本の要約動画チャンネルが訴えられるとどうなるか?(弁護士のアンケート付)

youtubeなどでの本の要約動画はもっと昔からやっていたチャンネルもあるものの、ここ数年で特に増えたように感じます。
ファスト映画チャンネルが訴えられてチャンネル製作者達が多額の損害賠償を背負う事になったというのは記憶に新しいと思いますが、ファスト映画チャンネルも実際はかなり昔からやっていたチャンネルもそこそこあったようで、「ここ数年で急に登場した」というわけではなかったようです。
私も7年以上前にyoutubeのおすすめで映画のストーリーまとめ動画が目に入った事があります。実際にその中身を見ていませんが、サムネイルがその映画の画像そのままみたいでした。

ファスト映画チャンネルのように本の要約動画チャンネルも、「昔からあるから問題ない」のではなく、後述するように色々法的な問題を抱えているので、突然出版社や著者達から訴えられて多額の損害賠償を支払う事になるかもしれません。
出版社や著者の許諾を得ているならいいのですが、無許諾でやってる場合は危ない。

今回の記事では、「本の要約動画が訴えられるとどうなるか?」を主に記載したいと思います。
チャンネル製作者はもちろん、後述のように「本の要約動画にイラストや声を提供している人達も著作権侵害か幇助で訴えられる場合がある」ので注意です。

なお、「本の要約動画」はもちろん、「本の要約サイト」も同様の問題を抱えています。
出版社や著者の許諾を得た上で要約をやっているならともかく、そうでないサイトの場合は「サイト運営者」だけでなく、「文章を書いた者」も著作権侵害か幇助で訴えられ損害賠償を支払わされる場合があります。
  


1.「法的には問題がある」と答える弁護士の方が多い


まず本の要約動画は著作権的に問題があるのかないのかについて。
これは「弁護士により解釈は異なる」のだと思いますが、私は高校の時の知り合いと大学の時の知り合いがそれぞれ弁護士になり、またそれとは別の知り合いが配偶者が弁護士なので、それぞれが所属している弁護士事務所の弁護士さん達と、その事務所のOB弁護士の方達にアンケートを行い、その結果を下記に記載したいと思います。
二か月くらいで合計で51人の現役弁護士およびOB弁護士の方達にご回答いただきました。

争点は「出版社や著者に無許諾の本の要約動画や要約サイトは著作権法の第27条の翻案権の侵害にならないか?」です。
回答については「どちらでもない」はあえて作らず、「侵害にあたる」「当たらない」の二択のみです。

回答の結果は、「本の要約動画や要約サイトは翻案権の侵害にあたる」と回答した方が51人中38人、残りの13人が「侵害には当たらない」と回答しました。

本の要約動画については、「本の要約動画 違法」などで検索してサイトを見て回ると「中身を色々アレンジして公開しているので、法的に問題ない」と言ってるサイトもわりとありますが、アンケートに回答した現役およびOB弁護士達の大半が「翻案権の侵害にあたる」と考えているようです。
実際に裁判でも翻案権の侵害を争点に訴訟を起こされると、本の要約動画チャンネル製作者達は敗訴する可能性が高いと思います。

翻案権は、本の場合は「その本の中身を形を変えて公開する事」と言えるでしょう。
たとえば漫画を小説やアニメなどの別の形にアレンジして出版社や著者の許諾なく公開するのは翻案権の侵害に当たります。
本の要約動画も同様に考えられ、大半の弁護士が「著作権法の翻案権の侵害になっている」と回答されたのだと思います。
「アレンジしているから問題ない」は法的にはかなり無理な言い訳です。
それが通るなら、「アレンジしているから、他人の人気小説を出版社や著者の許諾を得ずに勝手にコミカライズして稼いでも良い」になってしまいます。

著作物の引用の場合は引用部分が「従」でないといけないので、本の要約動画のように明らかに「主」となっている状況では「引用だから」で逃げるというのも無理です。
 

2.本の要約動画でその本の売り上げは増える?減る?


著作権侵害があっても親告罪なので、出版社や著者が訴えなければ問題ありません。
訴えるかどうかの判断の一つに「本の要約動画で本の売り上げが増えるかどうか?」というのがあると思います。
「本の要約動画のおかげでその本を知って本を買う人が増えるだろう」という気になっているチャンネル製作者もわりといるかもしれません。

残念ながら出版社に知り合いが一人もいないので、こちらはアンケートが取れていませんが、個人的な考えを下記に記載します。

「本の要約動画で初めてその本を知った」というのは普通にあると思いますが、「要約動画のおかげでその本を買った」はゼロではないでしょうが、かなり少ないと思います。
なぜなら動画内で「その本の重要な部分の大半をすでに知ってしまった」ので、その本をそこから金を出して買いたいと思う人は本当にごく少数でしょう。
3万回再生の動画で、30人もいるかどうか。
逆に「本の要約動画のおかげで、この本はもう買う必要はなくなったな」と思っている人が大半だと思います。
「すでにその本の名前は知っていた」人は、本の要約動画で簡単にその本の重要な部分の大半を無料で見れてしまえると、もうその本の購入意欲は大きく減るでしょう。

出版業界は電子書籍市場が伸びてきているものの、全体としては右肩下がりの業績がずっと続いており、その状況で本来ならもっと売れるはずだった本が「無料でその本の重要部分を色々勝手に公開する」本の要約動画で本の売り上げ低下をされると、出版社や著者としても快くは思わないでしょう。
今現在まだ訴訟が起きていなくても、ファスト映画チャンネルのようにある日突然著作権侵害(翻案権侵害)で訴えられる事があるかもしれません。
 

3.その他にも抱える問題


翻案権の侵害以外にも、本の要約動画は色々な問題を抱えていると思います。

私が実際に持っている本でその本の要約動画を観ると、「メインほどでないもののそこそこ重要である部分を色々省略しすぎ」というのがあります。
著者としては「この部分もきちんと読んで欲しい」というのが本のあちこちに入れていると思いますが、本の要約動画はそういう大事な部分をわりとあっさり省略して主だった部分のみをまとめていて、本の著者としては相当いい気分にはならないでしょう。(訴えられるリスクが上がる)

また、要約としてアレンジする際に、「その著者が言っていない事を勝手に付け足したりしている」場合は、動画を観ている人に「この著者がこう言ったのか」と誤認させ、著者の信用や名誉を棄損する場合があります。

 

4.実際に訴えられるとどうなる?


次に本の要約動画チャンネルが実際に訴えられるとどうなるかについて記載していきたいと思います。
本の要約チャンネル製作者はもちろん、イラストを提供している人、キャラクターの声を担当している人も著作権侵害や幇助で訴えられて、面倒な裁判に巻き込まれたり、損害賠償を請求される場合があるので注意が必要です。

出版社や著者が訴える場合は、著作権侵害(翻案権侵害)と、「本の売り上げ低下」の損害賠償で訴えてくると思われます。
前者の方はチャンネル製作者は先の弁護士アンケートの通り裁判で負ける可能性がかなり高く、また後者もある程度の額の損害賠償を支払わされる事になるかと思います。

一冊の本の動画での損害賠償額は、「再生数の1/30くらいは本の売り上げを落としているから、その数x本の代金」くらいが判決として下るのではないでしょうか。
たとえば本の価格を1500円として、再生数が9000回の動画だと45万円の損害賠償額。
再生数が多いともっと。
出版社が訴える場合は一冊だけでなく複数冊で訴えてくるのも考えられ、その場合は一回の裁判で数百万円の損害賠償の支払い命令を受ける事になるでしょう。

また、これとは別に訴えられた場合は弁護士費用が必要なので、それも別に見積もる必要があります。

出版社や著者にもよりますが、「イラストを描いていた人」や「キャラクターの声を担当していた者」に対しても著作権侵害や幇助で訴えてくる場合があります。
その場合はやはり訴えられた側は敗訴しやすく、チャンネル製作者ほどではないもののイラストレーターや声を演じた人達はある程度の損害賠償を支払わされる事になるかと思います。
これも損害賠償額とは別に裁判の弁護士費用の負担が発生します。

昨今は「小遣い稼ぎができるから」とyoutube用のイラストやキャラの声をやられる方がわりといると思いますが、本の要約系の動画の場合は絵や声をやってる人達もそういう訴訟リスクがある事は念頭に置いておいた方が良いでしょう。
 

5.訴えられるとチャンネルは消滅に


youtubeでは三アウトでチャンネルが消えるので、複数の出版社や著者から著作権の翻案権侵害で訴えられるとわりとあっさりとそのチャンネルは消滅する事になると思います。
今までどれだけ手間をかけて作ってきても、それがいきなり消えると。
 

6.弁護士がチャンネル製作者達から訴えられる場合がある


本の要約動画チャンネル製作者の中には、「弁護士に相談して問題ないとお墨付きをもらっている」と言ってる人もいます。
この場合、その弁護士は場合によっては後で相当面倒な事に巻き込まれる事にも。

先に書いた通り、出版社に著作権侵害(翻案権侵害)と賠償裁判を起こされると、敗訴してそれなりの賠償額をチャンネル製作者は支払わされる事になる可能性が高いです。
ファスト映画ほどではないものの、アップロードした動画の数がかなり多く、複数の出版社から訴訟を起こされた場合は、チャンネル製作者は数千万円の賠償金を支払わされる事も。

その場合、チャンネル製作者は残りの人生をかけてコツコツとその賠償金を支払っていくというのもあるでしょうが、何よりもまず「違法でないか相談した弁護士に対して多額の賠償裁判を起こす」というのはやってくるケースもわりとあると思うのです。

弁護士には「金を払った上で、要約動画チャンネルは違法ではないか?を確認してもらった」わけです。
そこで弁護士が「翻案権侵害になっているので、出版社や著者に本ごとにきちんと毎回許諾を取ってください」と言ったり、「本の売れ行きに影響があるので、出版社から民事で賠償裁判を起こされる事があります」や「違法ではないかどうか判断できません」と言ってたならいいでしょう。
でも、「大丈夫。違法ではありませんよ」とお墨付きを与えてしまった場合、当然その文章は記録として残るわけで、実際に動画チャンネル製作者が出版社や著者に訴えられた時は、その記録を元に今度は弁護士に対して「違法でないという判断で安心してたら、実際は出版社から多額の損害賠償を請求された」と、その弁護士に対して民事で訴訟を起こしてくる事になるのです。

もしあなたが弁護士で本の要約動画チャンネルに「法的に問題がないかどうか審査して欲しい」と相談を受けたら、「出版社や著者の許諾を得ないと法的に問題がある」や「本の売り上げを落とすと民事訴訟で賠償請求される事がある」ときちんと伝えた方がいいでしょう。

7.訴訟リスクを減らすために

本の要約動画は、上記のように出版社や著者に裁判を起こされると訴えられた側が敗訴する可能性が高いです。
今現在は見過ごされていても、これは出版社や著者の気分次第で今後どうなるかわかりません。

損害賠償額については「再生数の1/30」ではなく「再生数の1/50」とかもう少し低い見積もりでの判決になるかもしれませんが、「まったく支払わないで良い(賠償請求却下)」は、翻案権の侵害を起こしているためまず判決はくだらないと思います。
ファスト映画は現在裁判が行われていますが、「その映画の重要な部分を無許諾で公開する事で観る人を大きく減らしている」という事で損害賠償が認められるのはほぼ確実です。
この判例を元に本の要約動画の裁判でも「その本の重要な部分を無許諾で公開する事で本を買う人を減らしている」がそのまま認められやすくなり、損害賠償の判決が下るのは普通に考えられます。
本の要約動画の裁判での損害賠償請求却下は、ファスト映画裁判の事を考えるとまず却下の判決は期待できないでしょう。

著作権は侵害してもあくまでも親告罪なので、出版社や著者の機嫌を損ねないようにすれば、このまま見過ごされる事もあるかもしれません。
たとえば、一つの動画に『この本には他にも重要な事を書いているので、ぜひ一度は読んでみてください』とか『もっと色々書いてあるので是非読んでみるのをおすすめします』みたいに購買意欲を上げる事を動画内に何回も入れていると、多少は本の売り上げアップに貢献でき、出版社や著者に訴えられるリスクは下げられるかもしれません。
まぁ、それでも「やっぱり本の売り上げを落としている」と判断されると訴訟を起こされるでしょうが。

すでに本の要約動画をアップしている人達は、今から全ての動画でそういう「実際にこの本を読んでみるのをおすすめします」と購入を誘導するような部分を各動画ごとに一回ずつではなく複数回ずつ追加すると、見過ごしてもらえる可能性を多少は増やせるかも?
動画内でなく説明欄に追加しても、動画の説明欄は大半の人は見てないからあまり効果はないでしょう。
また、「すでにその動画を観てしまった人」はその動画はもう見返さないので、そういう人にも効果は薄いかもしれません。

これから作る動画については動画内で本の購入を誘導する箇所を一つの動画ごとにあちこち入れた方がまだ訴訟リスクを多少は減らせるでしょう。
(動画序盤、中盤、後半とか)

本の要約動画も著者や出版社にきちんと許諾を得た上でやっているなら訴訟される事はありませんが、その許諾は「各動画の製作開始前かアップロード毎に、毎回きちんと著者か出版社に許諾を得る」をやらないと駄目でしょう。
「昔出版社に問い合わせた」では通らないかと。
また出版社側や著者から許諾を得た場合も、後で「やっぱり許諾は取り消す」を宣告された場合は速やかに動画を消さないと訴訟をされる事になりかねません。

本の要約動画の中には、「問題があればすぐに動画を削除しますのでご連絡ください」みたいな事で出版社や著者に許諾を得ずに本の要約動画を勝手に作っているところもありますが、これは普通に「突然訴訟を起こされる事になる」ので駄目でしょう。
それが通るなら、ファスト映画チャンネルもすぐ削除すればいいとなり、訴訟で多額の損害賠償を支払わないで済む事になってしまいます。