介いただきました(以下、お二人のお言葉を借りて記載しています)。

東京大学大学院 渡邉研究室 金さんと山口さん(左から)

このプロジェクトは、関東大震災100年企画展「震災からのあゆみー未来へつなげる科学技術ー」に渡邉研究室が展示の協力をしたことから始まります。この展示コンテンツを作成するにあたり、「可視化によって被災状況を伝えることで、当時の記憶を現代に繋げ、防災意識の向上につながるのではないか」と考えたと言います。そこで、展示を見てもらった方々に、100年前の災害を「自分ごと化して捉えてもらう」ことを目指しました。

自分ごと化には、歴史上の出来事を現在の視点で体験させることが重要です。100年前の企業と現在の企業のつながり、過去と現在の場所の対応関係をできる限りリアルに表現することで、現代との接点を感じられるようにしました。

金さん

そのために利用したデータは多岐に渡ります。国立科学博物館の所蔵資料に加え、産官学の連携によって渋沢栄一社史データベースや企業アーカイブズ機関のデータも活用したと言います。震災当時の延焼域を時間ごとに記録している地図については、画像編集ソフトで延焼域を抽出し、GISソフトで緯度経度を結びつけ、位置座標が付与されたデータにすることで、加工をしやすくしました。

こうして様々な箇所で得た、場所・企業・時間など異なる切り口で得られたデータを組み合わせることで、多様な形式で可視化をすることができました。博物館では大型ディスプレイを展示し、Webサイトではストーリーマップを掲載、そしてインタラクティブに操作できるようにアプリも制作しました。

山口さん

博物館での展示は終了しましたが、国立科学博物館の特設サイトからこのプロジェクトで作成された作品群を閲覧することができます。

以上がご紹介の主な内容となりますが、インタラクティブで高精度な地図を見ていると、100年前の状況が目の前に蘇ってくるようです。まさに、今の自分に置き換えたかたちで当時の状況を知ることができました。可視化という技術は、歴史を振り返り、未来を考える貴重な機会をも提供してくれる、大きな可能性があることがわかりました。

パネルトーク:データビジュアライゼーションの課題と発展

第二部のパネルトークでは、VIZZIESチームのakiさんも加わり、視聴者の質問に答える形で、データビジュアライゼーションに携わるきっかけやデータ整理の重要性などについてお話いただきました。

まずは、データビジュアライゼーションに携わるきっかけについてです。中西さんは業務で通信量の予測を行う中で、自分の分析結果を周囲に正しく理解してもらうために可視化の手法を学ぶ必要性を感じたからとのこと。一方、akiさんは業務でTableauの使用が求められたことを機に使い始めたところ、そのツールの魅力に惹かれ、個人で勉強を続けているとのことでした。

中西さんとakiさんは、昨年度の都知事杯オープンデータ・ハッカソンにも参加しています。中西さんは「オープンデータは使いにくい」という認識から、その改善に貢献したいと思い、都が主催するハッカソンに参加を決意したと言います。akiさんはTableauのスキル認定に合格し、さらなるスキルアップのためにエントリーしました。日頃からデータやツールに関心を持っていたお二人にとって、ハッカソンは格好のチャレンジの場となったようです。

akiさん

続いて、金さんと山口さんには、「古いデータを扱う際の課題とその解決方法」について多くの質問が寄せられました。

金さんは、関東大震災当時の企業の被災状況を可視化する際、現在とは異なる住所表記や企業名の表記揺れに苦労したと言います。古地図と照らし合わせての位置特定や、社史等を調べての企業名の紐付けに数か月を要したそうです。

山口さんからは、紙の古地図をデジタル化する際の苦労について話がありました。地形の差異、測量データとのズレ、そして古い地図ゆえに発生した歪み……。これらの課題に対し、一つひとつ丁寧に、画像編集ソフトやGISソフトを使って補正や緯度経度の突合を行うことで、データの正確性を担保したとお話していました。

お二人の話から、古いデータを扱う際には、当時の記録を丹念に読み解き、現在のデータに重ね合わせる地道な作業が欠かせないことがわかります。可視化をおこなう前に、信頼できる史料の収集と、デジタル化に適した形式への変換がまずは重要であるということがわかりました。

古いデータの可視化には前処理が欠かせませんが、昨今のオープンデータの活用においても、データを分析に適した形に整える作業は必要です。中西さんやakiさんは、データの前処理をどのように行っているのでしょうか。

やり方は様々のようですが、Tableauなどのツールを使えばプログラミング知識がなくてもある程度対応できると話していました。とはいえ、自治体ごとにデータフォーマットがバラバラなことが多いため、可視化の際に問題になるとの指摘もありました。今後は、こういったデータそのもののあり方も、行政とのコラボレーションやコミュニティによって改善が進むことが期待されます。

最後に、登壇者からは都知事杯ハッカソンに挑戦したい方々へ熱いメッセージが送られました。

中西さん「アイデアを形にするのはとても楽しいことです。さまざまなツールもありますし、ビジュアライズ部門もできたので、参加しやすい状況が整っていると思います。アイデアを具現化する楽しさをハッカソンで経験しましょう!」

akiさん「まず出てみましょう、参加してみましょう!私自身は具体的なアイデアがないまま参加しましたが、良い経験になりました。まずは一歩踏み出して挑戦することが大切だと思います。」

金さん「初心者からプロジェクトに関わりましたが、ちょっとしたアイデアでも、いろんな方と取り組むことで、出来ることがどんどん広がりました。ビジュアライゼーションはやればやるほどアイデアが出てくる分野です。初心者の皆さんでもぜひ挑戦してほしいです。」

山口さん「古いデータや埋もれていたデータを利用してビジュアライズをすると、これまでに見えてこなかった新しい発見ができます。ハッカソンに参加してその楽しさを体験してみてください。」

データ可視化は、複雑な情報を的確に伝え、新しい気づきを与えてくれる強力な手法です。Tableauのような可視化ツールの発展で、専門家でなくても取り組みやすくなりました。オープンデータの可能性を引き出すためにも、多くの方にデータビジュアライゼーションへの挑戦を期待したいと思います。

都知事杯オープンデータ・ハッカソンへのエントリー締め切りは7月26日。今年度新設されたビジュアライズ部門でのチャレンジはもちろん、サービス開発部門やアイデア提案部門でのエントリーもお待ちしております。ぜひこの夏はハッカソンで、アイデアを形にしていきましょう!

※イベント中のその他の質問や、過去に寄せられた質問への回答は、<こちら>に掲載しております。

アーカイブ動画を公開しています

当日のお話や質疑応答をじっくりとご覧になりたい方は、下記アーカイブ動画を公開していますので、ぜひご覧ください。

今後の都知事杯オープンデータ・ハッカソンの予定

募集イベントは全4回。オープンデータ初心者から上級者まで、エンジニアの方もそれ以外の方も楽しめる内容なので、ぜひ <こちら>からご参加ください。

エントリー締め切りについて

都知事杯オープンデータ・ハッカソンの、エントリー締め切りは7月26日までとなっています。みなさまのエントリーをお待ちしています!