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日本の夏 草取りの夏

夏ですね〜暑いですねぇ。
こう暑いと何もしたくないですよね。それも、木陰の下でのんびりと、というのは最早例えにもならない有り様です。空調の効いた部屋で過ごす、というのが呑気な例えでは無く文字通り生命線となってしまいました。

しかし、それでも農家は外へ、そして畑へ出なければなりません。
この時期三番茶の操業をしている所も有るかと思います。この辺ではあまり無いと思いますが。私も一〜二シーズンくらいしか経験ありません。
畑で直射日光を浴びるのも辛いですが茶工場の中で40度程になるのもキツい。なんせお湯を沸かし火を炊いていますからね。
ちなみに、碾茶(抹茶の荒茶)工場は一茶シーズンでも室温50度を越える事がありましたが、湿度も低いので短時間なら意外と居られます。短時間なら、ですが。僕が行ってる所は炉が在る部屋と梱包室が分かれているのでそれが出来ます。

さて話しは戻ります。炎天下にも関わらず畑に行く理由です。幾つかあります。病気や害虫に対する防除も必要ですし、冬に向けて茶に体力を付けるべく施肥も行います。
しかしなんと言っても草。あの忌々しい雑草です。そう、草取りです。
再び余談ですが、妻や両親はとある農家方に「えっ、草取り?」と言われた事が有るらしいです。
逆に「…えっ?」って思いますが、代々根気よく丁寧に草取りを続け完全に雑草が絶えたのか、頻繁に除草剤を散布しているのか。いずれにせよ私には想像も出来ない事です。
ただ、一園だけ比較的近年から借りている畑はそれまでの管理が丁寧だったのか、草がとても少なく楽です。高齢の世代が少しでも雑草を生やす事を忌避するのは一定の理由があると感じた所以です。中々そこまでするのは難しいですが。

先日の光景。施肥(米糠)と草刈り。
何もかも同時進行で何から手を付けるのか迷う毎日です。


えーと、草でしたね。そう除草。
実は茶畑は比較的雑草対策が楽な部類だとは思います。茶樹が充実すれば草が生えるのは主に畝間だけ。
茶葉が日光を遮るので雑草は伸びにくい状況ではあります。
この場合主に敵になるのは蔓類です。山芋とかのアレです。山芋とか、わざわざ山に父と掘りに行った事が有るくらい、場所が違えば良い物なのに茶畑では邪魔。収穫の際は異物混入になりますし、この時期でも茶葉から日光を奪ってしまいますから。
ただ山芋は比較的時期が早ければスルッと抜け易いですし単株なのでまだ良い方です。比較的ね。比較しなければいらん物ですよもちろん。
忌々しいのはヘクソカズラ。屁糞葛。凄い字面ですね。でも、この字を嵌めたくなるのも分かります。ヤツらは一つの株から基本一つスッと伸びる山芋と違い、地面で横に這って分岐してから上に伸びていくのでとても駆除が面倒です。蔓延れば完全除去は難しく、何度も毟って弱らせていくしか無い感じです。
また、この辺では比較的ニューカマー的存在であるママコノシリヌグイ。継子の尻拭い。これまた字面が凄いっすね。これは実際悩まされた人が付けた名前だと思ってしまいます。一気に伸びて繁殖する上に微妙ですが棘が有ります。微妙にチクチクします。絶妙にイラッとするヤツです。

充実した成園ならば茶樹自体に取り付くのは主に蔓類です。反面畝間は素早く背丈を伸ばす草が主ですね。近年多いのはベニバナボロギクというヤツ。これは抜き易いので比較的駆除は楽です。引っ張ればスッと抜けます。そのまま畝間に置くと再び根を張り、主幹をグッと曲げ立ち上がるタフなヤツでもありますが。
因みにコイツは食べられます。たまに我が家では味噌汁に入ったりします。
抜き易いし食べられるので憎み切れない、腐れ縁の様。草だけに。…つまんないですね。
他にももちろん色々生えますが私は名前をよく知らない…。背丈が勢いよく伸びる草は比較的駆除が楽な印象ですね。早く伸びるという事は草も無理をしているという事なのかもしれません。
ススキは茶畑に直接生えてしまうと面倒です。他の場所からわざわざ刈って持ち込むほどですが、畑には生えないで欲しい。根っこまで除去するのはとても大変です。

と言う訳で、成園ならば比較的除草は容易な茶畑です。茶は木なので除草剤散布にもある程度耐えますし、草刈機(下刈機、ヘッダー画像がそうです)で刈っていても簡単には「やってしまった!」とはなり難い。ナイロンコードとか使えばそうそう切れないです。
そう、成園ならばね。問題は幼木を植えた園。そして更新園です。
幼木は分かりますよね。主に苗を植えたばかりの園です。この段階だととにかく草に埋もれます。草の方が早く伸びますからね。下刈機で除草するにも、苗の茶樹はまだまだ細く簡単に切れてしまいます。私も今日「やっちまった!」と独り茶畑で叫びました。補植が必要になってしまいますし、単純に茶に申し訳ない気分になります。
比較的日陰を好むと言われる茶の木ですが、特に幼木ではやはり日光が必要だと思います。近所で施設の都合上早くから遮光気味になってしまった幼木園を見ていた事がありますが、通常4〜5年くらいで成園になる筈が随分と時間が掛かっていた印象です。

そして更新園。少し耳慣れない言葉かもしれません。
茶樹は葉を収穫しては整枝、“均し”とも言いますが再びカット面を揃えていきます。その時に収穫した面から少しずつ上げていきますので、茶樹の面は少しずつ上がっていきます。
大体4〜5年で摘採に適する高さの上限に達します。
その時、主に一茶を収穫した直後に更新作業をするのです。
更新では主に40〜50センチ程の高さに落とす「中切り」と、いよいよ茶樹が老齢になり弱ってくると行う、本当に地面まで低くしてしまう「台切り」があります。
頻繁に行うのは中切り。この高さでも葉は殆ど落ちてほぼ枝だけになります。枝だけになれば…当然陽がよく入ります。茶畑内に。
もうね、それは草が生えますよ。成園ならば普段生えない場所に普段生えないアイツらが。
畝間なら下刈機でババっと刈る事も出来ますが、茶樹内だとそうもいきません。手で根気よく抜くのが基本となってしまいます。
中切りでこれなので、台切り、地面スレスレでまで茶樹を低くする台切りは…もう泣けます。
中切りは一〜二ヶ月でそこそこ茶の葉が繁ってきて徐々にですが草も抑制されていきます。
台切りはしばらくの間葉も生えませんからね。
当苑ではしばらく放棄された在来種の茶園を借り受け、半分台切りした事があります。気がついたら初代がしてしまったのです。
放棄+台切り。正に悪魔の組み合わせ。放棄され除草もされず草の根や種が多々有る所に豊富な、燦々と降り注ぐ日光ですよ…。草には楽園、人間には地獄の様な有り様でした。

この経験はしかし、私にとって大変印象的でした。
茶畑は放置すれば容易に野に帰ります。人間が恩恵を頂くには、人間が手を入れ続ける他ない。
植物は、茶も含めた彼らはただ単に生存競争をしていくだけです。
茶は強い。草が繁った程度ではなんとも無いのです。彼らも高く高く背を伸ばし陽を浴びにいく。その姿はとても逞しい。
放棄園では茶樹の生命力を感じられる事が多々あります。これこそが彼らの本当の姿なのかと。
そして、茶畑と言う存在は、あくまで人間が茶樹より恩恵を受ける為の形態に過ぎないと、そう思うのです。

整然とした茶畑は生物としての茶からすればある意味歪な姿なのかもしれません。ですが、それに対して私が感じる気持ち。安心感の様なものですがそれは、茶と人間とが確かに繋がっている。そう実感させてくれるものなのかもしれません。だから私は茶畑が好きなのです。茶と人間との関わりの証明がそこにはあるから。

気がついたら草取りの話ばかりになってしまいました。もちろん他の作業も多々あります。追々書いていきますので、今後もよろしくお願いします。

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