軽い男じゃないのよ〜Netflixオリジナル

私が黙るべきで、あなたは変わる気がない。私たちは同じじゃないわね。By ダミアン

画像1

▼原題:Je ne suis pas un homme facile / 英題:I Am Not an Easy Man
▼監督、脚本:エレオノール・プリア
▼出演:ヴァンサン・エルバズ、マリー=ソフィー・フェルダン、ピエール・ベネジット、セリーヌ・メンヴィル、ブランシュ・ガールディン、クリステル・テュアル、オリヴィエ・パジョット、レミ・ジェラール 他

【Official Trailer】

▼概要

Netflixがおくるフレンチコメディ。職場でも日常でも女性を見下して遊んできた独身男性ダミアンは、街中で頭を打って気絶したことをきっかけに不思議な世界に迷い込む。そこは女性が社会で活躍し、男性は差別的な扱いを受けながら家事や子育てに奮闘する男女逆転の世界だった。戸惑いながらも女性作家の元で助手として働き始めるが・・・

▼ひとことで感想

爆笑!腹抱えて笑った!そして、見進めた後の絶望感がたまらない←

シビルとダミアンのセックスシーン(Official Trailerにもあります)には、こんな細部まで男女逆転の表現が行き届いているなんて・・・と頭を抱えながらも爆笑した。いるよね、セックスの時に女性をとにかく押さえつけながら腰振る奴。あと、口に指突っ込んでくる奴も、自分の体重思いっきりかけながら羽交い締めにしてくる奴も、これが欲しい?って聞いてくる奴も、、、お前らはほんま自分のことしか考えてないなあ、普段どんなオナニーしてんねん?って思ってた....女性はモノか?って。シビルの達した後の演技も最高でここのシーンは腹抱えて笑った(笑)

スクリーンショット 2020-05-03 14.44.38

よくここまで男女逆転のミラーリングがされているなと爆笑しながら見進めていくと、映画の最後のシーンで現実に引き戻されるので、爆笑していた内容が現実問題として胸に突き刺さってくる。要はこの不思議に感じる世界が今この瞬間も我々が生活している現実世界なのだから。この「不思議」だと感じるきっかけをこの映画は与えてくれると思う。90分強の非常にまとまった完成度の高い映画です。是非、ご覧いただきたい。

スクリーンショット 2020-05-03 14.41.03

おいおい良い脚してんなあ(この発言はアウトです)

〜以下ネタバレ満載の感想〜

▼気になったミラーリングシーン

この映画の男女逆転世界には、我々が生きる現実世界の細部に到るまでの非常によくできたミラーリングが存在する。言うまでもないシーンも多々あるが、私の方で特に気になったミラーリングシーンを取り上げたい。(爆笑しながら見ていたが、これが我々女性が現実受けてる不当な待遇か...と認識すると途端に複雑な心境になってしまう。それくらいよくできている。)

●上司(女)と部下(男)ダミアンのやりとりのシーン

「一連の企画はボツだ、だが性的に奉仕してくれるなら企画を通してやってもいい」発言は言わずもがなだが、「ちょっと休んだらどうだ、友達とスパに行ってネコと家で過ごせば以前の君が戻ってくる」と言うセリフは、現実世界での女性はヒステリーになりやすいなどのバイアスがうまくミラーリングできている。挙句にダミアンは来なくていいと言われ解雇されてしまうが、職場での女性の不当な扱いは世界中で問題になっている問題だ。

スクリーンショット 2020-05-03 17.25.14

●クリストフとダミアンのシーン

20年来の友人である二人の同性同士の会話のリアルさたるや。ホルモンバランスが崩れているんじゃない?だの、全身の脱毛を手伝うシーンから、「あなたのためを思って言ってるのよ!」だの多くのセリフや言動に既視感しかない。そう、現実世界の女性同士のやりとりにしか見えないのである。このミラーリングはお見事としか言えない。(ちなみに私はクリストフが一押しである。目元パックを貼りながら、観葉植物のお世話をする彼の姿が可愛すぎる)

スクリーンショット 2020-05-03 14.32.26

スクリーンショット 2020-05-03 15.08.32

(なんて可愛いんでしょう...クリストフ...愛おしい....)

●アレクサンドラがポーカーをするシーン

友人たちとのポーカーを楽しむシーン。男性の店員の「何かご用は?」に対して、「胸を優しく頼む」と絡むやり取りから、その男性が可愛いだけじゃなくて賢いと女性同士で談笑する。現実世界のホモソーシャルそのものである。ポーカーで勝負すると言った友人に対し、賭け金を上げるアレクサンドラ。キングのペアに対して、クイーンのペアで見事に勝利するシーンは「クイーンが最強カードなのか、、、、!」とカードゲームでも男女逆転になっており脱帽としか言えない。

スクリーンショット 2020-05-03 17.30.08

スクリーンショット 2020-05-03 17.30.44

●ロロとダミアンのシーン

クリストフから追い出されたロロがダミアンの家にやってくる。クリストフはロロの浮気を疑っており、ロロは浮気をしていないと主張する。ダミアンが問い詰めるとロロは「魔が差したんだ。妊娠してホルモンが全開になってたんだ」と浮気を認めた上で、ダミアンからクリストフに口利きをしてもらうように頼んでいる。「男の方が大人だ」発言も相まって、浮気した男性が彼女の親友に説得してくれよっていうそれ〜〜〜〜!あるあるすぎない...?同性同士(男)で説得してくれよ〜〜〜と仲のいい友人(男)に頼み込む姿(女)という構図は、後半までこの男女逆転世界を見ていると違和感すらなくなってしまう構成にお手上げである。

スクリーンショット 2020-05-03 17.35.31

スクリーンショット 2020-05-03 17.36.26

浮気良くないぞ〜〜〜

●ダミアンとダミアン父とクリストフのシーン

ロロの浮気についてダミアンとダミアン父で話しているシーン。「浮気されても、同意がないセックスも、男性側が我慢すればいいのよ。そうやって今まで生きてきたのよ。」「男がいないと女は子どもなんだから」とクリストフとダミアンに今までの男性がどうやって生きてきたかを説明するシーン。こんなにも男性が”女性らしく”抑圧されてきた様を語る映画が今まであっただろうか、いやない。(断言)女性からすると、職場の年上の先輩や、家族や親族の女性から何度も何度も話されてきた内容である。全くここまでの再現度でやってくれるなんて、この映画に関わる皆様に特別賞与をお送りしたい気持ちだ。

スクリーンショット 2020-05-03 17.38.29

(ダミアン父も可愛いんよな〜)

▼ダミアンとアレクサンドラの共通性

現実世界では、「次いつ会える?」と聞いたダミアンに対して「来世かな」とバッサリ切ってくれたアレクサンドラですが(痛快)、男女逆転世界では執筆活動の研究対象として近づくものの、いつの間にか惹かれ、ダミアンもアレクサンドラに惹かれていく。

スクリーンショット 2020-05-03 17.51.22

共通性:二人とも「男」「女」であるべき姿に縛られている

どちらも優位な社会にいるはずなのに、性別を忘れることがない。身体を鍛えること、仕事をこなすこと、「女性」「男性」と多く関係を持つこと、モテること、など。

同じ口説き文句を使うこともよく表現されている。「シャンパンとオレンジジュースのカクテルは?」「ミモザ」や、「君は背が高いんだね」「何か問題でも?」のやりとり、「ネイビーがよく似合う」「ホテルのバーで待ち合わせをする」「もう遊びはいらない、君といたいんだ」etc.

そう、ダミアンとアレクサンドラは同じなのだ。だからこそお互いに惹かれるし、分かり合える。記事冒頭のダミアンのセリフは私が印象に残ったもので、彼こそがアレクサンドラに対してかつての世界の自分を投影し、同じだと思っていたのに裏切られたと感じた際に発した言葉だと認識した。最後にはその言葉をも乗り越え、現実世界に男女逆転世界出身のアレクサンドラと共に飛び込んでいくであろう姿に希望を持ちたい。

私が黙るべきで、あなたは変わる気がない。私たちは同じじゃないわね。

スクリーンショット 2020-05-03 18.08.08

スクリーンショット 2020-05-03 18.08.21

このダミアンもう男女逆転世界の男性であり、元々の世界のダミアンの本心なのではないかと推測している。

▼ダミアンの変化

”人は女に生まれるのではない、女になるのだ。"
"女らしさ"というものは生まれつき(本質主義)ではなくて、"社会的環境"が作り上げるものだという構築主義の考え方がある。私はこの主義に同意している。

この映画の中でのダミアンの変化は特に顕著なものがある。元々、男性が優位な世界で女性を見下し生きていたダミアンは、女性を見定め判断する側にいたが、男女逆転の世界では自分が女性から見定められる立場となった。このことから、彼の周りのもの全てが「男性」を性的に取り上げ、見た目や行動・あるべき姿も一転してしまった。最初のうちは、ダミアンも彼以外の女性や男性の言動に笑いが止まらない様子(あまりにも違いすぎて)だったが、仕組みを理解した後のダミアンは男女逆転世界での自分の立場を利用し、道を譲ってもらったり、扉を開けてもらったり、セクシーだねと声を掛けられたり、泣きそうな顔で願いを請うたり、男女逆転のラブロマンス映画をバスローブで鑑賞して涙するなど、バッチリとこの世界の「男性」に染まっているのである。

また、男性解放運動にも参加する姿には、職場での不当な待遇 (性的な関係を迫られ拒否したところ解雇)に対しての憤慨や、友人クリストフの家族からの待遇に対しての怒りなど、男女逆転世界での生活を通して奮闘しているようにも見えるが、ただただ彼は以前の世界での権力を取り戻したいのではないか?という風にも受け取れる。彼のみが別世界である男性優位社会の状況を知っている訳で、その状況からの男女逆転世界での抑圧には耐え難いものがあるのでは?と感じる。こちらは受け取り側に委ねられている印象だ。

男性解放運動に対して、「他にすることないの?」と話しかける女性や「恥さらし!」と罵倒する男性の描写があるのだが、現実世界そのものすぎて見るに耐えない。声をあげる人たちを押さえつけるのは、どちらの世界でも優位な立場と抑圧される立場の両方からなのである。

▼最後に

90分強とは思えないボリュームと非常に完成度の高い内容に今年1番の満足度の映画となった。男女逆転の世界をここまで精巧に作り上げ、問題提起をしてくれる映画であることだけでも関連各所の方々には特別賞与に値する。一度でいいから、現在の男性優位社会について考えてみてほしい、という作成側の気持ちが伝わってくる。ここまで精巧に作れる女性の状況って一体...と頭を抱え、絶望感に飲み込まれてしまいそうになるが、後ろ向きになるべきではないことは重々承知だ。この映画の感想(布教)を通して女性の状況について考えるきっかけになれば嬉しい。

あと、私の心が最高に昂ぶったのは、男女逆転世界の女性たちのかっこよさである。「私の世界では女の方が強いから子を産み、女が狩りに出かけて男は子供達の世話をした」という流れのようだが、かっこよすぎんかね....?強くて生殖能力も持ってて、美しい。そんな逞しい女性たちが生きる男女逆転世界での女性は現実の世界とは違った美しさ、かっこよさに溢れていた。

スクリーンショット 2020-05-03 19.01.13

スクリーンショット 2020-05-03 19.01.28

スクリーンショット 2020-05-03 18.58.58


男女逆転世界が現実世界より好ましいと言いたいわけではない。男性解放運動があることから、どこの世界にも支配する側と抑圧される側が存在すると推測できる。悲しいかな、人間の性だろうか。いや、そんな性は認めない。

人権は全ての人間に等しく存在する。そのことをみんなが正しく理解し、抑圧されている人たちを少しでも減らしていきたいと改めて思った。

は〜〜〜〜良い映画を見てしまった。最高。

是非とも皆さんの意見が知りたいので、コメントいただけると嬉しいです!


スクリーンショット 2020-05-03 17.51.06

かっこよすぎんかね(笑)こんなんで迎えに来られたらひれ伏すわ..........!脚なっが.......!!