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アートプロデューサー 宇野景太 -TDP生のストーリーマガジン【com-plex】 Vol.2-

デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーマガジン「com-plex」。

今回ご紹介するのは、株式会社無茶苦茶の代表を務める宇野景太さんです。宇野さんは、茶会のプロデュースやライブパフォーマンス、アート作品の制作など、「茶の湯とアート」をテーマにした活動のプロデュースやアーティストマネジメントを手掛けています。今回は、宇野さんに手がける事業やプロデュースについて、そしてTDP時代の思い出について、お話を伺いました。



文字通り「無茶苦茶」に

株式会社無茶苦茶 代表取締役 宇野景太さん 

――会社を立ち上げた経緯を教えてください。

大きく「文化」と「アーティスト」という2つの視点があります。文化に関しては、茶の湯という視点から日本文化をアップデートしたいという想いです。そもそものきっかけは、いけばなとの出会いでした。ひょんなことから華道家のアシスタントをするようになり、いけばなの魅力にのめり込んでいきました。そこからいけばなにまつわる周辺文化にも興味を持ち、合わせて現在活動を共にするアーティストたちとの出会いもあり、茶の湯へと領域が広がりました。茶の湯は「和の総合芸術」と称される、多種多様なアートが混ざり合う純度の高い日本文化です。茶の湯を構成する文化や通底する精神性をより多くの人に届けることで、日本の伝統文化をアップデートする機会をプロデュースしたいという想いがあります。アーティスト起点では、昨今の社会情勢の中で活動を制限された彼ら彼女らのサポートをすると共に、個々の活動のバックアップだけでなく、様々なジャンルのアーティストとセッションできるようなハブとなり文字通り無茶苦茶できる環境、「つくる場所をつくる」ことをモットーに事業を展開しています。

Respect and Go Beyond.

株式会社無茶苦茶のWebサイトのメインビジュアル

――活動のコンセプトを教えてください。

コンセプトは「Respect and Go Beyond.」。これは、お茶の「守破離」という考え方に近いですね。はじめは基礎を固める。次に基本の型を軸にオリジナリティを出す。最後に独自のスタイルを確立する。私たちが携わるそれぞれの文化には「道」の精神として、歴史や作法、しきたりがあり、それがいわゆる“型”となっています。私たちは型を大切にしながらも、守破離の精神性の元、茶の湯の精神を現代に沿った形に「翻訳」したいと思っています。例えば、茶の湯の精神性をテクノロジーやストリートカルチャーなどとコラボレーションすることで、伝統に敬意を払いつつも(Respect)、新しい価値や概念を作る。先入観や固定概念を超えていく(Go Beyond)ことをミッションとしています。

――茶の湯を語る上で、やはり千利休は外せないですか?

そうですね。無茶苦茶の参画アーティストには「The TEA-ROOM」という茶の湯にまつわるアート集団がいます。彼らの制作におけるひとつの切り口として、千利休の価値観から発想の着想を得ることがあります。例えば、今ではメディアアートやテクノロジーの発展が進んでいますよね。そこで「もし千利休が現代に生きていたら、現代の技術をお茶会で使っていたかもしれない」と想像するわけです。そうした発想から、過去には茶の湯の精神性をメディアアートを通して表現した作品を制作しました。彼は身の回りにある些細なものに価値を見出す「見立て」の精神を生み出しました。それはプロデュースの原点だと思います。

The TEA-ROOM 生態系へのジャックイン展「SOTOROJI #1」(写真:Yusuke Tsuchida)
The TEA-ROOM 生態系へのジャックイン展「Hello, Error! #1」(写真:Yusuke Tsuchida)


それぞれの文化の新しい接点

――無茶苦茶のメンバーには、どのような方がいますか?

「茶の湯」にまつわるアーティストとして茶人や華道家、書道家、和菓子作家、陶芸家など、国内外で活躍する新進気鋭のアーティストと活動を共にしています。会社としては、個々人の活動をサポートするマネジメントから、現代的に翻訳した茶の湯文化を通したブランディングを手がけるプロデュースと、幅広く事業展開していますが、総じてメンバーの背中を押してあげるような存在でありたいと思っています。

――宇野さんが印象に残っているお仕事はありますか?

例えば、ABC-MARTさんとの企画が印象に残っていますね。無茶苦茶と事業を共にする陶芸家の横山玄太郎が発案者でした。彼は陶芸家でありながらスケートボーダーでもあるユニークな背景をもつ作家なのですが、茶の湯とスケートボードを掛け合わせた「スケボー茶会」をやりたいというひと言から企画をスタート。企画の軸としては、茶の湯とスケートという一見すると全く異なるジャンルのカルチャーだと思いがちですが、私たちは「人が集まるコミュニティ」として解釈しました。お茶であれば、お茶室でみんなが平等にお茶を楽しむ。スケートボードであれば、スケートパークで年齢、性別にかかわらず、誰でもスケートボードを楽しめる。どちらもコミュニティのハブになっている点に着目しました。施策としては、制作したお茶道具と一緒にスニーカーを撮影したり、スタイリングを組んだりして、茶の湯という視点から新しいPRを行いました。

スケートボードのデッキを素材にした茶杓(写真:Wataru Yanase)
デッキテープを切り取って制作した掛け軸(写真:Hanako Kimura)

印象に残っている理由としては、無茶苦茶として実現したい理想の仕事のあり方を体現できたからです。ひとつは、無茶苦茶という会社を通して、アーティストがやりたいことを実現させたこと。もうひとつは会社のコンセプトでもある「Respect and Go Beyond」の精神が形になったことです。今回であれば、茶の湯とスケートボードの間に人と人とが交わる「コミュニケーション」の中心になる存在として、それぞれを捉え直すことで新しい関係性をつくり出しました。ただ茶道具を作るということではなく、茶の湯の精神性を現代的な解釈を通じてそのエッセンスを取り入れる。冒頭でもお話しした「文化」と「アーティスト」という無茶苦茶の軸が上手くミックスできた事例だと感じています。


「見立ての精神」

――宇野さんが考える、プロデューサーの役割を教えてください。

まずは、すでにあるものにスポットライトを当ててあげること。植物に光を当てるとその方向にぐんぐん伸びていくように、私たちの会社で言うと、茶の湯の精神に通ずるアーティストを世に出し、多くの方にアーティストの作品や魅力を知ってもらうきっかけをつくる。そして彼らの作品を通じて茶の湯の魅力を感じてもらうことがひとつのゴールです。これはプロデューサーの仕事だと思います。あと、私が大事にしていることは、「見立ての精神(物を本来のあるべき姿ではなく、別の物として見る)」です。これは醍醐味ですね。千利休が本来は茶道具で使うはずのない竹を切って花入れとして使ったように、新しい価値を見出すことがプロデューサーとして大事なことだと思います。スケートボードと茶の湯を組み合わせたように、他ジャンルとコラボレーションすることで新しい価値や概念を生み出す。私がやっているプロデュースは「見立て」に近いと思います。


多種多様なバックボーンを持つ受講生との出会い

――TDPに入学したきっかけを教えてください。

新しい知識を身につけることが好きで、大学時代は並行してファッション系の専門学校に通っていました。大学4年生のときには、アパレルのベンチャー企業の内定もいただいていました。その会社では、入社前に自分のブランドを作ってプレゼンをするコンペがあったんです。会社からは「もし企画が採用されたら、実現化に向けて会社でバックアップします」と。会社のサポートで自分のブランドが作れるなんて滅多にないチャンスだと思い、コンペではアイディアだけではなく、プレゼン資料のデザインも重要だと考えました。いわゆる四年制大学を出ている同期がほとんどだったので、デザインの勉強はしていないだろうと思い、デザインが良ければ差別化されて採用に一歩近づけるのではと考えました。そこで、大学卒業前にグラフィックデザインの勉強をしてみようと思ったんです。それから学校を調べたらTDPが出てきて、そのまま入学しました。

――プレゼン資料のためにTDPへ入学したんですね(笑)

そうなんです。デザインスキルを身につけたら手に職ではないですが、例え会社を辞めても食いっぱぐれないだろうなと(笑)。そして、グラフィック/DTP専攻修了後、予定通り会社に就職しました。基本的な業務は人材派遣だったのですが、私はVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)というマーケティング戦略の部署に配属されました。例えば、新商品はお客様の入店のフックになるので入口のそばに置くとか、セール品はPOPがあれば遠くからでも目立つので、店の奥に置いても注目してもらえるとか。本来キャリアを積んでから配属される部署だったので、新卒としては非常にありがたい機会を与えていただいた一方で、仕事自体が機械化されたルーティンのようになってしまい「この仕事は自分じゃなくても成り立つんじゃないか」という気持ちになり、転職を考えるようになりました。グラフィックデザインを勉強していたこともあり、デザインの道に進むことを考え始めていました。当時、グラフィックデザインだけではなく、Web制作ができる人材が重宝されると聞いていたので、就職した年の夏にTDPのWebクリエイティブのコースも受講しました。それは半年間のコースですね。平日に会社に行って、土日に授業を受けたり、自習室にこもって勉強していました。

――TDPでは、どのようなことに力を入れましたか?

予習・復習はしっかりしていました。自習室には毎日のように通っていましたね。当時、Macも触ったことがないくらいでしたが、新しい知識を得ることが好きだったし、元々グラフィックデザインやアートが好きだったので、まったく苦に感じませんでしたね。自分ができるようになるのが楽しかったですし。ただ、その技術をどのように仕事にしていくかという部分は考えましたね。

――TDPで得られたものは何ですか?

「人とのつながり」ですね。それが一番の収穫です。クラスメイトとも仲がよく、自習室で一緒になったらあれこれ言い合ったり、授業がない日でも一緒に食事に行ったり。プレックスプログラムにも欠かさずに参加していました。そこで出会った受講生とも交流を持ち、その後、一緒に仕事をすることもありました。

TDPのいいところって、多種多様なバックボーンを持つ人が集まっていることだと思います。自分よりも10歳も20歳も年上の方が同じクラスにいたり、会社を経営している方や主婦の方もいる。そして、みんな同じ志を持っています。こうした、普段は出会えないような人とのつながりを持てることは、社会人スクールならではの魅力だと思います。


「人とのつながり」を作る仕事

――宇野さんがデザイナーではなくプロデューサーを選ばれた理由を聞かせてください。

私の場合は、自分は作り手ではなく、TDPで培った「人とのつながり」を作る仕事がしたいと思い始めました。それは今にもつながるんですが、自分がいいなと思うデザイナーやアーティストをプロデュースして、彼らが作品を作る環境を提供したり、ちゃんとお金が入る仕組みを作ったり、そういう活動のほうが私には向いていると感じました。大きなきっかけとしては、プレックスプログラムで出会ったプロデューサーの横石崇さんとの出会いです。ジャンルを横断しながら様々な仕事を手がけていらっしゃる、まさに私が理想とするプロデューサー像を体現されている方でした。見習いのような形で仕事を始めたもののメールも打てないようなポンコツでして…(苦笑)。仕事のイロハからプロデューサーとはという部分まで、横石さんのすぐ側で経験させていただきました。


無茶苦茶でしかできない価値の変換

The TEA-ROOM 瀬戸内リトリート青凪茶会「ONENESS」
(写真:[上]Shinsuke Inoue[下]Saori Shida)

――今後のキャリアについて聞かせてください。

まずは会社の存在をより多くの方に認知してもらうこと。茶の湯で、しかもアートでという会社は他にない希少性があると思うその一方で、まだまだ知られていないというのが弱みでもあります。茶の湯文化の普及を目指すのと同時に、その裏には無茶苦茶という会社があるというのを、企業にもアーティストにも認知してもらえる存在になりたいです。あとは、茶の湯の考え方を、異なるジャンルの文化とかけ合わせてアート作品を作ったり、事業を立ち上げたり、新しいカルチャーを開拓していくこと。無茶苦茶でしかできない価値の変換、私の言葉で言うと「見立て」ですね。新しい価値を見立てて、いろんな方に茶の湯や日本文化の価値を知ってもらう活動を継続して世界に広げていきたいです。

――最後にTDPへの入学を検討している方や受講生にコメントをお願いします。

思い立ったら、とにかくチャレンジするべきだと思います。それが正しいかどうかなんてわかりません。私もわかりませんでした。でもそこに飛び込んだことで新しいつながりや、今の自分の仕事の基盤を作ることができました。もちろん、それ以上に失敗もありましたが・・・。ただ、何かに引っかかったり、モヤモヤしている部分があればとりあえずやってみることは大事だと思います。何かにチャレンジするときに同じ志を持つ同志がいたら心強いし、ひとりではなく皆で切磋琢磨し夢を掴みにいく環境がTDPにはあると思います。何かひとつでも自分を変えたかったり、想いがあるんだったら、まずはチャレンジしてみることが何よりも大事だと思います。

――宇野さん、本日はありがとうございました。



今回のインタビューでは、株式会社無茶苦茶でのプロデュース業や、TDP時代の思い出について、宇野さんに伺いました。

デザインを学び、得たことを、デザイナーではない道で活かしている宇野さん。TDPの中での人とのつながりを通して、今のキャリアを創り上げてきました。アーティストの活動をサポートするだけでなく、「見立ての精神」を持ち、日本の文化「茶の湯」に新しい価値をもたらす無茶苦茶の活動に、期待が高まります。

次回も、今まさに現場で活躍しているTDP修了生にお話を伺っていきたいと思います。

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◇宇野景太さんのSNSアカウント:InstagramTwitter

[取材・文]岡部悟志(TDP修了生) [写真]前田智広

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