視覚障害のある方にやさしい“読み上げやすい”ホームページを目指して~府中市と東京都のチャレンジ~
実施背景
府中市では、30年以上前から視覚障害のある方への市政情報の発信として、広報紙の内容を吹き込んだCD-R「声の広報」の配布を行っています。この「声の広報」の利用者に対し、市政情報の取得方法についてアンケートを行ったところ、市のホームページに対しても意見が聞かれたことから、視覚障害のある方が不便なく、市のホームページから情報を得られるよう、今回の事業にエントリーをしました。
利用者を知ることから始める
この事業を担当させていただいている私たちデジタルサービス局職員は、正直なところ視覚に障害のある方々のことを正しく理解できているか自信がありませんでした。
「視覚障害のある方だから、音声読み上げで情報を伝えればいいのではないか。」という仮説を立てたものの
音声読み上げツールを起動させるには機器の設定が必要だが、その設定はどのように行うのか。
見えない/見えにくい方はどのように機器を設定するのだろうか。
目が見える私自身が音声読み上げツールを設定しても、使いこなすのは思った以上に大変。
音声読み上げツールを利用しても、ツールに対応できないものや使い勝手を邪魔するコンテンツがホームページには結構ある。
といった、いろいろな疑問点や課題が出てきました。
文献や世の中にある情報をリサーチするものの、今一つピンとこないのが実情でした。
そこで、「視覚障害の当事者からご意見をお聞きしよう」ということになり、府中市から視覚障害のある当事者の方々が自ら活動されている2つの団体から、お話を聞かせていただく機会をいただきました。
府中視覚障害者福祉協会様
メーテル様
私たちにとって、このヒアリングはとても貴重な機会になりました。教えていただいたことの一部をご紹介します。
全盲の方にとって、音声読み上げはとても有効であるが、読み上げに対応していないファイルや、使いづらいホームページ構成がある。
弱視の方は音声で情報を得ることより、自分の目で見て情報を得たいと思っている場合がある。
スマートフォンを使いこなすためにはトレーニングがないと難しい一方で、使いこなせる人は、検索機能も使いこなしている。
「どこにどんな情報があるかが分かっていること」が大切で、画面上のコンテンツ位置が可変するより、単純に固定している方がありがたい。
視覚障害があるからといって、ホームページ上で提供される情報を一方的に絞られたくない。必要な情報を自ら選び取りたい。
障害者手帳をお持ちでいない方にも、見えない/見えにくい方は多い。(この取組の対象となる方は、障害者手帳の交付数よりももっと多い。)
などなど…
視覚障害のある方々にはいろいろなコンディションがあることは事前に想像はしていましたが、当事者の皆さんから生の声を聞かせていただいたことで、この取組を具体的に進めるにあたり、とても重要な方向付けができました。
また、当事者の皆さんから「このように行政に対して直接意見を伝える機会を作ってくれたことに感謝します。」というお言葉を頂戴しました。サービスを提供する上で本来前提であるはずの「利用者を知ること」が、決して当たり前にはなされてこなかったことを痛感します。
この取組に対する当事者の皆さんからの期待感と我々の責任の大きさ、また、一方的に行政が企画を立て実行するのではなく、利用者と対話しながら進めることの重要性を再認識することができました。
今後も随時ご意見をいただきながら、事業を進めていきます。
どこから着手するか
今回の取組の対象になる方のコンディションや当事者の方々のご要望は多岐に渡ります。
その中で、どの課題から対応するかということは、とても悩ましい問題でした。
当事者の方々からのヒアリングから、視覚に障害のある方々にとってもスマートフォンは情報取得におけるデバイスとして重要なものの一つであると確認できました。また、全盲の方からiPhoneのボイスオーバー機能の利便性と、その機能を享受するためにはインターネット上の情報提供のあり方に問題があることを、実体験を踏まえて教えていただきました。
まずは、
スマートフォンを使えるようになっていただくためのサポートを行う
見えない/見えにくい方に対して最適なインターネット上の情報提供のあり方のひな形を作る
ことから始めることを定めました。
具体的には、
スマートフォンを持っていない、もしくは使いこなせていない方にマンツーマンで教えるスマートフォン教室を実施すること
視覚障害のある方にとっても重要な情報源である府中市ホームページを、見えない/見えにくい方々にとって使いやすいものにすること
を大きな活動テーマとして設定しました。
府中市スマートフォン版HP
今後の活動に関して
本来この取組領域はもっと広く、深いものです。
残念ながら現在準備を進めているものは、ほんのスタートポイントにすぎません。
スマートフォンをまだ使い始めていない人、高齢の方から若年の方、視力が維持できている方から全盲の方、色覚多様性のある方といったように、あらゆるコンディションの方に、等しく行政サービスは提供されなければなりません。
しかしながら一気に解決することは難しく、時間がかかることも事実です。私たちとしては、各々のコンディションにおける課題を正しく理解し、決してあきらめず一歩一歩その格差をなくしていきたいと考えています。
そのために重要なことは、わかった課題を埋もれさせることなく、この取組を継続していくことだと思っています。
継続に向けて、
今回着手した取組は、他の自治体においても再現して行えるように、実施手順書を残すこと
今回の取組範囲としてカバーできなかったことを、順を追って着実に対応していくこと
この2点を行っていきたいと思います。
終わりに
まずは、本取組の途中経過を報告させていただきました。
3月末までには、府中市と協力して
初めてスマートフォンを利用する、見えない/見えにくい方に寄り沿った教室の開催
見えない/見えにくい方々が行政からの情報を取得しやすいように最適化したスマートフォン向けホームページの作成
を実施することを予定しています。
教室のプログラムや作成ページの構成など詳細に関しては、実施後のタイミングで改めて報告いたします。
「誰ひとり取り残されない」ことを目指して、着実に歩みを進めたいと思っています。ご期待ください。
府中市 福祉保健部 障害者福祉課
古田 裕樹
髙森 いずみ
武田 綾音
東京都デジタルサービス局 戦略部
近藤 弘忠
冨永 理子
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