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でも、わたしは愛されているわ
かなり以前の、たしかフランス映画の「美しすぎて」を思いだしていた
その中で、
男が浮気していた
男には申し分のない美しい妻がいた、なのに彼はなぜか他の女に目が移っていった
ところで
同じフランスの小説に『昼顔』というご存じの女性が出てくるけど、これは先の男の逆パターンで、主人公の女性はなんの不自由もなく、今の生活に満足していた
なのになぜか知らない女の性、昼間の貞淑でしっかりした妻を演じていても、なぜかウズく女性の体
心のなかで夫に忠実で貞淑でありたいと願いながら、誰かから思いきり穢されてみたい欲望を隠すことができなかった
やがて娼婦の館に導かれて、奇人変人変態、逃亡の過激派の男などに体を開きながら、求めた女の性を感じていた
じつにフランス小説らしく、女のあり様を描いて見つかった女の物語
マノン・レスコーやカルメン、椿姫、プルーストの小説に出てくる女性たちに、またひとり新たな女が加わった
ちなみに映画版ではカトリーヌ・ドヌーヴが演じていた
もどって、
じつはこの映画「美しすぎて」の主人公である男の浮気女
フランス小説ならびに映画に出てくる華々しくも大胆さもなく、この私をどうにでもしてという乱れた装いもなかった、
ただのどこにでもいる小太りで、スタイルもそこそこの平凡な女性、それに若くもない、でもなぜ
美しい女なら、まだ許せるけど、あの女はどうしても許せない美しい妻
朝日をバックに、腰に両手を添え地平線に立ちつくす、百点満点の女、どう私、最高の女
なのに、あんな小太りの平凡な中年の女なんかに夫を取られて、美しい妻はプライドが許せなかった
ついに思いたって、浮気女の小太りで平凡な中年女に会いに行った
突然あらわれた美しい奥さんに、浮気女はびっくり
どうしてあんたなんかと、どこにでもいる平凡な女なんか、夫の気持ちがわからないわ、
顔があった瞬間から奥さんに不満をまくし立てられて、浮気の女はおもわず、あ然
そしてやおら顔を和らげて、うふふ、とにこやかに誇らしく、小太りでどこにでもいる、むしろ劣ってさえ見える美人でない女は、目の前の奥様に問うのです
ええ、わたしはあなたのように教養もなければ、いい家柄もないし、ご存じのようにあなたのように美しくもない
「でも」、とソノ美人なんて、サラサラもない、そんな女がいっちょ前に言うんです、
「でもわたしは愛されているわ」
出た!
ついに出た
愛されている理由
(遠いむかし、たしかこんな本があったな)
妻の座をおびやかす最後の切札
思えば、妻という名の落とそうとしても落とせなかった難攻不落の牙城の前で、幾たびの女性が涙をこぼして敗退していったことか、そんな堅牢堅固な牙城さえ心もとなく、おびやかされる最後の言葉、愛されている理由
えーっと、つい我ながら興奮して、文を書くのを忘れてしまった
まあ、こんな調子は映画は進んでいくんです
内容はともかく、見ていて感じたのは、フランス風に撮影は進められていき、ウィットでもなく笑いでもなく、忍び笑い sourire をともしていて、われわれ日本人とも違うニュアンスの国民性があらわれてきます
たとえば
ある日、男と浮気女がなぜかベッドの上であい重なっている、ともに上半身は肌があらわれ、下半身はシーツで覆われていた、おっと忘れていました、上に女性で下が男です、念のため
男は天井を見つめていて、上の女は少し斜めに体をずらし、落とした手の指でマットに文字らしきものを書いている様子
しばらくすると画面が小刻みに揺れているので、スクーリンが揺れているのかなと感じていたら、男が言うんです
「たのむから、腰を動かさないでくれ」
すると女が言うんです
「ええ、わかったわ」
そしたら、画面の小刻みの揺れが消えたんです、なんだベッドのせいだったのですね
ところがすぐにまた男が言うんです
「たのむから、腰を動かしてくれ」
するとまた女も言うんです
「ええ、わかったわ」
またベッドが小刻みには揺れ始めました、たった数分間のカット、なんだか、よくわかんないセンス
それにもうひとつ
浮気女が自分のマンションから出ていく光景
上に玄関があったのだろうか、階段を上って外に出ていく、その道を歩く女を下から撮影しているかのように、女はいくぶん胸を張って歩いている感じだ
歩いていく女を追いかけて、やがて地下鉄に降りていった、カメラをまわしながら、そうして電車を待つプラットまで来た
女は立って電車を待っていた、横にはもうじき中年になろうかなという男が並んで新聞を読んでいた
女はチラッと横を見て、また前を見て電車を待っていた、そしてやおら横を見て、声をかけた
「ねえ、知ってる」
あとちょっとで中年になるだろう、新聞見ている男は、いっしゅん驚いた
「ねえ知ってる、きょうあたし、30分もセックスしたのよ」
うわっ、声かけられた男、びっくりして、いったいオレにどういう関係があるんだという顔で女を見つめ、
でも女は、別に、といった顔でちょうど前に止まった電車に、胸をはって乗りこんでいった
それから新聞を読んでいた男、首をすくんで両手をひょいと前に出し、キョンシーみたいに女の後に従って、電車に乗りこんでいったのです
また、このよくわかんないセンス
喜劇でもなくリアリティのある映画なのに、そこはかとなく忍んでくる、このセンスなのです
あのう、ところで字数もどうやらせまってきたので、こんな感じでこの投稿、終わってもいいですか
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