track 13 「俺の保健室へようこそ」
小虫が。
市立宝町高校の直線型校舎一階、昇降口直ぐの保健室を訪ねたなら詰まり、そういう事だ。
引き戸を開け放つ前に既に、目蓋から裂き始まり頬まで届く裂創を、嵌まるもののない眼窩を、恥を叩き売るみたいに曝していた。
肩掛けの詰襟も仮初め、右肩留めにした襤褸布に包ませたなら躯は、生きた心地を取り戻す。
半歩引いた右足に体重を預け、財政難に喘ぐ地方都市の町興しイベントに出席中のゆるキャラみたいな気怠げな立ち姿勢、或いはその脱力状態こそが臨戦態勢、しなりうねり鐘の鳴るなら即座に打ち躱す。
「やろうぜ、真月」
事務机に向かい作業中の白衣の男に呼び掛けながら背の剣を抜き身に晒す、柄を握る感触が脳の髄を沸騰させる。
「鈍ってるなんて言わせねえぞ」
詰まりそういう事だ。
そういう事ならば、と口にする代わりに螺子を軋ませ、捻った上体を腰に追い掛けさせるようにして椅子に座したまま振り返った養護教諭の真辺月生。
いやさ小虫と向き合ってただ二人きりの空間に在ったなら、その名は、真月。
優雅な鼻筋、妖艶に光を放つ切れ長の目、溢れ出る清潔感。
大きく溜め息を吐き、おもむろに腰を浮かせて立ち、傍らに在った人の、骨格標本の左上腕骨を外す。
「ちょっと貸してくれるか、佐藤くん」
「名前付けてんのかよ」
「唯一の話し相手だからな。その感謝と愛の証明さ」
「ちょっとなに言ってるか分かんねえや」
軽口こそ準備運動、そうして互いに、仕掛けるべき呼吸の隙間を伺う。
「見せてみろよ、佐藤くんの実力」
「隻眼が。見極めるなどとうそぶくな」
先に仕掛けたのは小虫、矢を射ると同じ要領、半歩引いた右足の位置まで左足を下げると同時に大きくそれを踏み出す、半拍の後に垂下していた右手を、瞬時に逆手に持ち替えた剣を、横殴りに振り抜く。その遠心力に身を任せて反時計回りに回転、右の回し蹴りを放つ。
切っ先の流れる先に体を入れながら佐藤くんの左上腕骨で下から小突き、彼のものの剣撃に縦方向の運動を加える、その乗算が影響し、続く蹴撃は狙ったであろう軌道を逸れ躱すまでもない方向に風を起こす。
悠然と、小虫の背後を取った真月が勝者の取り分として遠慮のない手付きで尻を撫でる。
「鈍ってないなどと、どの口が抜かした」
「へっ。へっへっへ」
頬を醜く歪めて笑み、小虫が剣を背の鞘に収める。真月が後方に飛び退く。
「やっぱ殺す気でやんなきゃ駄目か」
真月に相対し、外套代わりの襤褸布を自ら剥ぎ取り、左の腰に帯びていた長さ一尺の小脇差を抜く。直立の姿勢のままその場で三度四度、身を伸ばすように大きく飛び上がり体躯の全部の発条に目覚めを促す。
「片端になってから身に付けた力、見せてやるよ」
「凡人は憐れだな。なにかを犠牲にしなければ強くなれない」
「人間を捨てた事を後悔して俺に泣きついてきたの、何処のどいつだこの間抜け」
小虫が。
保健室に真月を訪ねたのなら、詰まりそういう事だ。
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track 13 「俺の保健室へようこそ」
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三階南端、音楽室。
室内を見渡し、底なし沼の隣で出初式をするみたいな危なっかしい理論で以て自身が、デジタルアレルギー持ちではない事を訴えている二年生の青空勇希、通称空希の姿を見付けた小虫が、その名を呼んで言わば戦果たるを放って寄越す。
「お前に倒れられちゃ男子寮は回らねえからな。貼っとけ」
空希が受け取ったそれは冷感ジェルシート。朝、男子寮を出てしばらくの道のりを住人同士が団子状になって歩いている際、頬の紅潮を指摘され、ほんのり熱っぽいと漏らしたその言葉を小虫が気に留めていたというそれは紛れもない証左、空希はまんまと感激する。
「これはもう効果覿面に元気になるやつだね」
二人のその遣り取りは、冷感ジェルシートに解熱効果のない事実はさて措き、普段なら微笑ましく映る類いのもの、だがしかし、小虫の唇の右端は裂け、右目を覆う黒革の眼帯の下に青痣の広がっている模様、芯からの熱に肌は上気し、息遣いは性交の後の如し、詰まりが全体、不穏当だ。
室内に動揺が伝播する、察しのいいものは自らの想像に戦慄く。
或いは一年生の死屍毒郎、通称死郎は昏く微笑み、感情の飛び出さないようにするみたいに掌で口元を覆った三年生の神代国見は、心を平穏に保つべく、窓の外へと視線を逃がす。
手近な椅子を引き寄せ、身体を投げ出すように腰を下ろす。小虫が、小龍包虫男を名乗る際の言わば小道具たる詰襟、肩に掛けたそれの下に開襟シャツの白と領地争いをするみたいなどす黒い染みの、見えては隠れる。
小虫が口を開く。
「それでよ、ちょっと手元が狂って自分で右の脇腹、やっちまってな。ここに上ってくる途中で気付いたんだよ」
果たしていよいよ、皆の悪寒に名前をつける。
「誰か、保健室に行って包帯を分けてもらってきてくんねえか」
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「じゃあ僕が。湿布もらってきてくれたお礼に」
言いながら腰を浮かせ掛けた空希を、一年生の山我轢、通称我轢が疾風を巻きながら手で制す。だが、続く言葉が出てこない。
「どうした我轢、代わって俺がと手を挙げねえなら空希を止める権利はお前にはねえぞ」
唇の端で頬を醜く歪ませた小虫の、遠慮のない挑発。
「俺は。行かない」
「勝算がない、だから行けないの間違いだろ」
小虫を高い壁とすると真月は雷雲、せめて拳を掠めようと奮闘するも届かず、挙げ句に強烈な一撃を喰らい挑戦は終わる。
「俺は行かない。だけど空希も行かせない」
うつむいて答える我轢の、しかし声には固い決意の滲み出る。
「まかり通ると思うか、そんな我侭」
いつか小虫を喧嘩で負かす事が我轢が掲げる目標の一つ、だが、近付くべく稽古を重ねるほどにそれは遠ざかる。
「あんたと刺し違えてでも空希は行かせない」
命あっての物種、それが我轢の、現段階で出し得る回答。
「へっ。へっへっへ」
上機嫌に小虫が笑う。
「その冷静な判断に免じて見逃してやるよ」
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次の立候補者は一年生の千葉今日太。
「じゃあ俺が行ってくるスよ」
だがしかし。
「お前なんか真月が相手にする訳ねえだろ。弁えねえ馬鹿は最底辺の馬鹿だ、死ね」
にべもなく小虫に瞬殺される。
今日太は、夏祭りの日程を誤認したまま浴衣で出掛けてしまった帰路みたいに、うなだれる。
「す、すいませんでした」
そのしょんぼりとしたムードを土俵から押し出すみたいに国見が発言。
「ま、俺は喧嘩はからきしだから候補から外れるとして」
その場に居合わせている面子を改めて見回す。
「死郎も、目的が設定されてるとそっち優先で正面突破は避けるタイプ、今回の趣旨には、ま、合わないし」
爪楊枝で引っ掻いたような糸目で以てそれぞれを値踏みしていく。
「松理も、ま、喧嘩のイメージはないな」
一年生の三塚松理。
「口喧嘩なら覚えありますけど話通じないじゃないすか、あの人」
「円将は。ま、人間相手は興味ないか」
同じく一年生の六神円将。
「と言うか校内で目上の人間に殴り掛かるという状況になんか、気後れ感じますね、渡り合えるかどうか以前に」
「意外と常識人だったか、ま」
次に、三年生の清渚水流、通称清流と目が合うが、即座にゆっくり、彼は頭を左右に振った。
「ま、ですよね」
生徒会長という立場故の固辞か、無益な争いとの判断か、いずれ清流のそれは聡明さの表れ。
さて。
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男連中のその様子を眺めながら二年生の楪真白が、三年生で副生徒会長の波乃上花澄、通称花乃に耳打ち。
「あの、これ、どういう話ですか」
「うん、だから誰が真月先生の生け贄になるかって。別にその必要も全然ないけど、いつもの事だけどそれも」
「生け贄ですか。穏やかじゃないですね」
「あれ、真白ちゃん知らなかったっけ、保健室には近寄るなって話」
「初耳です。お世話になる事もあんまないんで」
「さすが健康優良児」
詰まり、養護教諭を務める真月という男は少年少女の尻に対し異常な執着心を持ち、保健室を訪れるものを容赦なく、腕尽くで、その毒牙に掛け自らの欲望を満たす事に一切躊躇わない怪物だと言うのだ。
「そう言えば前は皆さんが居た孤児院に務めてたんでしたっけ、真月先生も」
「そ。だからまぁそれなりに知ってる、みたいな」
「ダイソンの扇風機みたいな印象あったんですけど。そんな裏の顔が」
「裏じゃなく表、真月先生は誰も騙してないの、皆が騙されてるの」
「理想とか偏見のフィルター掛けて人は人を見がちっていう、あれですかね」
とは言えコンプライアンスが叫ばれる昨今、然るに自らの立場を利用して断り難い状況を生み出し、破廉恥行為を強要する人非人が大手を振り存在しているなどファンタジーも過ぎる無理筋、そう考えた真白が、傍から見れば無知なるの無茶と言う外ない行動に出る。
「じゃああたしが行ってきますよ」
制止も予測し、させる隙も作らず音楽室を飛び出してしまう。
或いは退屈な時間を僅かでも愉快に過ごすべくの座興、お遊び、悪ふざけ、それが彼らにとって予想外に展開してしまった今こそ好機と、花乃は、ポタージュ缶の底に残るコーンみたいに粘り強いじっとりした目付きで以て、膝裏を小突かれたみたいにあたふたするばかりの男連中を睨め、非難したのだった。
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果たして。
保健室に踏み入っての先ずの洗礼なども当然のようにありはせず、真白は、自分の考えが正しかったのだと安心する。
音楽室がざわついた、保健室帰りの小虫の様子と、花乃の証言とを擦り合わせて考えればつい十数分前に控え目に見積もっても取っ組み合い程度の争いが行われた筈、だが室内に荒れた様子は見られない。
「確か君は」
「二年生の楪真白です」
「音楽室に入り浸ってる連中の一人、だったかな」
「そうなりますか」
当たり障りはないが会話も成立する、ならば或いは事実がところを面白可笑しく無責任に膨らませたれんじゅうの大袈裟な物言いなどは気にせず、端的に用件を伝えたとて、それが不用意などと真白は思いもしない。
「あの、包帯と、あれば滅菌ガーゼも分けてもらえませんか」
「なるほど」
真月は言った。
「俺の保健室へようこそ」
と。
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「紹介しよう、彼が佐藤くんだ」
骨格標本、その左上腕骨に包帯が巻かれている。
「なんか、由来があるんですか」
真白は。
「勘違いをした人間が多くうんざりしてるんだが俺は、少年少女の尻をおもちゃにしたいのではない、撫でるべき尻を撫でるべき時に撫でているに過ぎない」
「佐藤くんの。なんで佐藤くんなのか、とか」
真月と対峙をして初めて理解した。
「詰まり君の尻は俺が撫でるに足る尻かどうか、今からそれを考えようか」
そもそもが考え方の時点で既に間違っていた事を。
「或いは君の尻を俺が撫でる理由を一方的に話す事になるかもしれないがね」
自分がれんじゅうの内の一人として保健室を訪ねた積もりだったが、実相は、れんじゅうの内の一人を保健室に訪ねた形。
そしてだいたいがれんじゅうというものは、てんで話が通じないのだ。
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話が通じないなら話を通さなければいいだけの話、だが、厄介な事に真白からすると真月は話せば分かると思わされる相手ではあった。
小虫が負った外傷の処置の為に必要なもの、それを当人に代わって調達するべく保健室を訪れたと言えばそんな君の尻こそ撫でるべき尻だと返される。
腕尽くで強要するなど如何なものかと詰めれば相手の出方次第、腕力にものを言わすか言葉を尽くすか対応を変えていると言う。
そもが何故、尻に固執するのかと問えば尻に拘泥しないものの心の荒廃こそ憂い、看過すべきでない事態と説かれる。
五里霧中、思考の迷路を自分は彷徨っていると真白は認識する。脳裏に浮かぶれんじゅうの姿がまるで走馬灯。
醤油を垂らせば大抵のものは食えるだろ、と小虫が微笑む。
はち切れんばかりのペニスをどうぞ、と円将が白い歯を見せる。
だってあいつらが馬鹿だからですよ、と松理がほくそ笑む。
ま、死んだネイティブアメリカンこそ好いネイティブアメリカンてとこか、と国見が口角を持ち上げる。
すっごい美味しいんだよフルーツパッフェー、と空希が目尻を下げる。
だいたいが話が通じないれんじゅうが相手ならば或いはまた視座も別、尻を撫でられた事実が違う形に映る可能性がなきにしも非ず、詰まりが尻を撫でられながら尻を撫でられていない世界線に在り続けて破綻のないのではないか。
れんじゅうの幻に誘われた先、隠されていた解決に続く扉を押し開くべくにその前に立ち、真白がゆっくり、そして大きく、深呼吸をする。
果たして気付く、その扉は後悔に続く罠だと。
詰まりそもそもの誤り、尻を撫でられずに済ます方法を考えるという事は即ち尻を撫でられるを前提としているも同然、詐欺師とその被害者の立場を同じくして双方に過失を見出させようとするそれは詭弁に過ぎないのだと。
購入ボタン押下前の精神統一こそがやはり安物買いの銭失いの回避に働くのだと。
「でも、無理に人のお尻触ったりしたら罰せられますよ普通に。だっていけない事じゃないですかそれって」
斯くも正論を、言って退けて真白は人の目を真っ直ぐに見られる人間だ。
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「先に、言った筈だよ」
と、真月。
「俺の保健室にようこそとね」
法による裁きも、社会通念による判断も、常識による指摘もしかし受け付けないその場所は治外法権により成り立っている。
「詰まりそういう事さ」
なんと乱暴な理屈かと真白が呟く。
「だってここ学校ですよ、校内ですよ」
「どこにも属さない、なににも阿らない。俺の保健室とは俺の保健室だ」
「窓の外に見えてるじゃないですか、校庭」
「目に映るものをそのまま信じるなら真白くん、君を盲と呼ぶ他なくなるね」
真月の表情が促すままに真白が窓を開ける。治外法権と言ったその言葉の意味が分かる。窓の外には星の海が天地の境なく、広がっていた。
「さて、尻を撫でようか」
窓を閉める、そうしてサッシが縁取ればその向こうには校庭が現れる。窓を開ける、今度は幅の狭い渓流の風景があってそれが猛スピードで後方に流れていく。
「愛を囁いて欲しくば夢見心地にもしてやろう」
窓の外に時空の歪みがあるなら扉を開けて逃げ果せるかも未知数、それでも尻を撫でられる訳にはいかぬのなら一縷の望みを託し保健室に踏み入る際に潜ったそれに、意識を向けたまさにその時。
念ずれば通ず。
奇蹟が起きた。
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廊下側から扉を開けた彼女は教諭、名は四菱綾子。擦れ違う誰もが目を奪われる尤物だが愛想笑いは不得手な難物。
「ちょっと腰やったっぽくって曲げようとすると辛くって。湿布とかってありますよね」
「もう一つ、誤解を解いておくなら俺が撫でるべき尻は少年少女の尻に限られる訳ではない。四菱綾子、君の尻もまた俺に撫でられるべき尻だ」
「そういうの要らないんで、湿布だけくださーい」
「宇宙規模で見た時に尻を撫でる行為が如何なる作用を心にもたらすか、君も見てみたいと思うだろう」
「思わないんで湿布だけ寄越しやがれくださーい」
四つ角の、三方向から同時に待ち伏せしていた男が飛び出してくる、話した事もない男がペットボトルで自分の頭を叩きながら死んでやると目の前で喚き散らす、三年前から貴女の為に貯めていましたとTポイントカードを渡される。
詰まりが暴力、それに綾子は晒され続け、今もその歴史の上を歩んでいる。持って生まれた美貌が徒、無価値とまではさすがに言わぬがそれによりもたらされた人として扱われぬ事態の連続は、確実に彼女を蝕んだ。
果たしていつしか身に付けていたスルースキルは彼女を健全に育んだ。ふーんなにそれ美味しいの、と治外法権の虎挟みを踏んだとてものとしない、それは胆力。
発条仕掛けの、お茶を運ぶ人形みたいに裏腹な表情とで以て真月が差し出した湿布を、奪い取った綾子を目眩ましのベールにするみたいに彼女と動きをシンクロさせて真白は、保健室からの脱出を成功させる。無論、綾子が真月に圧を掛けていた隙を縫い、包帯を入手していた。
「お陰様でとても助かりました」
「あなたは確か」
「はい、二年生の楪真白です」
「小虫くんとこの一味の、内の一人だったかな」
「そうなるんですかね。どうなんですかね」
或いは保健室に踏み入って、設定された目的をやり遂げて、そして無事に逃げ果せたなら胸を張ってもいいのかも分からない。
「確かに、フルーツパフェも好きですけどね」
と。
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そうして真白が、音楽室へ帰還し、ちょいと得意気な表情などを浮かべて見せながら言わば戦利品たるの包帯を小虫に向けて投げて寄越すと、どよめきと、続けて称賛の声が上がる。
それも落ち着くと今度は当然のように皆が疑問を抱く、直接当人に訊いて差し支えがないかどうか、その判断に困る内容の。
詰まり。
尻を。
撫でられたのか、撫でられなかったのかだ。
「あの、真白さん。訊いていいスか」
それを感取した上で真白は。
「やっぱいいっスなんでもないス。ほんとすいませんなんでもないス」
ただ、微笑むだけだ。
('22.12.24)
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