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「短編」 月に吠えないで

今年も、師走でそろそろ一年の終わりとなった
去年の今ごろ、どんな感じだったのか日記ノートを見てみたら、はしり書きしたような文章が出てきた

懐かしくもあり、世間の情況もあまり今と変わっていない雰囲気で、まだ note も書いていないときだった
日付が、12月25日となっている
(たぶん、今年とちがって去年の月の満ち欠けから数日前のでき事だったと思う)



        ○


 年の暮れ。ここは新宿ゴールデン街、バー「月に吠える」。
携帯をいじるのをやめて、つい先ほどから、ほろ酔い加減だ。

「さっちゃん、もう一杯」

「飲みすぎよ、体こわしちゃうから。もうキスしてあげない」

 などといってくれる訳もなく、今夜はひとりカウンターで、個の気分を味わっていた。久しぶりの感傷だった。

「はい、スクリュードライバー、夏みかん風味、マシマシね」

「ありがとう」

 ググイッ。うむ、こんな感じかな。


「風邪ウィルスですっかり、お客さんも外人さんも来なくなっちゃった。時間短縮だし、困っちゃう」

「そう、世界征服されちゃったね、公務員ばかり変に元気よく号令かけているから。いちど小池都知事の頭に、注射をワクチンってね。注射、ピュッ、ピュッ。いやん、およしになって。なんてね、うふふっ」


 しばらくして、オレは店を出た。師走の夜風が少しばかり、身にしみる。ふいと空を見上げた。なんだか、白い弓張り月がぽっかり浮かんでらあ。
 さあ今夜はベッドで、かわいいあの娘としっぽり、吠えちゃおかな。


 街なかを見ればそこはかとなく、歩く人たちや肩寄せて歩いている恋人たちもなぜか寂しそう。そのそばをひとり歩いている男は田舎から逃れて来たのだろうか、それともどこにでもある群衆の人の一部分だろうか。

 みんな孤独を抱えているのさ。さびしすぎるぜ、などとコートの襟をたて、なぜか満たされない心を携えながら、都会の薄汚れた雑踏の街なかを一人称のオレが行くのだった。
 いまの気分は、すっかりハードボイルドだど。古いな、内藤陳さんもなくなって、だいぶ久しくなった。

 ああっさぶっ、早く家に帰ろう。

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