日本一周その1(四国編)

 労働を辞め、日本全国を三分割にして巡るという遊びをやっている。現在三分の一を終え一時帰宅し、求職活動(≠就職活動)に精を出すなどの他は、ダラダラ過ごしている。
 前回書いた準備編では、まず九州へ行くと言ったが、出発直前に痛風発作が起こり、1週間も足止めを食らってしまった。そのため翌月の求職活動に支障を来さぬよう、最初の行き先を四国に変更した次第である。
 今回の四国編の日数は15日。本当はもう少しゆっくり回るつもりだったが、予想以上の寒さで野宿が2回しかできず宿代ばかりが嵩んだため、早めに帰還することとした。以下、日記をもとに、要所要所を思い出しながら書いていく。

3月1日(金)


 茨城の自宅を13:00過ぎに出発。やっとの思いで痛風が八割方回復し、もういけるだろうと判断する。が、隣の市まで走った頃、左足の患部にはギアチェンジにより深刻なダメージが蓄積。引き返すというのも頭をよぎったが、それはあまりにも情けない。とりあえずドラッグストアに寄り、リングルアイビー(イブプロフェン)とアンパンを購入。薬を飲んだら何とかなりそうだったので、進むことに。
 東京を過ぎる頃から痛み止めが切れてきて、またギアチェンジがきつくなる。2速発進等を駆使して、左足の操作が最小限になるように運転する。
 18:00頃、神奈川県庁を見る。関東の県庁の中ではダントツで洒落込んでいて、風格がある。晩飯をかっぱ寿司で済ませ、初日だというのに雨に降られながら、小田原の健康ランド「コロナの湯」にたどり着く。左足はパンパンに腫れていて、びっこを引きながら受付へ向かった。

3月4日(月)


 4日目。左足の痛みは続いているが、ホームセンターでメガネレンチ等を買い即席のシーソーペダルを作ったので、運転はかなり楽になった。
 この日のメインイベントは天理教本部見学。天理市中心部に近づくと、仰々しい建物が現れてくる。和風なのだがどこか中国っぽさもあり、『千と千尋の神隠し』に出てきそうな雰囲気。
 参道にはたこ焼きその他の屋台が出ており、帰りに寄ろうかなぁ、などと目論む。
 まずは本殿の敷地の端っこにあるインフォメーションセンター的な建物へ。
「すいません、見学に来たのですが、初めてで」と言うと、中年男性はパンフレットをくれて、本殿の参拝法を丁寧に教えてくれた。
 靴を脱いで本殿へ上がる。巨大な木造建築で、信者たちの奉仕により隅々まで掃除が行き届いている。若い母親に連れられた幼子二人が懸命に雑巾がけをしているのが、健気で、痛々しい。
 新興宗教にありがちな嫌味なギラギラ感はなく、アウェイの者にも落ち着きと崇高の感をもたらしてくれる。床材がずっしりとしていて暖かみがあり、足裏から建築費用が窺える。
 反時計回りに進み、途中数ヶ所で見よう見まねの礼拝をして、だいたい15分くらい。楽しみにしていたたこ焼き屋台はもう店じまいを始めており、無念。

3月6日(水)

 6日目。予想外の寒さと疲労のため、あまり距離は伸びず。20代前半の頃にやった旅では1日400kmが平常運転だったが、今では250kmも走れば疲労困憊である。当時より一回り小さいバイクに乗っているというのもあるが、やはり若さは確実に失われている。

 淡路島を経由して徳島県に入る頃には、もうだいぶ陽は傾いていた。まだこの旅では野宿をしていなかったので、寒かろうが何だろうが今日こそは野宿をするぞと覚悟を決めていた。
 セルフサービス式の食堂チェーンで晩飯を済ませ、徳島市内のスーパー銭湯「あらたえの湯」で身体を清める。風呂上がり、気温一桁の中バイクに乗るのはつらいものがあったが、目星をつけていた近くの公園へ向かう。
 屋根を諦めてベンチで寝るか、狭いが屋根のある滑り台に身を潜めて寝るか、考えた挙句、公園併設の集会所の玄関前の軒下にマットを敷いて寝ることに。
 寝袋に包まり、最初は案外余裕かと思ったが、しばらく経つと底冷えが酷くなる。頼みだったホッカイロ「マグマ」も気休め程度のものだ。気温は6度だった。急に強烈な尿意を覚え、公衆便所へ駆け込む。再び寝袋に包まり、凍えながらもウトウトしてきた頃、突然敷地内に車が入ってくる。
「バレるなよ、バレるなよ……。こっちに来るな」
 祈り虚しく、中年女性が集会所玄関、即ち僕の寝床へと近づいてくる。諦めて片付けようと起き上がると「わぁ! びっくりした」などと言われ。
 僕はあくまで低姿勢に「すいませんねぇ、すぐ片付けます」と寝袋を丸める。
「旅行中ですか? 私は今日は勉強会がありまして、その準備に来たんです」
 いやいや、今午前4時ですけど。真っ暗ですよ。勉強会? どうせ宗教でしょ。

 このまま徹夜はきつい。荷物をまとめ、寒さに歯を食いしばりながら、寝床の第二候補として目星をつけていた某国立大学へと向かう。
 ありがたいことに、門は開いていた。駐輪場へバイクを停め、非常階段を登ってみるとちょうど屋根のある渡り廊下で、野宿場所としては文句なし。1時間半くらいは眠ることができた。

 6:00過ぎ。建物内の電気が点き、目が覚める。直後、背後の扉が開き、ガタイのいい警備員が現れる。数秒の妙な間が滑稽だった。
「えーと、ここの職員の方ですか? 先生?」
「いえ……」
「学生さん?」
「いえ……、全然関係ないっす」
「関係ないって、外部の方? もう、早く片付けて」
 うるさくない人で助かった。春休みだろうからと油断してしまったが、もう少し早く起きるべきだった。
 宗教ババアに起こされ、警備員に起こされ。この日はもう行動開始としたが、寝不足のせいで昼間バイクを運転中に縁石に突っ込みそうになった。

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