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Netflix アニメ・クリエイターズ・ベースは、日本のアニメ産業の起爆剤になるか

最近日本でも存在感を増しつつあるNetflixですが、ここに来て矢継ぎ早にアニメ関連の新しい取り組みを発表しています。

その1つはポケモンシリーズの最新映画「劇場版ポケットモンスター ココ」の世界配信開始予告。
そして、もう1つが六本木に移転したNetflix新オフィスの中に作られたアニメーション制作会社への支援強化に向けた新拠点「Netflix アニメ・クリエイターズ・ベース」(以下、クリエイターズ・ベース)の開設です。

ポケモン映画の配信は残念ながら日本が対象外ですので、あまり日本では話題になっていませんが、やはりインパクトがあるのは「クリエイターズ・ベース」でしょう。

Netflixアニメチャンネルの公式VTuberのN子さんが紹介する7分ものの動画で、非常にオシャレな「クリエイターズ・ベース」の様子を覗くことができます。

東京スタジオ開設からはじまったYouTubeの躍進

もちろん、あくまで1つの拠点が作られただけ、といえばそうなのですが、今回の「クリエイターズ・ベース」開設で思い起こされるのが、2013年にGoogleが六本木にオープンした「YouTube Space Tokyo」開設のニュースです。

2013年というと、YouTuberが注目され始めたばかりのタイミング。

当時は、まだまだYouTubeのブランドイメージもそれほど高くなく、YouTuberも玉石混淆の状態でした。そこで、GoogleはYouTuberをさらに増やし、一人一人のYouTuberのレベルをアップするための拠点として六本木ヒルズ内に豪華な撮影スタジオを開設。
無料でパートナーに開放したのです。

「YouTube Space Tokyo」のことをご存じの方は少ないかもしれませんが、その翌年の2014年にHIKAKINさんをはじめとするYouTuberのテレビCMが放映開始され、「好きなことで、生きていく」がYouTuberの代名詞になっていったことを覚えている方は少なくないと思います。

実は、Googleによる「YouTube Space Tokyo」の開設は、その後に来るYouTuber時代の幕開けをかざるために重要な取り組みだったと振り返ることができるわけです。

もちろん、いきなりゼロからYouTubeが生み出したYouTuberという職業とは異なり、アニメのデザイナーやクリエイターは既に確立されている職業ですから、今回Netflixが六本木に開設した「クリエイターズ・ベース」が「YouTube Space Tokyo」と同じようなインパクトをアニメ業界にもたらすと断言するのは流石に言いすぎかもしれません。

ただ、Netflixの「クリエイターズ・ベース」開設は、当時のYouTubeと同じような本気度を感じさせてくれますし、今後日本のアニメーター支援に本気になったNetflixが日本のアニメ産業に新たな風を吹き込むことになる可能性は非常に大きいように感じます。

10年ぶりの減少に直面した日本のアニメ市場

実は日本のアニメ産業の市場規模は、この10年間ずっと右肩上がりで来ていたものが、ここ数年は踊り場にさしかかっており、昨年は10年ぶりに減少してしまったと言われています。

鬼滅の刃のような大ヒット作品があるので、素人目にはアニメの市場は拡大し続けているように見えるのですが、制作現場においては2019年のテレビアニメ制作本数は314本となり3年連続で減少したことや、新型コロナウイルスの影響による制作遅延や放映延期といった問題が影響したようです。

さらに深刻なのが、中国企業の台頭が目に見えてきているなかで、赤字決算が4割と、経営状況が悪化しているスタジオが過去最高に増えてしまっている点です。

日本のアニメ制作現場というと、日本独特の商習慣や雇用形態の影響もあり、アニメーターの年収が全産業平均よりかなり低く、若手の定着の阻害要因になっているとも言われています。

そうした状況に「起爆剤」としての一石を投じる可能性があるのが、Netflixのような動画配信サービスなわけです。
実はNetflix側も、Disney+という強力なライバルの登場により、独自アニメに注力しなければいけない事情がありますので、日本のアニメーターにとっては大きなチャンスと言えます。

日本のアニメ産業にとっても、Netflixなど外資のアニメ制作拠点が東京に集まれば、明確に東京がアニメにおけるハリウッドになる未来もみえてくるかもしれません。

黒船Netflixは日本のアニメ産業の敵か味方か

一方、日本のアニメ制作の現場の方々からすると、日本の才能が海外の黒船Netflixに持って行かれてしまう、という見方も根強いようです。

ただ、日本の動画制作の現場において、YouTubeという選択肢ができたことにより、YouTuberという新しい職業が生まれたように。
日本のアニメ制作の現場においても、Netflixが新しいアニメーターの形を生み出す可能性は間違いなくあるように感じます。

象徴的なのが、冒頭でご紹介したポケモンとNetflixの提携のように、日本のアニメが次々にNetflixなどの動画配信サービス経由で海外市場での拡がりを見せている点です。

ポケモンのアニメもNetflixのランキングを見ると、世界中でトップ10に何日も入っていたことが分かりますし、ジブリの作品もNetflix経由の配信により海外でのファンを増やしているようです。

さらに象徴的なのは劇場版「鬼滅の刃」がNetflixのような動画配信サービスの影響もあって、米国での劇場公開に成功したことでしょう。

日本のアニメの市場が世界に拡がれば、日本のアニメ市場にもさらなる規模拡大の余地が出てきますし、アニメーターの制作現場の労働環境が改善できる余地も拡がる可能性があるはず。

日本のテレビ市場を破壊する「黒船」と恐れられていたNetflixが、実は鎖国していた日本のアニメが本格的に世界に拡がる新たな黄金期の扉をひらいた。
そんな風に、後から振り返れるような展開を、これから期待したいと思います。

この記事は2021年9月12日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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