生き残るために

 「社会は厳しい」

 嘘ばかり言っていた大人たちの言葉の中で、本当のことといえばこれくらいだろう。そして、こうした大人たちの言葉の奥には、諦めだけではなく、自身もその厳しさを構成する要素の一つであるという醜い矜持が隠れていた。

 貴様はそんな厳しい社会を心底誇り、望んでいるのか。ピーターパンシンドロームと言われても構わない。僕が彼らに問いかけたいことは、この一言に尽きる。

 

 数日前のことだ。弱小資格を取るためにファミレスで試験勉強をしていた僕の隣に、新卒風の若い男二人がやってきた。いかにもジモティーな感じで、仲良さげに談笑している。

 「仕事どう?」

 「俺は全然つらくねーわ。つか、できるできるってめっちゃチヤホヤされてる」

 誇らしげにそう言う二十歳そこそこの男は、元サッカー部というような風体だった。同じホモ・サピエンスだというのに、こんなにも現実世界との対峙の仕方が違うことに、激しい嫉妬と気持ち悪さを感じた。同時に、こんな奴らとまともに戦ったって、どうしたって勝ち目がないという危機感も覚えた。遺伝子が違うのである。

 だからといって、負け続けるのは悔しい。希死念慮と常に向き合いながら、それでも僕をこの世に留めているものは、他ならぬ怒りである。

 何も悪いことはしていないのに、なぜ自分が死刑囚と同じ死に方をしなくてはいけないのか(『完全自殺マニュアル』の影響で、首吊り以外の手法は考えられない)。崩壊すべきは、僕ではなく社会の方ではないのか。

 だからといって、社会に対する復讐のために、テロリスティックな手法に走ろうとも思わない。勢いさえあれば誰でもできるような復讐劇に、さしたる価値はないと思うからだ。

 僕が生きている間に、満足のいくような復讐ができる可能性は、限りなく低いだろう。それでも、死んでしまえば抵抗すらできなくなってしまう。だから、死なないために、最近は次のようなことを意識している。

1.精神科医を信用しないこと

 精神科医がくれるものは診断書と薬だけである。彼らは代書屋さん兼薬屋さんでしかない。どんなに毎日がつらくても、彼らにそれ以上のものを求めてはいけない。彼らはカウンセラーですらないのだから。あと、彼らは診断書はくれるが、診断をしてくれるとは限らない。薬を飲むと決めた場合は、Wikipediaに載っている程度の知識は把握しておき、あわよくばこちらから処方を誘導すること。

2.意識して寝ること

 労働への恐怖で寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりすることはよくある。毎日熟睡できなくてもいいので、薬を使ってでも、3日に1度はよく眠りたい。

3.体をほぐすこと

 精神をマシな状態に保つことは本当に難しい。少なくとも精神と身体は連関しているし、生きづらさの一部は筋肉の凝りという形で現れる。体をマシな状態にすれば、文字通り気休め程度にはなる。

 僕は中山式快癒器やダンベルの上に寝転がって自己指圧をしたり、時々整骨院に行って低周波治療や超音波治療を受けたりしている。鍼灸や高電位治療、サウナも良いと思う。だが、どれも3~4日もすれば元に戻ってしまう。それでも、やらないよりはマシ。

4.サプリメント・ビタミン剤の服用

 向精神薬と比べて圧倒的に副作用が少ないのに、馬鹿にできない効果があるため、積極的に使用したい。僕は亜鉛、ビタミンB群、ビタミンC、フルスルチアミン・メコバラミン・葉酸等の合剤(ナボリン、アリナミンEXゴールドetc.)を服用して、ギリギリ労働できる状態を保っている。

 他におすすめのサプリメントがあればぜひ教えてください。

5.孤独を当たり前だと思うこと

 切羽詰まっているときに、それっぽいワードでグーグル検索をしていると、「こんな私にも頼れるパートナーが」的な体験談ともライフハックともつかないゴミに出くわすことがある。

 無論、伴侶を持つことで楽に生きられるのならばそうすればいいと思うが、それを体験談として語ることは、実家の太い人が「こんな私も難関大学に」と語るようなものだと思う。

 どこかの自己啓発書のように、「孤独を楽しむ」みたいなのはもってのほかだが、孤独を引き受けて、当然のものとして付き合っていくことが、生き残るために必要なのではないかという気がしている。孤独を美化するのも、忌避するのもいけない。

おわりに

 自分が死なないための備忘録として絞り出したつもりだが、これしか出てこないことに驚いた。やはり、ライフはハックできないものなのだろうか。

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