見出し画像

倉橋由美子『パルタイ』の感想

倉橋由美子の『パルタイ』を含む短編集がブラックフライデーで割引だったので買って読んでみた。今回はその感想を書いていこうと思う。

この作品では直接具体的にどこの組織かは明言されないが「パルタイ(党)」での活動の様子と、そこに入党するために履歴書を書くという一幕が描かれる。

手法的にはカフカの『変身』っぽい感じはするけど『変身』ほど抽象的ではない感じ。パルタイという若干間接的な言葉を使ってはいるものの、間接的な表現にする意味があったのかと思うほど直接的な話を描いているように思える。

そういった組織に対しての洞察は面白く鋭い面もあると思うが、小説にする意味があったのかは疑問に感じた。カフカの『変身』の場合は直接的に引きこもりやニートという存在を描かずに、役立たずの虫になってしまった人の心理を描くことで、グレゴールザムザに似た実際にいる人の心理を浮き彫りにしているという点で抽象化に成功している。様々な現実に存在するグレゴールザムザに似ている心理を『変身』という作品の中に詰め込むことに成功しているということだ。こういった抽象化は小説にしかできないことなので、これは小説にする意味があると思う。

しかしこの作品の場合は明言こそしていないが、あまりにも描写が直接的なのでぼやかしていたとしても指している対象が明確である。なので「ノンフィクションで良かったのでは?」とどうしても思ってしまう。やるんだったら党を含むあらゆる組織や宗教も含めた上で、その組織の内にある共通的な心理や構造を暴きだし、それらを抽象的に描くというくらいしないと小説にする意味がないと思う(冒頭から数ページでそういう話かと思っていた)。なので表題作ではあるが個人的には微妙に感じてしまった。

ただあえて固有名詞を出さないことで、そういった組織にいる人が個人を過度に「労働者」「組合員」というようなレッテルでしか認識しないということを暗に描いているのかなとは感じた。なのでそういう意味において小説にする意味があるのかもしれない。だとしてもそこまで面白い作品でもなかったという印象。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?