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「場の熱をあげるプラットフォーム」としての「ご当地かるた」。あるいは「かるた」が作る「愛のコミュニティ」のらせんについて。

2019年末に『吉祥寺かるた』を発売してほぼ1年になる。その間いろんな気付きや出会いがあり、「かるたの力」に魅せられて、「ご当地かるたプロデューサー」なんて肩書きを名乗るほどになってしまった僕だが、今日はその「かるたの力」について少しお話しようと思う。

ご当地かるたは【場の熱を上げる】プラットフォームになるんじゃないか、というのが僕の仮説だ。「場の熱」は、「地域活性」みたいに言い換えられるかもしれない。それに、「ご当地かるた」は効くのではないかと。

地域が活性化していくためには、いきなり箱物を作ったり有名店みたいな外部資本を持ち込むだけではきっと駄目で、まず、「内部の熱」を上げていく必要があると思う。つまり、まずは地元の人の「地域愛」が高まってくることが前提で、それがうねりになってきたときに初めて外部エネルギーの注入が有効になり、その「内部の熱」と「外部エネルギー」が融合して「活性化」になっていくのではないかというイメージだ。

この仕組はなにも地域に限ったことではなくて、アイドルでもバンドでもマンガでも、「〇〇愛」のコミュニティが活性化するときにはみんな当てはまることのような気がする。まず、ひとりのファンの胸の中で熱(愛)が生まれて、それがパーソナルなものとして育つことが前提で、次に、育った愛同士が出会い共感となってファンコミュニティ(場)が生まれ、それが新たなファンを巻き込んで螺旋状に盛り上がっていって(融合・進化)いって、「活性化している」状態が生まれる。なにはさておき、どんな巨大なコミュニティでも、まずは「ひとりの熱」が大事なのだ。

で、「ご当地かるたを作る」という作業って、その「〇〇愛のコミュニティ」を作っていく仕組みに効くんじゃないかということを、僕は『吉祥寺かるた』というご当地かるたを作る過程で感じた。

好きな街のかるたの札を考えて、それをシェアして、形になって、街の仲間と遊んだら仲間が増えて……という流れって、ひとりの何かしらの「推し」(たとえばアイドルやマンガでもいい)ができた人が、その「推し愛」を育てるうちに、徐々にコミュニティができて広がっていく過程と重なるな、しかも結構再現性ありそうだな、と思ったので、そのさわりを書きとめておく。

20201108愛の螺旋図1

とりあえず、ステップを簡単に図にするならこんな感じ。順に説明していこう。

①札を考える 〜かるたの最大の強みは、その参加障壁の低さ

かるたを作ろう、と思い始めてすぐに気づいたのは、「かるたって、説明がものすごく少なくてもわかってもらえるな」ということだった。「吉祥寺のかるたを作ろうと思ってるんです」というだけで、みんな「へえ〜面白そうですね!」と言ってくれた。その一行だけで、どんなものを作ろうとしているか、その面白みは何か、瞬時に理解してくれたのである。それも、年齢職業問わず、ほぼみんな。

たとえばこれが「吉祥寺のゲームを作ろうと思うんです」という言葉だったとする。もちろん興味を持ってくれる人は少なからずいると思う。でも、ゲームと言っても色々ある。まずは「どんなゲームですか?ボードゲーム?それともアプリ?」と質問しなくてはならない。アプリだとしたら「アクション?パズル?ソシャゲ的な?それともRPG的な?」と次の質問をしなくてはならない。実際に遊ぶとしたら、今度は動作環境は何なのか、何人で遊ぶのか、勝利条件はなにか、チュートリアルやマニュアルや動画を見て、やっと「面白そうかどうか」が判断できる。スタートまでに超えなければいけないハードルがめちゃくちゃ多いのである。

ところがかるたは、日本全国老若男女、ほぼ全員がすでにルールを知っているのだ。こんな遊び、そんなにない。かるたってじゃんけんの次くらいに参加障壁の低いゲームなんじゃないだろうか?

「僕、ゲーム作るんです。一緒に考えてください」と知らない人に誘われたら、大抵の人は「はあ?この人いきなり何?なんの勧誘?怖っ」みたいに思うんじゃないだろうか。だって、すごく得体の知れないお願いだから。ところがかるたは「吉祥寺のかるた作るんです。読み札を募集するんで一緒に考えてください」と言われたら、自分は何を求められているかほぼイメージできると思う。だから「え、吉祥寺のかるた?そうだな、自分だったら何を札にするだろう?」って、その場で気楽に考え始められてしまうのだ。出会って5秒で参加者になっている。これはものすごいことだ。

先述したように、愛のあるコミュニティの出発点は「ひとりのファンの胸の内で熱が生まれる」ことだ。この、大事な最初の一歩が、その「かるたの参加障壁の低さ」によって「あなたなら、何を読み札にしますか?」のたったひと言だけで成立しちゃうのである。

「自分が吉祥寺のかるたを作るならあの焼き鳥屋は外せないな」とか「やっぱ井の頭公園のお花見だよね」とか「とっておきのカフェ!かき氷が可愛いの!」とか、自分の内にあるパーソナルな「吉祥寺愛」が意識の上に顕在化してくるようになるのだ。

②シェアする 〜SNSによって生まれる、小さなファンコミュニティ

『吉祥寺かるた』では、その「かるた作ってるんです。読み札を考えてください」の投げかけには、SNSを使った。そのときに気をつけたことは、「参加障壁の低さを、台無しにしない」ということだった。

実は、最初は、よくある懸賞キャンペーンみたいなものをイメージしていた。「かるたの札を大募集!採用された方には豪華プレゼント!住所氏名年齢メールアドレスを書いて応募してね!」みたいなやつだ。でも、氏名や住所を書かなければいけない、と言われたら、パーソナルな「偏愛」では応募しにくくなってしまう。そして目的を懸賞にしてしまったら、みんな「採用されそうな札」を「当てに行く」ようになってしまう。それでは、「内なる熱」は上がらない。

そこで、応募はTwitterでハッシュタグをつけて投稿するだけ。投稿フォームも作ったが、ハンドルネームと読み札ネタを書くだけ。一度にいくつでも投稿OK、と、とにかくハードルを下げることにした。

するとその結果、それこそめちゃくちゃパーソナルな、「私から見た吉祥寺の姿」「私の偏愛する吉祥寺」的な札が続々と集まってきた。そしてその投稿はリアルタイムでTwitterのタイムラインにシェアされているので、みんながその「偏愛札」を目にすることになる。それによってまた、「あ、こんな感じでいいんだ。じゃあ私なら…」と次の偏愛が引き出され、そこに小さな「ファンコミュニティ」が生まれていった。

たとえば、同じバンドが好きな人同士が偶然出会ったシーンを想像してみて欲しい。一番好きな曲は一致しなかったとしても、同じバンドを「推し」ている者同士のおしゃべりは絶対に盛り上がるはずだ。「へー!あの曲が一番好きなんだ!いいよねー!私の一番はこっちの曲!」とか、「あの大阪のライブそんなに最高だったんだ!私が見た東京も最高だったよ!」とか、推しが共通する者同士のファンコミュニティって、その互いの存在だけで嬉しくて仕方がないものだったりする。ごくごく小さなものだが、そんな「熱の連鎖」が、SNS上でたくさん生まれていったのだ。

もしこれが「懸賞キャンペーン」だったら、きっとそうはいかないだろう。だって、みんな同じ懸賞を奪い合う「敵同士」になってしまうから。好きなバンドに「上手に僕たちをほめてくれた順にファンに序列をつけます」と言われてるようなものだ。そしたらきっと、誰も口をきかなくなる。他人の「好き」を採点し、ダメ出しをするようになる。そんなファンの集いの空気は最悪になるはずだ。つまり大事なのは「偏愛」がフラットにシェアされていることなのだ。それが、「小さいけれど強い共感」を生み出していくポイントだと思うのだ。

え

この札は「ええじゃないか、関町南も吉祥寺」という札だ。【関町南という町は吉祥寺駅から5キロも離れている(西武新宿線の方があきらかに近い)のに、なぜか関町南在住の人は「吉祥寺に住んでいる」と言いたがる】という、本当にどローカルな「あるあるネタ」だ。もちろんこの札を投稿してくれたのは関町南在住の人。この札はなぜか人気が高く、「かるたの札をTシャツにするならどれがいい?」というアンケートを取ったときにも上位に食い込んだし、結局10種類くらい作ったTシャツの中で一番売れたのはこの絵柄だった。

その購入者も、ほとんどは「関町南在住」。この札を見て「わかるー!私もー!」ってなって、3500円出してTシャツを買ってしまった人が複数いたのだ。「かるたの絵柄のTシャツ」を「買っちゃうくらい共感する」って、ちょっとすごいことなんじゃないだろうか。「正しいこと」は、賛同は集めるかもしれないが、共感は呼ばない。共感を呼ぶのはいつも、ひとりの「内なる熱」なのだ。

③遊ぶ 〜「ゲーム」だから集って遊びたい。推しのファンミーティングはいつだって熱い

さて、かるたが完成すると、みんな集まって遊んでみたくなる。だって、かるたはそういうゲームだから。

正直、今年はコロナのせいで、「対面+接触」がルールの基本である「かるた」にとってはかなり逆風のタイミングだったのだが、それでも年初などに何度かは、みんなが「吉祥寺かるた」を囲んで遊ぶ場面を目にすることができた(オンラインでもチャレンジして、それはそれで相当面白かったのだが)。そこでは、さっきまで知らない者同士だった人たちが、一気に打ち解けて笑顔になっていく風景を必ず目にすることができた。

さっきのSNSでの「推しが一致する人同士の出会い」の延長線で言うと、実際にかるたで遊ぶ場面は、そのスケールが大きく濃くなった「ファンミーティング」みたいなものだ。盛り上がらないわけがない。誰でも一度くらいは「地元あるある話で初対面の人と異様に盛り上がった」という場面は経験したことがあるだろう。それが、かるたというツールによって、「ご当地ファンクラブのファンミーティング」として意図的に生み出せるのだ。

かるたという遊びは、老若男女ルールを知っているだけでなく、年齢差や環境差のある人同士でも一緒に楽しめるというすごい強みを持っている。小さな子の場合、ゲーム序盤は、文字を読むのの遅さ故に押され気味になるが、後半になると集中力を発揮してめきめき追い上げてきたりする。逆にお年寄りの方なんかは、反射神経ではハンデがあるが、「この札だけは取りたい」みたいな戦略を立てることで、以外な場面で活躍できたりする。おばあちゃんが終盤で一枚取ったりすると、めちゃめちゃ盛り上がるものだ。そしてもちろん、その土地を知っている人が必ずしも強いというわけではないので、誰にでもかつチャンスがあり、どんなメンバーでもゲームとしてシンプルに盛り上がれる。

「遊んで、楽しい」。これが、何よりのかるたの強みだ。なんたって、何百年も流行り続けているゲームなのだ。文字通り「場の熱を上げる」力が半端ないのである。地元のみんなでひとところに集い、それぞれのパーソナルな偏愛で綴られたかるたを囲んで、「場」と「時間」と「感情」を共有する。こんな幸せな遊び、なかなかないのではなかろうか。

④巻き込む 〜知らない人も興味を持っちゃうメカニズム

さきほども書いたように、その土地のことを知っている人が、ゲームとしてのかるたにも強いとは限らない。吉祥寺かるたの大会でも「今日はじめて吉祥寺に来た」みたいな人が優勝してしまうような場面もあった。

そして、自分がゲームの中でゲットした札には、たいていみんな興味をもってしまう。

たとえば、吉祥寺かるたの「て」の札はこんな札だ。

て

たぶん吉祥寺に詳しい人なら「ああ、あそこね」とわかる風景なのだが、吉祥寺を知らない人が見ても、何の場面なのかさっぱりわからない。そんな絵柄の札だ。

読み札は「徹夜で羊羹」

読み札を読まれても、知らない人はまだイマイチ意味がわからない。でも、地元の人は「だよねー」なんて言って笑っている。こうなると、その札をゲットした人は「なんすか、これ?」と聞かずにはいられなくなってくる。

「なんすか、これ?」
「小ざさっていう店よ。羊羹が有名なの」
「徹夜で羊羹なんか買う人がいるんですか?」

と、そこで読み札登場。そこには小さな文字で解説が書かれている。

アートボード 19

「えー!マジっすか!40年間、毎朝8時?やべえ、行ってみたい」

と、なる。たぶん、なる。「絵札」〜「読み札」〜「解説」の3段階で興味を掘り起こされることで、普段別に吉祥寺にそれほど興味のない人でも、「行ってみたい」と思うくらいの興味を植え付けられてしまう。

そしてそれは、「遊びながら、楽しみながら、植え付けられた興味」なので、普通にガイドブックを読んで感じる興味よりもはるかに深いところに刺さってしまう。遊びながら知ることで、その地域のことが「自分ごと化」してしまうのだ。その「遊べる」という特性によって、どんなメディアやガイドブックよりも強力に、新たなその地域のファンを獲得していく可能性をかるたは持っているのである。

⑤進化する 〜街が変化するなら、かるたも進化するべきなんじゃないか

最後の「進化する」というステップは、普通のかるたには当てはまらない。普通のかるたは、一度完成したら、それ以上変化することはないからだ。

でも僕は、街が変わっていくのに、その魅力を伝えているはずの「ご当地かるた」が変わらないのはおかしいんじゃないかと思ったのだ。実際、「吉祥寺かるた」が完成してからのこの1年、コロナの影響もあり、吉祥寺では大量の店が閉店し、多くの店がオープンした。そうやって街が生き物のように変化を続けていくのなら、かるたもまた生き物として進化を続けたいそう思ったのだ。

そこで、閉店してしまったお店を描いていた「ゆ」の札を新しいものに差し替えて「第2版」を制作することにした。そして、またSNSで読み札を募集することにしたのだ。

「かるたの「ゆ」の札を新しくします。読み札を考えてください」と。

はじめは、一度完成してしまったかるたの、札を一枚だけ、それも「ゆ」なんていう中途半端な札を募集するからって、一体どれだけのリアクションがあるだろうと不安だったが、それは杞憂だった。たくさんの方が、「ゆ」から語れる「私だけの吉祥寺」を寄せてくれた。

そしてその向こうにはさらに、応募してくれた人の何倍もの方が「私だったら「ゆ」から始まる吉祥寺、何を語ろう?」と、自分の「内にある吉祥寺」に意識を向けてくれていたはずだ。つまり、パーソナルな「吉祥寺愛」の顕在化。かるたが作る「愛のらせん」が、一周したのだ。

20201108愛の螺旋図2


くどいようだが、なにもこれは「ご当地」に限った話ではない。かるたというシンプルなプラットフォームは、使いようによって「愛」が中心に据えられているコミュニティであれば幅広く「コミュニティの活性化」に効くのではないかと思っている。

そのへんの話は、また回をあらためて。


【2022.08 追記】

2021年、この記事をベースにした「愛のあるコミュニティを育てるプラットフォームとしてのご当地かるた」という取り組みで、グッドデザイン賞を受賞いたしました。(詳細はこちらの記事をご参照ください)

これも吉祥寺を愛するみなさんが、この「かるたの愛の螺旋」に力を寄せてくださったからにほかなりません。あらためて御礼申し上げます。

愛の螺旋図03

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