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表紙は日本語版オリジナル/みつばちさんのティールーム/文:編集部 田代翠

 アリソン・ジェイは、あたたかみのある絵が人気のイギリスの絵本作家。徳間書店からは現在5冊の絵本を出しており、なかでも『くるみわりにんぎょう』は、刊行以来、多くの読者に愛されています。最新刊は、2022年3月に刊行した『みつばちさんのティールーム』。アメリカの作家ヘイリー・バレットが書いた文章に、アリソンが絵をつけ、アメリカの出版社から出版された絵本です。

 登場するのは、みつばち、アリ、テントウムシなどの小さな虫たち。みつばちさんは、お菓子やお茶を楽しめるティールームを開いています。おいしいお菓子が評判で、開店前から行列ができるほど。みつばちさんを手伝ってキッチンで働くのは、テントウムシたちです。

 ところがある日、さわやかなそよ風にのってやってきたものすごい数のテントウムシに誘われて、キッチンのテントウムシがいっせいに飛んでいってしまいました。お菓子が作れないどころか、キッチンはめちゃくちゃに。困ってしまったみつばちさんを助けてくれたのは…? パステルカラーで描かれたケーキやエクレアなどのお菓子の絵のかわいらしいこと! ティールームの内装やティーセット、小さなお客さんたちの服装などの繊細な細部も魅力的です。

 この本のことを知ったのは、2020年秋。以前から交流があったアリソンから編集部に、「こんな本が出ました」とメールが届きました。原書を取り寄せ検討した結果、日本語版を出すことになりました。

 ところで、英語版の表紙には、みつばちやお菓子が大きくアップで描かれているのですが、この本には、英語版に採用されなかったもうひとつの表紙の絵があることがわかりました。「不採用」だったその絵には、ティールームの外観が描かれていて、エレガントにおしゃれをしたアリたちがお菓子のウィンドウをのぞきこんでいます。繊細でかわいらしく、日本の読者には断然こっち! と思い、アリソンにその絵を使ってもいいかどうかたずねると、快諾してくれました。ただ、印刷用データがないとのこと。絵をスキャンする必要があります。

 そんなやりとりをしているうちに、年が明け、世の中はパンデミックに…。原画はロンドン郊外に住むアリソンのところ。アメリカの出版社は、絵のデータ化は普段はシンガポールの印刷会社に頼んでいる、といいます。コロナ禍で郵便事情が不安定ななか、日本にしろシンガポールにしろ、イギリスから原画を輸送してスキャンするのは、紛失の恐れがあり、現実的とは言えません。

 頭を悩ませるうちに、以前から交流のある、信頼できるイギリスの編集者のことを思い出しました。そこで、原画を一枚だけスキャンして印刷用データを作ってくれるイギリス国内の会社に心当たりがないか聞いてみると、幸運にも腕の良い会社を紹介してもらうことができました。こうして日本語版で使用する表紙の画像データを作成できたのです。

 日本語版オリジナルの表紙が実現したのは、作者を含め、人とのつながりのおかげ。かわいい本なので、たくさんの方に楽しんでいただけたらと思っています。 

『みつばちさんのティールーム』
 
ヘイリー・バレット作
 アリソン・ジェイ絵
 蜂飼耳訳


文:編集部 田代 翠

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2023年7・8月号より)

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