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ダッカのおヘソ


首都ダッカに戻る。アザーンの音量が上がる。

初めてリキシャを捕まえようと試みる。荷台に座席の付いた三輪自転車で、日本の人力車が自転車になったような乗り物だ。ただしド派手。長距離トラックのデコレーションさながら、それぞれのセンスを以て装飾している。ハンドルやサドル周りも凝っているが、なんといっても客車部分の後部。背中の紋様が目に入らぬか!と訴えかけてくる独特の華やかさだ。

不死鳥、光り輝くモスク、意匠化した花々…。ドラえもんとのび太を発見するが、顔が黒く塗り潰されている。イスラム教の偶像崇拝禁止から来ているのか。一方で、ヒンドゥー系の影響を受けているようなシヴァ神模様ははっきりと顔が描かれて、明確な分別。
刺青のごとく人気絵師も存在して、ロンドンで個展を開いたりもしているらしい。

勝手に心の中でリキシャアート選手権を開催。優勝者のリキシャに目をつけて近付く。

さらに眼をチェック。
頼るのはいい眼をした奴に限る。つまりいい男だ。

そういう奴は仕事にプライドがあって、良い仕事をしてくれる確率が高い。服の組み合わせがおしゃれならその確率はさらに上がる。

出来ることなら、向こうから話しかけてくるのに乗るのではなく、こちらからにっこり笑って近づいて交渉するのが良い。そういう出会い方だと法外な値段を吹っかけてくる可能性が減る。

いいクルマに乗っていい眼をしたリキシャマンと交渉して乗り込む。こっち来いよ、と言っているみたいに首を斜め後ろにクイッと曲げるのが、日本人の頷くのと同意のYesの合図なのだとだんだんと気づく。

大通りをリンリンとベルを鳴らしながら他のリキシャや自動車を鮮やかに追い抜いて走っていく。そして巨大迷路オールド・ダッカへと入り込む。日が暮れかかってきた埃っぽい細いくねくね道はあっちもこっちも大勢の人でごった返している。なるほど、ここがダッカのヘソか。

手作りらしい木製家具の店。蛍光色が主体のおもちゃの店。鶏を折にぎゅう詰めにして端から捌いている店。店前で捏(こ)ねたり揚げたりする無数の食堂。
数日前に大火事があったチョウク・バザールの付近では人だかり。

ビリヤニが食べたいとリキシャマンに言うと、ハジ・ビリヤニの本店へ。大人がすっぽり二人は入れそうな球体のどでかい鍋を傾けて、ビリヤニをどんどん皿に移していく。メニューはビリヤニ1択である。テイクアウトには葉で包む。
ギーとは牛乳からとった油のことらしい。肉が載った素朴なライスに見えるが…目の印象に反して旨い!


次は早朝にオールド・ダッカへ。

夕方とは打って変わって人が減り、白い制服に身を包んだ子どもたちが親に連れられて学校へと歩いていく。

エリアのほぼ中央には星模様のタイルが可愛いスターモスクことタラ・モスジット。水場も大きな星型である。一心にコーランを音読している数人のイスラム教徒の正面には、富士山のタイルが何枚も!きみは日本人か、これは日本から来たんだと教えられる。

オールド・ダッカの外れには、元宮殿というアーシャン・モンジールことピンク・パレス。完全に周囲の市井の雰囲気から浮いている。警備員は、本当はまだ開館時間じゃないんだぞと言いながら入れてくれて、改めて外観を眺める。人気のデートスポットらしい。

その近くには、水運の都らしい大型船と小さな舟が行き交う船着場ショドル・ガット。大勢の男女がどんどん舟でやってくる。切符係が柵の中に入れてくれ、行き交う舟を眺める。
なんだかみんな親切だ。

少し歩くとバス乗り場。二階建てのぼこぼこの古い赤いバスがずらっと並んでいる。ロンドンバスの中古車だろうか。

地元以外の人を一切見なかったオールド・ダッカ。街自体が息をしているように活気と人情に溢れていた。

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さあ、次はいよいよインドに入国。まずはカルカッタことコルカタへ。

この度初めてサポートして頂いて、めちゃくちゃ嬉しくてやる気が倍増しました。サポートしてくださる方のお心意気に感謝です。