見出し画像

スター・ウォーズ完結編から考えるディープフェイクと演出の境界線

この記事は2020年1月10日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

スター・ウォーズの完結編となる「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」が昨年12月20日に公開。
日本でも興行収入50億円を突破したほか、世界の興行収入も1000億円を超えているようです。

興行収入の面で見ると過去作には届いていなかったり、ストーリーの展開が賛否を集めていたりと、議論をよんでいる点はあるようですが、スター・ウォーズらしい話題を集めた作品になっていると思います。

個人的に映画を観てみて、特に注目したのが、今回の完結編のスタッフがCGに対して貫いた姿勢です。

※まだご覧になっていないファンの方もおられるかと思いますので本編のストーリーには言及していませんが、ネタバレが気になる方はここでそっと閉じて下さい。


40年以上のスター・ウォーズファンの1人として、今回最も気になっていたのは、レイアを演じるキャリー・フィッシャーさんが前作である「最後のジェダイ」撮影後に亡くなってしまったことです。

8作目終了時にはレイアは映画の中では当然健在で、当初の予定では9作目でレイアがストーリーの1つの軸になる予定だったそうです。

その肝心な演者であるキャリー・フィッシャーさんが亡くなってしまったわけで、撮影側は非常に難しい選択を迫られることになったはずです。


■主要キャラクターの役者の不在をどう乗り切るか

通常、こうした事態に対しての選択肢は3つあります。

まず1つ目は代役を立てること。
例えば、映画マトリックスシリーズにおいても、ジー役を演じていたアリーヤさんが第二作公開前に飛行機事故で亡くなったため、ノーナ・ゲイさんが第二作から代役として撮り直していますし、オラクル役を演じていたグロリア・フォスターが糖尿病による合併症で亡くなったため、メアリー・アリスさんが引継ぎ、劇中では姿が変わった理由を語る謎めいた台詞を追加することで乗り切る対応をしています。

2つ目は作品の間に亡くなったという設定にすること。
例えば、Netflixのハウス・オブ・カードは、シーズン5終了後に主演のケヴィン・スペイシーが性的暴行の告発をされたことで、打ち切り寸前まで追い詰められましたが、主役の妻を演じていたロビン・ライトを軸に、シーズン6の冒頭をケヴィン・スペイシーが演じていた主役のフランク・アンダーウッドが死んだという設定からはじめる形で、最終シーズンを乗り切っています。

そして3つ目の選択肢が、CGで役者を作ることです。
実際に、スター・ウォーズシリーズのローグワンでは、ローグワンの時代設定がスター・ウォーズシリーズで最初に公開された作品であるエピソード4の直前ということもあり、帝国軍のターキン提督や若いレイア姫をスクリーンに登場させるために、最新技術を駆使してCGで再現し話題になりました。

個人的には、事前に映画に関する情報を遮断していたこともあり、てっきり今作は、2つ目と3つ目の選択肢を組み合わせて乗り切るんだろうと思っていたわけです。


■スター・ウォーズ完結編が選択した第四の選択肢

ところが、今回J・J・エイブラムス監督をはじめとした映画スタッフは、CGで役者の演技やセリフを作るのではなく、これまでに撮りためた未使用映像などを組み合わせることで、新たなシーンを生み出すという選択をしているのです。

実際に映画をご覧になった方には分かって頂けると思いますが、ところどころ視線の焦点や後ろ姿などに違和感を感じるところはあるものの、表情もセリフも仕草もキャリー・フィッシャー本人のもの。
過去の映像を使っているわけですから当然と言えば当然ですが、CGで演技を作ることを想像していた私には衝撃的。
最初、私はてっきり本人が亡くなる前に完結編の冒頭のシーンを撮っていたのかなと、思ってしまったほどでした。


そもそも昔からCGで役者の演技を作れてしまうと俳優が不要になってしまうではないかという議論があり、CGで役者を作ることに対して昔から批判があることは事実です。

スター・ウォーズのエピソード1~3でも、従来の4~6に比べてあまりにCGが使われている結果、旧来のファンから反発を受けていた面があります。
その影響か、J・J・エイブラムス監督は、スター・ウォーズの7作目に取り組む際に極力CGを使わずに着ぐるみや実物の人形を使用して撮影する旨を発表して話題を呼びました。

そういう意味では、もともとJ・J・エイブラムス監督がCGに頼ることを良しとしていないことが、今回のキャリー・フィッシャーさんの過去映像を活用するという選択に影響しているのは間違いないでしょう。


■AI美空ひばり紅白出場をめぐる議論

その視点で日本の年末年始を振り返って思い起こされるのが、紅白歌合戦におけるAI美空ひばりの登場をめぐる議論でしょう。

このAI美空ひばりは、生前の美空ひばりさんの音源や映像データをAIがディープラーニングすることで作成されたもの。
もともとは9月のNHKスペシャルで放送されたものでした。

それが今回、紅白歌合戦でも目玉歌手の一人として登場したことで、一部では批判も起きていたようです。

一方で、AI美空ひばりの登場シーンでは歌唱前から視聴率が上昇したという報道もあり、注目度が高かったのも事実のようです。

今後間違いなく、難しい議論になってくるのが、こうしたCGによる再現や演出はどこまで許されるのかという議論です。


■現実的な問題になっているディープフェイク

特に2年前から世界的に注目されているのが「ディープフェイク」というキーワードです。
スター・ウォーズのローグワンにおけるレイア姫や、AI美空ひばりのように、もはや最先端の技術を駆使すれば本人そっくりの動画を作成することが可能になっているわけですが、ディープフェイクとはこうした技術を悪用する行為に継承する意味で使われているキーワードです。

このキーワードを一躍有名にしたのは、2018年に公開されたオバマ大統領がトランプ大統領を罵るこちらの動画でした。

ややぎこちないところはありますが、あまり深く考えずに見たら本人の本当の発言だと騙されてしまうレベルの動画になっています。

この動画はあくまでディープフェイクに警鐘を鳴らすために作られたものですから種明かしがされていますが、実は悪意がある人間が同じことを実施できてしまう時代に突入しているわけです。

今年は米国で大統領選挙が行われる年でもあります。
前回の大統領選挙においては、トランプ大統領の当選にフェイクニュースが大きな影響を与えたと言われていますが、今回の大統領選挙では、単純なフェイクニュースだけでなく、ディープフェイクによって喋ってもいない発言を喋ったかのように捏造されるリスクも見えてきているわけです。


その現実を踏まえて、冒頭にご紹介した今回のスター・ウォーズ完結編におけるスタッフのCGに安易に頼らない姿勢を振り返ると、実はこうした姿勢こそが、今後のAI活用においても重要なポイントになってくるように思えてきます。
同じ技術でも、使う人間の倫理感や、その使い方を許容する社会の常識によって、こうした技術が社会にメリットもデメリットももたらすのは間違いありません。

新しい技術を使えるようになった人間が、簡単にダークサイドに落ちてしまう可能性があるわけです。

もし今から、スター・ウォーズ完結編をご覧になる方は、そうしたスター・ウォーズの映画制作スタッフのもう一つの戦いにも注目してご覧になって頂くと、また違った感慨を味わって頂けると思いますので、是非どうぞ。

この記事は2020年1月10日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます。 このブログはブレストのための公開メモみたいなものですが、何かの参考になりましたら、是非ツイッター等でシェアしていただければ幸いです。