スープストックの離乳食騒動に学ぶ、巻き込み炎上時代に「バズ」るリスク
ここ一週間、ネット業界で最も注目されていた騒動といえば、やはりスープストックトーキョーの離乳食無料提供をめぐる騒動でしょう。
騒動自体は、最終的にスープストックトーキョー側が26日に出した声明が評価される形で、騒動は収束する形になっています。
ただ、今回の騒動が大きくなった経緯を誤解されている方が少なくないようですので、詳細を解説しておきたいと思います。
今回の騒動の経緯を、時系列に並べると下記のようになります。
■4月18日 スープストックトーキョーが離乳食の全店提供開始をツイート
■4月19日 上記のツイートへの反響から「スープストック」がトレンド入り
■4月19日 まとめサイトなどが、スープストックの騒動を報じて更に話題に
■4月20日 大手メディアもスープストックの騒動を報じて更に話題に
■4月26日 スープストックが公式サイトで声明を発表
一見、良くあるツイート投稿による炎上騒動にも見えるかもしれませんが、時系列に見るとかなり状況が異なります。
公式のツイート当日は歓迎ツイートが盛り上がる
まず、皆さんに注目していただきたいのはこちらのグラフです。
こちらは、Yahoo!リアルタイム検索で「スープストック」というキーワードが、ツイッター上でどれぐらいツイートされていたかをグラフにしたものです。
こちらを見ていただくと一目瞭然ですが、実はスープストックトーキョーのツイッターアカウントが離乳食の無料提供をツイートした4月18日当日は、「スープストック」に関するツイート数は90件しかありません。
スープストックに関するツイートは日々数十件で推移していますので、この日はそれほど大きくは増えていないのです。
しかも、90件の内容はほぼ全てがポジティブ。
おそらくは、スープストックトーキョーの公式アカウントのツイートを普段から見ているようなコアのファンからすると、このツイートは普通の投稿として受け止められていたことが分かります。
通常の企業の炎上というのは、企業側が何かネガティブな行為や投稿をしたときに、批判が殺到することで発生します。
そういう意味では、今回のスープストックトーキョーは、このツイート単体ではツイート当日は全く「炎上」していなかったとも言えるわけです。
批判者の問題設定により批判ツイートが増加
この様子が、徐々に変わってくるのが、ツイートが投稿された翌日の19日の深夜から午前中にかけてです。
スープストックトーキョーの離乳食の無料提供のツイートが、多くの子育て世代に届いた結果、子育て世代が歓喜の声をあげる一方で、その歓喜の声を見た一部のアカウントで、無料提供に対する懸念や批判が引用リツイートなどで表明されはじめます。
ここでポイントとなるのは、離乳食無料提供の批判者が、子育て世代の歓喜のツイートを見て、スープストックトーキョーの店舗が騒がしい子ども連れの顧客で埋め尽くされる図を想像してしまった人が多い点です。
もともと離乳食の無料提供は、スープストックトーキョー側は2020年から一部店舗で実施済みの施策です。
おそらくはこれまでの実施結果から、スープストックトーキョーとしては、離乳食を全店で無料提供しても大きな混乱を生まないと、今回の発表を判断したものと思われます。
ただ、そうした事情を知らない人の中に、今回の施策を見て激しく悲観的な想像をしてしまった人が出てしまったようです。
そうした悲観的な想像をした人の怒りのツイート経由でこの発表を見ると、そのフォロワーの人たちも同様に怒りの問題設定がされたまま、公式アカウントのツイートを見ることになります。
その結果、批判リツイート経由で公式ツイートに批判コメントが増える結果になってしまっているわけです。
ある意味、もとのツイートがバズったことにより、対象外の人たちに間違った形でツイートが届いてしまったわけです。
批判の存在に驚いたり揶揄するツイートが増加
そうすると、今度は、その引用リツイートでの懸念や批判を見た人が、そういう意見の人がいることに対して驚きを投稿したり、ネタにしたり、批判への批判をツイートしはじめます。
19日お昼にスープストックトーキョーの公式アカウントが、「お客様のライフステージが変わり」とツイートしたことも、離乳食無料提供の批判者を揶揄する材料として使われる結果になってしまったようです。
こうした批判者に対する議論は、明らかにスープストックトーキョーには普段あまり興味を持っていなかった層にまで拡がっていきます。
その結果、4月19日の午後に入って「スープストック」がツイッターのトレンド入りし、ツイート数が前日の90件から2792件と一気に増加することになるのです。
スープストックトーキョーの離乳食無料提供に対して
・無料提供を喜ぶ子育て層
・無料提供を懸念や批判する層
・懸念や批判があることを驚いたりネタにする層
という3種類のツイートが連動することで、ツイートがバズったことになります。
「スープストック」がトレンドいりすると、さらにツイッターでは大喜利大会のように様々な意見が飛び交うことになります。
特に子育て層とそれを批判する層が直接対決していたというよりは、離乳食の無料提供を批判をする層に対して、それを揶揄する投稿が増えた結果、騒動が拡大したようです。
19日には一部のネットまとめサイトにおいて、スープストックの騒動がまとめられる結果となり、一部の方にはスープストックが炎上していると受け止められるようになります。
メディアも報道することでさらに拡大
その結果、翌日20日には一部のメディアで、スープストックの離乳食無料提供が「炎上」や「批判がある」ということが明言された状態で報道されてしまうことになります。
当然ながら報道を受けてツイート数はさらに増加。
4月20日の「スープストック」に関するツイートは、19日の8倍近い22,000件まで跳ね上がることになるのです。
当然、そうしたメディアの記事を読んでからツイートを見た人たちは、スープストックトーキョーが炎上状態にあるという前提で事態を見てしまい、その前提でツイートをする結果となるわけです。
ここでポイントになるのが、はたしてスープストックは本当に炎上していたのか?という点です。
これはスープストックの炎上なのか?
実はこの4月20日の段階で、J-CASTニュースが興味深い記事を掲載しています。
これは、ソーシャルインサイトというツールを活用してスープストックに関連するツイートを分析したもので、その日に他のメディアでスープストックが炎上している前提での報じ方に問題提起をしたものです。
J-CASTニュースの記事でも、スープストックのツイートに関しては、賛同や応援のツイートも多数あり、「反対意見への反発が相次いだことで、スープストックが実態以上にバッシングを浴びていると受け取った人」が増えたのではないかと問題提起がされています。
実際に、ツイートを分析してみると、スープストックへの批判のツイートも少なくはないものの、実は離乳食無料提供を批判する層への批判がネタ化していたことが良く分かります。
吉野家コピペの改編投稿が大きな話題に
4月20日に最も話題になったツイートは『「スープストックは女の吉野家」というのを見て笑ってしまった』という書き出しで始まる連投ツイートで、3万以上のリツイートがされ10万ものいいねがついています。
何も知らない人がこのツイートを見ると、スープストックを激しく批判する投稿に見えてしまうかもしれませんが、実はこれは吉野家コピペというネットでは有名なミームの改編投稿なのです。
一部のメディア関係者はこのツイートも、批判者のツイートで、その批判に10万もの賛同が集まっていると誤解していたようですが、実は4月20日の時点ではすでに離乳食無料を批判するという行為自体がネタ化されていたわけです。
こうしたネット事情に詳しくない一部のメディアは、一連の騒動を「スープストックトーキョーの炎上」と捉え、そう報道することによって、より騒動を大きくすることに加担してしまったとも言えるわけです。
企業の投稿が必要以上にバズるリスク
繰り返しになりますが、本来企業の「炎上」というのは、企業側の不適切な行為や投稿を行い、批判が殺到した状態のことを言います。
今回のスープストックトーキョーの騒動は、離乳食の無料提供という投稿が必要以上にバズってしまったことにより発生してしまったもので、ある意味批判者やメディアによる「巻き込み炎上」とでも呼ぶべきものでしょう。
どちらかというと炎上状態にあったのは、スープストックトーキョーよりも、離乳食の無料提供を批判する投稿をした側ということも言えるわけです。
今回のスープストックトーキョーが騒動に対して謝罪をしなかったことが賞賛されていますが、ある意味謝罪しないのは当然だったとも言えます。
ただ、ネット上の議論が分かれる部分に企業の行動が触れてしまうと、今回のように価値観が違う層同士の論争に巻き込まれ、企業自体が炎上していると報道されて、延焼しやすい時代になっているのは間違いありません。
これからは、ネット上でもある程度、伝えるべきメッセージを伝えるべき層に丁寧に分けて伝えるという努力が必要になってくるのかもしれません。
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