見出し画像

君達はどう撒くのか

前回に引き続き茶園の管理作業の話です。

夏の畑作業は何と言っても除草。そして当苑は今現在茶園にて農薬をほぼ用いておりません。なので次にやるべきは施肥です。肥料撒きです。
今現在、当苑の主力の肥料は米糠です。漬け物とかでお馴染みのぬかです。

ぬかの良い所は何と言っても安い事。このところの肥料高騰は農家に限らず多くの方が耳になさっているのでは無いでしょうか。
そこにくればぬかは精米の副産物という事もあって海外云々という問題も無く安定した供給がなされています。
そんなぬかですが、茶の肥料としてはメジャーではないかもしれません。なぜかと言えば、チッソ分が茶に用いる物としてはかなり低いからだと思います。重量比2%という数字は茶用肥料としては相当少ないです。

茶の品質と施肥というものは密接に関連しているとされます。特に日本製の蒸し煎茶では濃厚なうま味こそ至高とされています。
このうま味は全窒素という数字で計量出来る訳で、色々と細かい要素を抜きにしてとてもザックリと言ってしまう(これは本当に本当に大まかで語弊もあるとは思いますが)と茶の品質とは如何に肥料を大量に投入するかで決まってしまう側面も、特に過去に於いては有ったかと思います。
まあ、肥効については各農家さん毎に一言あると思います。最初から最後まであくまで当苑のみの考えだと思って聞いて下さい。
肥料が効いたお茶は濃厚なうま味が持ち味となりますが、反面さっぱりとした切れ味というか清涼感は欠ける面があるかと思います。
また近年、香りが日本の製茶や消費の場面でも再重視され始めましたが、香気成分そのものは多肥の方が多い様です。
現代的にオーソドックスな製造過程を経たお茶では多肥の物は芳醇な香りを感じられる様ですが、敢えて香りにクローズアップした製法の場合ですと、定まらないというかやはりスッキリとしないと言えば良いのか、まあ香り系のお茶という場合ですと少肥〜無施肥の物が多いと思います。

…えーと、肥料の茶品質に対する寄与の話をし始めてしまいました。この話はとても長くなってしまいます。
今回はあくまで作業としての施肥を書こうと思います。
肥料と品質、はまた追々書こうかと。これは当苑にとっても大きなテーマでもありますので。

施肥作業ですね。当苑では肥料散布機を用いています。過去には背負い式の肥料撒き器でした。機械とは言えないアイツです。

背負い散布器。通称サンパー。

単体の粒状化成肥料や、それがメインの配合肥料(色々な材料を各自の考えの元混ぜた物、またその為のパッケージ製品)、有機資材でもサラサラとした物ならばコレで上手く撒けるのですが、ぬかの様な粘りというか油っ気が多い物だと上手く撒くのが難しいので、最近当苑では偶に化成資材を撒くくらいにしか使っておりません。

肥料散布機。機械です。でもこれは小さ目な物。

ここ最近はコレばかり使っております。散布機です。器では無く機です。
この散布機、既に廃盤です。動力散布機としては小型軽量で使い易いのですが、大量に撒くには力不足なのかもしれません。
今現在多いのはこれよりも大型で重く、大量に施肥するのには便利ですが茶園整備が欠かせません。僕も前職で使いましたが、昔のままのろくに整備していない圃場では参りましたね…めっちゃ重いんです。肥料入れると100キロくらいかな?

作業風景です。

当苑は施肥量が少ないので手作業での散布でも良いと言えば良いのですが、枕地の狭いやり辛い園でも敢えて散布機を使用しております。
それは、散布機を使えば畝間の落とすのでは無く、株元まで肥料を文字通り散布出来るからです。
畝と畝の間に撒くのでは根の吸収効果が薄いと考え、なるべく茶の木の株元まで肥料を飛ばすという点に於いては、地際で肥料を投げ飛ばすこの種の散布機が適役です。

 芽だし肥として3月にヌカを撒いた様子。

少し見辛いですが、肥料が畝間、要は真ん中の通路では無く株の方に行っている事が多少見て頂けるかと思います。
薄く均一に撒ける事も魅力ですね。ドサンと一箇所に山になっていては効きもムラでしょうし、成分の多くが流出してしまうだけになると思います。

これを雨の直前を狙って行います。なるべく施肥効果を上げる為です。単純に雨水で地面に浸透させるという考えですね。その為にも薄く均一に株元まで撒くという点は大事になります。
また肥料散布と耕運はセットという方が多いと思いますが、畝間に落とすならば確かに耕運はした方が良いと思います。ですが、散布機で両端へ飛ばすので真ん中の通路を齧ってもさほど土と混合されるとは思えません。耕運を省く意味でも散布機使用と雨前の施行がセットになります。
耕運も又、功罪がある様です。その点も何かと絡めて書きたいと思います。

この様にメインはぬか、これを肥効の面だけでは無く土作りの面も重視して撒いています。ぬかは有機質で微生物の養分としても有効の様です。上手く使えば堆肥としても少し期待出来そうです。ミミズとかとても増えますしね。
+αで茶樹の状態や狙う製品等で少量化成肥料や菜種粕等高チッソだったり肥効が早く出る物を調整として使っています。
現在は液肥がその役目を担っています。

液肥散布や旱魃時の灌水で使う動噴。

液肥は肥効が早く、効率良く効くという事で今後益々使う方が増えそうです。コスパは一番良さそう。
当苑では幼木園でも活躍します。ビニールマルチをしているので、的確に施肥しやすいからです。

あらゆる資材が高くなる今、如何に少なく的確に用いる事が出来るかが今後の経営の肝となると思います。
そして、どの様なお茶を目指すかが施肥、ひいては茶園作りの全ての指針となるのでしょう。

これまで茶作りと言えば、沢山肥料を入れて良い分析値を出せば茶商さんが評価してくれました。
今後は消費者の方々の要望に如何にフィットするか、個々の要望に応じてバラエティ豊かなお茶を提供出来るかが茶業に必要となると信じています。
濃厚なうま味を提供するのも良し、スッキリと清涼感のあるお茶も又良し。様々な趣向で様々な要望にお応えする。そうあるべきです。
その為には茶農家が自身の茶作りに対して明確な方向性を持つべきだと思います。良いお茶って色々有った方が良い。農家も様々であって欲しい。

施肥を始めとした茶作りの先に、消費者の方々の笑顔を見据えて頑張っていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?