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一発撮りのファーストテイク人気に学ぶ、盛れないコンテンツが求められる時代の到来

YOASOBIの「THE FIRST TAKE」の配信が、先月に続き大きな話題になっています。

2月に「THE FIRST TAKE」で公開されたYOASOBIの「群青」の配信は、公開時の同時視聴数がチャンネル史上最多の約13万人となり、すでに再生回数も1400万回を超え、注目されていました。

そして、今回は3月10日に、テレビアニメ『BEASTARS』第2期のエンディングテーマとなっている「優しい彗星」を配信開始。

まだメディアでは披露されていなかったYOASOBIの楽曲が、「THE FIRST TAKE」で初めてパフォーマンスされるという話題性もあり、YouTubeの急上昇ランク1位にもなった模様。
すでに、公開3日で再生回数は360万回を超えています

去年のコロナ禍でも話題になったYOASOBI

YOASOBIの「THE FIRST TAKE」といえば、昨年の5月の緊急事態宣言下に公開された「夜に駆ける / THE HOME TAKE」をご存じの方も多いでしょう。

こちらは、コロナ禍で外出自粛が求められたタイミングにおいて"いま、こんなときだからこそ、音楽を届けたい。すべては、家の中からはじまる。"というコンセプトで、アーティストの自宅やプライベートスタジオから一発撮りを行うYouTubeコンテンツとして企画されたもの。

YOASOBIの配信は、その第3弾として企画され、なんと9000万回以上再生されています。

シンプルな白背景での一発撮り

こうした数々のヒット動画を生み出した「THE FIRST TAKE」が始まったのは、2019年11月。

「とにかくシンプルでリッチなコンテンツを作ろう」というコンセプトから、演出していないむきだしの格好良さにフォーカスし、シンプルな白背景での一発撮りという「THE FIRST TAKE」が生まれたそう。

すでに、76組のアーティストが出演し、チャンネルの総再生回数はなんと9億以上。
3月12日には記念すべき100本目が公開されています。

「THE FIRST TAKE」の魅力は、なんといっても、アーティストの息継ぎはもちろん、足音や、服がこすれる音なども全部録音されていて、それが静けさの中で緊張感として伝わってくる圧倒的な生感でしょう。

特に取り直し無しの1回きりという緊張感は、アーティストの歌い始める前の表情や仕草、歌いきったときの安堵の表情から、痛いほど伝わってくるはずです。

加工をしないからこその素晴らしさ

通常の音楽の楽曲制作においては、何度も最高の出来になるまで繰り返し歌ったり演奏することはもちろん、息継ぎを消したり一部加工することが多いとも聞きます。

テレビの音楽番組において、いわゆる口パクで歌うというケースもあることを考えると、YouTubeという加工が容易な音楽動画配信サービスにおいて、わざわざ従来の音楽配信の常識とは真逆の「一発撮り」にこだわるのは、ある意味、非常識なアプローチだったということもできると思います。

その非常識なアプローチの結果、「THE FIRST TAKE」は、一発撮りでも圧倒的な歌唱力を魅せることができる、真のアーティストの素晴らしさを私たちに教えてくれるわけです。

ここで、注目したいのは「THE FIRST TAKE」に限らず、最近のインターネットにおいては、こうした加工をしないコンテンツ、加工ができないコンテンツに脚光があたりはじめているというトレンドがあることです。

Dispoやクラブハウスにも共通する特徴

例えば、一部ネット界隈で話題になっている「Dispo」という写真共有アプリ。

Dispoは「disposable(使い捨て)」という意味の英単語からきているそうで、昔の使い捨てカメラ同様に、撮影した写真の加工ができないどころか、どういった写真が撮れたのか翌日の朝の9時まで確認できないという、ある意味「不便」なアプリです。

ところが、この不便さによって生まれるある意味懐かしい体験が、多くの人たちに注目されているのです。

写真SNSの代表として人気のインスタグラムが、写真加工機能によって「盛れる」ことが人気の理由になったのとは対象的。
最近では「盛れない」サービスが脚光をあびるようになっているわけです。

同様に、2月の間に大きな話題になった音声SNSのクラブハウスでも、インスタグラマー同士の会話で良く話題になっているのが、インスタは「盛れる」けどクラブハウスは「盛れない」という点。

インスタの写真であれば、自分の最高の角度、最高の一瞬を捉えた写真をアップし、自分を少し背伸びした状態で表現することができますが。

クラブハウスで行われるのは生の会話。
最初は、少し背伸びした自分を演じることができても、他の人と長くおしゃべりをすればするほど、素の自分や本音が出てしまうもの。

逆にその素の会話こそが、クラブハウスの人気のポイントとも言えるでしょう。


「盛れない」コンテンツが示す本質

「THE FIRST TAKE」「Dispo」そして「クラブハウス」。
分野は全く違うコンテンツやサービスですが、デジタル技術の進化によって、誰でもいくらでも事実を「盛る」ことが可能になった現在において、「盛れない」コンテンツやサービスに注目が集まりはじめているというのは注目すべき現象と言えるでしょう。

現在はデジタル技術を駆使すれば、素人でも写真を加工できるだけでなく、ディープフェイクとよばれるような偽物の動画も作り出せてしまう時代。
だからこその現象と考えるべきなのかもしれません。

「THE FIRST TAKE」のキャッチコピーは「ONE TAKE ONLY. ONE LIFE ONLY.」

ワンカットで一度きりの収録に本気で挑戦されているアーティストの方々のように、デジタル技術で加工できない素の歌にこそアーティストの本質が見えます。
そして人間というのは、そんな素の人間の本質やウソのない努力の姿にこそ感動する、という基本に回帰すべき時代なのかもしれません。

※ちなみにYOASOBIは、ライブレポート募集企画をnoteで実施されてますのでこちらもどうぞ。

この記事は2021年3月14日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です


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